繰り返し見ても面白い『スウィングガールズ』
洋画に比べ、邦画の状況は険しい
読者諸兄は、映画ならば洋画・邦画どちらを観ることが多いだろうか。
おそらく邦画作品と答える人は少数派になるだろう。近年、邦画は目に見えて低迷している。興行収入といった数字の部分も、また話題性といった数値されない部分においても、残念ながら邦画は洋画には遠く及ばないといえるだろう。
俳優の演技力の低さ、宣伝広告費の不足。要因は様々あれど、帰結するのは「つまらないから」というたった一つの事実だ。
物語に緩急がない。役者の演技がそれを補えず、むしろ誰がやっても同じ演技に見える。そんなものに、2000円近くの大金をはたいて観にいこうとは思わない。まして今やレンタルやネット配信などでいつでも手軽に見れるのだし…。
と、邦画に対する世間の風当たりはかなり強いが、それでもたまに何度も観たくなるような傑作が生まれてくる。
『スウィングガールズ』も、その一つだ。田舎街で吹奏楽を始めることになった高校生たちの青春物語である。
しかしそのメインのストーリーもさることながら、『スウィングガールズ』はところどころに置かれたコミカルシーンやダイアローグが大変に面白い。次項からは、その辺りを詳しく考察していこう。
『スウィングガールズ』が何が面白いと感じさせるのか
『スウィングガールズ』の魅力は多く、脚本、ストーリー、音楽、配役、全てに二重丸をつけたいほどだ。
だが、あえて取り上げるとすればーーまず第一に、田舎訛りが大変にユニークであることを提示したい。
作中登場する方言はロケ地たる山形県置賜地方のものらしいが、可愛らしい上野樹里や本仮屋ユイカなどが田舎丸出しの言葉でやり取りするのは微笑ましく、耳に楽しい。
キャラクターたちも田舎臭く、よくいえば素朴で、「あぁ、近所にもこういう高校生たちいたよな」と思わせる。特に豊島由佳梨演じるドラムスの田中直美は、ぽっちゃり系の体格と横柄な態度が、漫画のキャラクターのように個性的で面白いのだ。
竹中直人演じる教師を「待て親父!」と言いながら田んぼのなかで追いかけ回すシーンは、まさしく田舎の高校生そのもので、脚本・監督の観察眼がいかに優れているか物語っている。
また、ストーリー展開がとても上手に練られているのも重要なポイントだ。
ひょんなことからジャズバンドを結成することになった主人公たちだが、吹奏楽の楽しさを覚え始めたというときになって吹奏楽部が復活し、お役御免となってしまう。口ではジャズへの未練はないと言って一旦は解散するバンドだが、それぞれがジャズへ捨てきれぬ思いを抱いているのに気づき、再結成。やがては吹奏楽大会に参加するまでになる、というのがメインのストーリーの流れだ。
なんとなくの結成、突然の解散、強い意志による再結成、そしてラストの大盛り上がりという流れは完璧で、少しも流れが停滞することない。映画においては基本的でもあるが、同時に理想の展開を『スウィングガールズ』は踏襲しているのである。
『スウィングガールズ』を飾る名曲の数々
『スウィングガールズ』最大の見どころは、やはりラストの東北学生音楽祭の場面だろう。
満員の観客を前に、スウィングガールズ&ア・ボーイが演奏するシーンは大盛り上がりで、演奏する役者の気合と会場の熱が感じ取れるような名場面だった。
また、作中使われた名曲がより一層音楽祭の熱狂をあおった。特に「シング・シング・シング」の盛り上がりは最高潮で、メイン5人のソロ演奏があるなど、見どころとしても最高だった。観客たちのように立ってリズムを取りたくなった鑑賞者は多かったはずだ。
また、音楽祭以外の部分でも、随所に挿入されるジャズの名曲の数々が作品に華を添えている。「A列車で行こう」「イン・ザ・ムード」など、誰もが一度聞いたことのあるナンバーが使われているのも好感が持てる。『スウィングガールズ』の視聴以降、「あ、これ『スウィングガールズ』で聴いたことのあるやつだ」と街で流れる音楽を聞いて映画を思い返した人は少なくないだろう。
名作『スウィングガールズ』がところどころに与えた影響
『スウィングガールズ』はその内容の面白さが評価され、興行収入は 21.5億を突破する結果となった。第28回日本アカデミー賞では優秀作品賞を獲得、その他にも 優秀監督賞、 最優秀脚本賞など、各賞を総ナメする。
また、それ以外の面にも『スウィングガールズ』効果は波及する。吹奏楽でビッグジャズバンドを始める人が増え、伴って楽器の売り上げも増加した。また、CMなどの広告に、作中で使われたジャズぼ楽曲がよく使われるようになった。
その経済効果は、詳しい数値は定かではないが、おそらく昨今の映画市場においては破格ともいえる結果になっただろう。
近年ヒット作が途絶えて久しい邦画業界だが、『スウィングガールズ』のような映画は今見ても面白い文句なしの名作だ。
『スウィングガールズ』に続くヒット作が生まれることを筆者は多いに期待したい。
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