生活の中の愛を軽やかに描く - キッズ・オールライトの感想

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生活の中の愛を軽やかに描く

4.74.7
映像
4.3
脚本
4.4
キャスト
4.8
音楽
4.0
演出
4.4

目次

カリフォルニアらしい「家族の物語」

2010年、アメリカ映画。レズビアンのカップルと精子提供によって授かった二人の子供たちの4人家族が、精子提供した男性に再会したことで起こる悲喜こもごもを、明るいコメディタッチで描いた作品です。

監督のリサ・チョロデンコ自身もレズビアンであり、自らもドナーからの精子提供を受けて子供を出産しています。そんな彼女自身の物語をベースにした本作の脚本は、やはり精子ドナー経験を持つスチュワート・ブルームバーグと共同で4年の歳月をかけて丹念に作られたそう。それだけの思い入れと手間ひまがかけられているだけある、色んなものが詰まった素晴らしい作品です。

舞台がLAなのですが、ロスに対していいイメージがなかった私にとって、こんなに魅力的なロサンゼルスを感じさせてくれた映画ははじめてなんじゃないかとさえ思いました。適度にヒッピー的で都会的で、風通しが良く緑やゆとりがある暮らし。趣味が良くイージーゴーイングで、これはなかなかに憧れるなあ、という感じがしました。そういう意味でも新鮮だったです。

素晴らしい俳優たち、レズビアンについて

何より秀逸なのは、やはりふたりの役者です。アネット・ベニングとジュリアン・ムーア、それぞれとてもチャーミングで、説得力のある素晴らしい演技を見せています。脚本におけるキャラクター設定の絶妙さと、それをデリケートで深い内面化で魅せる、さすがの職人芸だなーと惚れ惚れするようなふたりでした。そして、レズビアンを差別したり気持ち悪く思うなんて毛頭ないですけれど、知らないし、想像がつかないゆえに違和感がないといえば嘘になる、という程度の自分の認識だったのが、確実にこの映画を見たことで少なからず変化したように思います。性的に違う志向があるだけで、人間が地味に苦労や喜びを重ねながら人生を生きて行くということはおんなじなんだということが、自然に沁み入るように感じられたからです。そういう実際的な、身体的なケミストリーを起こさせることのできる作品は、やはり優れた映画のしるしなんだと思います。

生活のなかにおける愛、愛すべき家族たち

ニック(アネット・ベニング)とジュールズ(ジュリアン・ムーア)のレズビアンカップル、そしてジョニ(ミア・ワシコウスカ)とレイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)というティーンエイジャーの子供たちという家族にひょんなことから異分子のように入り込んできた、マーク・ラファロ演じるポールは、子どもたちの生物学上の父親であり、まさに独身貴族を地でいっているような気楽で魅力的な成功した独身男性です。ニック以外の3人がポールにあっという間に魅了されていってしまうことから、仲の良かった家族がぎくしゃくし始めます。

率直でいささかあけすけな所もあるジュールスが、ポールと浮気をしてしまったことの許しを請うため、家族の前に仁王立ちになり、正直な気持ちを告白するシーンはとても心に残りました。そこで彼女は「Marriage is the fucking marathon.」と言うのです。

人が、自分なりの人生を作り上げて行くのは、地味でうんざりすることもたくさんで、そして一足飛びにはいかない。日々ささやかなものに愛情を注ぎながら、その努力だって確かな保証なんかにはなりはしない。それでもそうやっていたわり合いながら、じたばたと人は生きて行くしかないし、そうして作り上げて来たものの大事さは、日々に紛れて忘れがちになったりもするけれど、そう簡単に明け渡せるようなものじゃないんだ。

ジュールズはそのような思いを込めて家族に語りかけます。何だかとても実感がこもっていて、愛おしくてじーんとするものがありました。

惚れたはれたに人は振り回され、古今東西あらゆるドラマや芸術がそこからは生まれるのだけれど、本質的には、人がしっかり生きて行くという部分ににおいては、惚れたはれたは必要不可欠なれど、愛のうちの一部でしかないんだという部分に、私は共感するんだよなあ。

一方、ポールは何も自分からはアクションしないというキャラクターです。優しくナイスで、何でも受け入れ、責任は負わず、一番楽しそうにしている。

最終的にポールは冷や水を浴びせられることになります。疑似家族のような素敵な家族が急にできたことで、彼の生き方と求めるものにズレが生じてしまったから。長い地味な年月の蓄積というものを軽んじたことからポールは復讐されたとも言えるでしょう。彼には何の悪気もない。でも、責任を引き受けないからには、それなりの領分を自覚すべきなのだという、それは大人の世界のルールなのだということです。

ラストシーン、人工授精で授かった子どもジョニが無事大学に受かり、二人の元から巣立って行く。別れの時に、つとめて湿っぽくならないように軽く振る舞いながらも、最後の瞬間にママ二人が左右からぎゅーと締め付けるようにジョニを抱きしめて絞り出すように泣くシーンに涙。

何はともあれ、この子はとても愛されて育てられて来たのだ、ふたりのママたちはこの子を健康に、立派に育て上げたのだということ。それには親のセクシャリティーなんて全く関わりのないことなのです。

去ってゆく車を見送るジョニの横顔のアップがとても美しくて心に残りました。口元は細かく震え、透き通るような美しい瞳で車を見送るその横顔。大きな愛情に包まれて、そこから巣立ってゆく少女の切なさと彼女の幸せな子ども時代を思いました。

生活の中における愛を、とても可愛らしく描いた映画でした。

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