一大ブームを巻き起こした少女漫画
今から十年以上前、社会現象になった少女漫画
『天使なんかじゃない』『ご近所物語』で知られる矢沢あいは、長年『りぼん』で連載していた少女漫画家だった。
その矢沢あいがりぼんの増刊号『Cookie』に乗せた読み切りが、『NANA』の第一作目である。
今までの矢沢あいの少女漫画とは方向性を変え、『NANA』は大人寄りの話になっている。若い世代の恋愛や苦悩、成功と挫折を描いた作品となっていて、一概に恋愛モノなどと区分することは難しい。
『NANA』の冒頭は、小松奈々と大崎ナナ、同時に上京した二人が、ひょんなことから同居生活を始める、という物語になっている。
映画やアニメになり、メディアでも盛んに取り上げられたことから、世間の認知度は相当に高い。当時主役二人の同居生活に影響されて、友人と共同生活を計画する若い女性も多かったという(そして当然漫画のようにうまくはいかず、喧嘩別れしてしまうというケースも多かったという話だ)。
とはいっても、影響された女性たちが軽率だったと一概にバカには出来ない。
序盤の『NANA』は、小松奈々をメインに、金銭面のやりくりや就職活動の失敗、バイトを転々とする暮らしなど、上京生活の楽しさと苦労が描かれ、とても共感できる内容になっているからだ。
奈々は調子に乗りやすく、流行にすぐ流される等身大の女性で、「110円を出せば自販機のコーヒーは飲める。でも、可愛いカフェでお茶をしたい」などと”理想があるのにうまくいかない”ことをよく嘆いている。若い女性がぶち当たりがちな壁を、矢沢あいは奈々の目線に立って描いているのだ。
また、もう一人の主人公であるナナは、性格故か金銭面での悩みはなく、淡々と生活している。そのナナが主役になるのは、奈々ができちゃった結婚をした後のことになる、
音楽活動をするなかで、恋人のレンとの間に出来た溝を感じ、もがく苦しむようになるナナ。自分の生きる道だと決めた音楽に真摯に向かっているが故に、思い詰め、過呼吸を起こすまでになる。”仕事”や”好きなこと”に一生懸命になりすぎて、身心にまで変調をきたす。これも、経験がある人が多いのではないだろうか。
ジャンルの枠組みを払い、徹底的なまでに女性の共感にこだわり、成功した作品。それが『NANA』なのである。
それは愛なのか狂気なのか 等身大の男女関係
『NANA』は恋愛モノというジャンルには落とし込めないと先に述べたが、物語は二人のNANAの恋愛が軸となっていることは確かだ。
しかし、一般でいう惚れた張ったの世界の恋愛モノとは『NANA』は一線を画している。
何故なら、奈々は恋愛をしないと生きていけない体質で、ナナはレンのことしか考えていないからだ。
まず、奈々について言及しよう。
奈々はとにかく惚れっぽく、ある程度気が知れた相手なら、一度は彼氏にしてもいい、と思っている女性だ。できちゃった結婚をすることになる相手・タクミが現れるまでに、タクミを含めて四人の男性と付き合っている。
基本的に人と過ごすことが好きな奈々は、男性にも惚れっぽく、恋愛依存体質で、人によっては”尻軽”と思うかもしれない。妊娠に至る経緯も身勝手で思慮が足りず、恋愛モノの主人公というにはあまりに生々しく浅はかに見えてしまう。
一方、ナナはレンを一途に想っている。レンを追い、東京へ来て、また復縁することに成功した。奈々はナナとレンの”恋物語”を、神聖視しているほどだ。
だが、シンはナナの愛を狂気だ、と語る。レンの首の鎖も、蓮の入れ墨も、互いを束縛する行為でしかない。これらの行為を”普通は怖いよ”と語るシンの言葉は、奈々と同じ見方になっていた読者の目を覚まさせた。
ナナの気持ちは愛などという夢物語の単語ではなく、もっと情欲にまみれたおぞましい感情なのではないか。それを受け入れてるレンも、ナナの全てを肯定している訳ではない。むしろ二人は、家族や子供について根本的に意見が食い違っている。二人を結び付けたはずの音楽についてもほとんど触れていないのも気になるところだ。
家庭愛には繋がらず、同志愛でもなく、ナナとレンを繋げていたものは獣めいた情欲でしかない、と思ってしまうのは筆者の考えすぎではないだろう。
もちろん、この関係性をして呑気に”恋愛モノ”といえるような人間は少ないはずだ。
気になるのが結末だが、休載は続いている
ナナとレンの歪んだ愛は、最悪の悲劇に繋がっていく。奈々とナナが今後どうなってしまうか、本編の未来が随所に挿入されるだけあって、読者は想像を巡らすのに忙しい。
髪が真っ白になったナナ、奈々の二人の子供とタクミとの不仲、奈々とノブとの関係など、気になるところはたくさんある。
しかしながら、『NANA』はすでに7年近くも休載している。早く結末を知りたいところではあるが、作者の体調不良となればそう急かすことも出来ない。
ファンとしては、ここまで人気が出た作品である以上、風呂敷を全て畳んで、作者の考えた結末を世に出してほしい、と願うばかりである。
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