OUT~妻たちの犯罪~
テーマによるリアリティ
この物語は、どこにでもいるありふれた主婦たちが
通常では考えられないような犯罪に手を染めていく、というものだが
それだけ聞けば、比較的ありふれたテーマ・構成の物語といえるかもしれないが、
この作品はちょっと、一味、違う。
主人公とその関係者(のちに犯罪共犯者となるのだが)たちは、
「弁当工場の夜勤勤務のパート従業員」という、
私たちの現代社会では確実にリアルに存在していて
その現場では実に多くの人たちがその仕事に従事しているであろうけれど
自分か自分と関わりのある者がその仕事に関係していない限り
日常の中でなかなか目にすることはない、という
「非日常」と「日常」を絶妙に融合させている点。
次に、一番インパクトがあるのが、犯罪の内容。
単なる殺人とか、殺人の特殊性とかではなく、
「死体を家庭の風呂場で解体して生ごみとして捨てる」というもの。
ここでも、「死体解体」という「非日常」と
それが行われるのは「自宅の風呂場」という「日常」が
絶妙に融合している。
また、
最初はまさか自分がそんなことをすることになるなんて・・・と
その罪深さに恐怖していた主人公たちも、
やがて金銭や個人的事情が絡み合い、
「死体解体」を闇仕事として請け負うようになる。
その過程の複雑な心理描写や、
犯罪に手を染めざるを得ない展開が実にリアルで、
一番の見どころと言えるのでは。
その舞台背景ゆえか、ドラマとしての「ありふれた感」は一切ない。
むしろ、すごく斬新といってもいいような。
だからこそ最終的には、背筋のどこかがぞっと寒くなるような体感とともに、
「どこにでもいる普通の主婦の信じられない犯罪」という、
なんとも嫌な「リアリティ」の妙味を感じさせるのである。
犯罪理由のリアリティ
まず、主人公を含めた犯罪共犯者の主婦たちは、全部で4名。
主人公の雅子、ヨシエ、弥生、邦子。
雅子は相当に冷静沈着で、人を含め物事の全体像を常に把握できる視野の持ち主。
だからこそ普段からみんなのリーダー格でもあり、慕われている。
ヨシエは雅子の良き相談相手でもあり、
他の2名に比べたらまだ冷静に物事を見れるともいえるけど
少々感情や環境に流されやすい面もある。
弥生は根っからの楽観主義者で甘ったれ。
自分が衝動的に夫を殺してしまい、困った後処理を
雅子たちに頼んでいる立場もどこへやら。
邦子は私生活から何事においてもだらしがなく、
自分の目先の欲しか見えていないような自堕落な生活。
これだけなら、よくある性格の違うキャラクター、といえるかもしれないが
全員に共通して言えるのが、
「今の自分自身の境遇に満たされていない」という、
「圧倒的な欠乏感」を抱えている、という点である。
雅子は冷え切った関係の夫と息子、
ヨシエは姑の介護と貧乏生活、
弥生は夫のDV、
邦子は借金、、。
4人の主婦たちは、
自分たちの抱えるこれらの「欠乏感」で繋がっている、
といえるのではないか。
これらの欠乏感は、現代に生きる私たちにとっても、決して他人事ではない。
私たちの日常ではとても身近で、どこにでもある「社会の闇」ともいえる。
人の繋がり方には色々ある。
喜びで共鳴して繋がる場合もあれば
欠乏感や不平・不満を分かち合うことで繋がる場合もある。
どちらが良いとか悪いとかの問題ではないけれど、
人は欠乏感でいっぱいになると、
こうも簡単に犯罪に堕ちていくのだ、ということと
欠乏感や不足感などで絆をつなぐ関係性が
ひとたび坂道を転がり始めたら
どうやって破滅に堕ちていくのか、ということを
まざまざと実感させるリアリティが、
そこにはあると言えるのではないだろうか。
役者陣の起用のおもしろさ
個人的に、「え、この役者さんがこんな役をやってるの?」
と思うようなキャスティングがちらほら。
ヨシエの寝たきりの姑役に、冨士眞奈美さん。
私はそれまで彼女といえば、
「綺麗で元気の良い女優さん」というイメージだったので
まさかあんなみすぼらしい、なめくじアパートで
寝たきり介護を受けてるおばあさん役などとは・・・
同姓同名の違う役者さんかと思ったくらい。
でも、すさまじくド・ハマリしていた名演技だった。
それと、日系ブラジル人役の、伊藤英明さん。
私は当時、このドラマで初めて彼を知ったのだが、
まさか日本人だとは思ってなかった(笑)
のちにこんなに名俳優さんになるとはつゆ知らず(すみません)、
でも、日系ブラジル人でまったく違和感なかった、ということは
やはりとても名演技、ということだろう。
カタコトの日本語、よかった。。
日本に不慣れで所在なさげなたたずまいも、絶妙。
まさかのラストシーン
第一話から終始一貫して、
人の心の闇、社会の闇を、
絶妙なリアリティを持って、細かく描写してきた作品。
この作品全編とおしてその特徴をひとつあげるなら
個人的に私は「リアリティ」と言いたい。
もともと心理描写や物事の背景をリアルに描く作品が
個人的に好きなので、ついついそういう作品ばかり
好んで見てしまうのだけど、
この作品はかなり好きな方。
だのに、だのに、それだのにーーーーー!!!!
なんなんですか、あのラストシーンは!!!!
主人公の雅子は単身ブラジルへ逃避行。
それはいいさ。
思いっきり舞台セットやーーーーーん!!!!
1999年放映だから、今から約16年ほど前の作品、、、。
その当時の映像技術だからなのか・・・
悲しいくらい、舞台セット、モロバレ。。。
え、ドリフのコント、ですか?
舞台セットのチープさが気になって
まともにセリフ入ってこない、っつーの!!(笑)
今までがあまりにもリアルにシリアスだっただけに、
まさかのラストのオチに唖然。。。
それまでの、あまりに陰惨で悲惨で
観ている方まで気持ちがドス黒くなるリアリティを
最後の最後に持ってきた「非リアル」で笑いに変える・・・
まさかそれが実は一番の狙いだった、、、とか・・・??
なんてな(笑)
予算・・・・足りなかったのかな・・・。
そんな「リアリティ」も、良い味、出してるといえるかも。
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