桂正和描く最高の変身ヒロイン
ラブコメ&変身ヒーロークリエイター・桂正和
『I"s』、『電影少女』、『ZETMAN』、またはアニメ『TIGER & BUNNY』のキャラクターデザインで知られる桂正和のイラストを、全く見たことがない読者は少ないだろう。
1981年のデビュー以来、第一線で活躍し続ける桂正和は、漫画家という枠にとらわれず多方面でその才能を発揮している。
漫画の他に、鳥山明とのコラボレーション短編や『牙狼 -紅蓮ノ月』のキャラクターデザインを担当するなど、著名な作品・クリエイターと接点が多いのも、その実力が評価されている故だろう。
桂正和は、特にラブコメと変身ヒーローにおいて他の漫画家の追随を許さない。『I"s』は週刊少年ジャンプにおけるラブコメの立ち位置を確約した作品であるし(『いちご100パーセント』や『TOLOVEる』も『I"s』の後の連載である)、第一部が連載終了した『ZETMAN』は主人公・ジンと高雅がそれぞれZET、アルファスという変身ヒーローになる漫画だ。映画もされた『TIGER & BUNNY』は各ヒーローとスポンサー企業のコラボした衣装が話題を呼び、若い世代に桂正和の名を知らしめた。
その桂正和の持ち味であるラブコメ、変身ヒーローが見事に合わさった作品がある。それが『SHADOW LADY』だ。
なぜ桂正和の描く少女はこんなに可愛いのか
『SHADOW LADY』の物語は非常にシンプルだ。美女怪盗・シャドウレディがお宝を求めて夜の街を大胆に駆け回る。自分を追う若き刑事に、シャドウレディ=小森アイミは恋してしまう…と、全体的に『CAT'SEYE』を彷彿とさせるストーリーになっている(ひょっとしたらこれが短命に終わった理由かもしれない)。
だが、シンプルなストーリーが必ずしも駄作になるとは限らない。むしろシンプルで入っていきやすいストーリーだからこそ、安心して読者はついていけるという長所もある。
『SHADOW LADY』はまさしくその長所が活きた作品で、ひねりのない真正直なストーリーを前提にしたうえで、警察を気ままに翻弄するシャドウレディの姿は爽快そのものだ。普段の小森アイミが臆病でおとなしい性格だからこそ、抑圧された生活から解放される快感をよく描けている。
また、何よりシャドウレディのビジュアルに専念できるのがいい。桂正和の描く女性は問答無用に可愛らしくエロティックで、表情もスタイルも文句なしだ。時に可憐で、時にセクシーなシャドウレディは、男性読者からも女性読者からも受けいれられるヒロインに仕上がっている。アイシャドウという化粧道具を塗って変身し、塗る色によってスタイルが変わるという点も、女性が好きな変身ヒロイン(例えばプリキュアやセーラームーン)のセオリーに乗っといて嬉しいところだ。
ヒロインであるシャドウレディはもちろんのこと、シャドウレディの正体=小森アイミも可憐で可愛いし、シャドウレディのライバルであるスパークガールも、シャドウレディとは対照的な魅力を持つ美少女だ。
とにかく桂正和の描く美少女にハズレなし、と世に知らしめた作品。それが『SHADOW LADY』なのである。
男女問わず好きになる『SHADOW LADY』。なぜ短命に終わったのか
男性読者・女性読者問わず人気が集まりそうな『SHADOW LADY』であったが、コミックスはなんと3巻で終わってしまう。
これは本当に残念な結果で、またしてもジャンプ特有の打ち切りとバトルへの方向転換が足を引っ張ったか、と筆者は訝しんでいる。
『SHADOW LADY』は、正体がバレるかバレないかのギリギリのところでシャドウレディと刑事・本田ブライトが距離を詰めていくラブコメ路線が面白かったのに、急に魔石を巡るバトル展開になってしまった。魔石を盗む過程では怪盗であるシャドウレディの持ち味がいかせず、しかも途中から明らかに端折られてしまい、最後は打ち切りとして中途半端に終わってしまう。
そもそも魔石や魔界警察といった唐突なファンタジー要素に、多くの読者は困惑したことだろう。シャドウレディの変身アイテム・マジックシャドウも、相棒のデモも、実は伏線だった言われればそれまでだが、おそらく多くの読者はそちら(ファンタジー要素)への広がりは期待していなかったと思われる。
一話くぎりの短編で登場するお宝を、どうやってシャドウレディが盗むか…という話だけで、もっと面白く出来そうな気がするだけに、これは本当にもったいない。例えば『ルパン三世』や『MASTERキートン』など、めぼしいバトルやファンタジー要素がなくてもエピソードの集まりだけで作品が長続きする例もあるだけに、本当に惜しいと思うばかりだ。
思うに、『SHADOW LADY』は掲載する雑誌を間違えたのではないだろうか。先にも述べたように、『SHADOW LADY』は少女たちからも支持される要素が詰まっている。いっそ少女誌で連載すれば、もっと長生きし、桂正和の表題作になっていたかもしれない。
でも、そうしたらエロティックな描写は削らなきゃいけないよなぁ…と思うと、本当に難しいところではあるが。
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