ファン待望の『聖闘士星矢』正統続編
満を持して登場した『聖闘士星矢』の正統続編
『聖闘士星矢』について読者諸兄は説明を望むだろうか。
おそらく、個々の差はあれど、『聖闘士星矢』について全く知らないという人はいないだろう。
戦いの女神・アテナに仕える戦士たち・聖闘士。その聖闘士たる星矢、瞬、氷河、紫龍、一輝たちの物語は、もはや説明不要の超有名コミックスとして日本のみならず海外にも広く知られている。
そのストーリーは一輝編、白銀聖闘士編、黄金十二宮編、海神ポセイドン編、冥王ハーデス編と大きく五つのエピソードに分かれ、今回ご紹介する『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』は、冥王ハーデス編の続きとなる。
ちなみに、意見の分かれるところではあるが、『聖闘士星矢』は打ち切りで終わったと考える人は多い。それは予定していた本誌連載ではストーリーは終わらず、Vジャンプに最終話が掲載されてようやく完結をみたことに由来する。
だが、ややエピローグが物足りなかったものの、長年の宿敵であったハーデスをアテナが倒したところで『聖闘士星矢』の物語は終わる。つまり、ハーデス編をもって『聖闘士星矢』全ストーリーが終わったと定義づければ、打ち切りではなくきちんと完結したともいえるだろう。
筆者はこの”きちんと完結した”と捉える派閥である。黄金聖闘士が死に、星矢たちが神衣を纏った時点で、『聖闘士星矢』にこれ以上の展開はないと考えているからだ。
しかし、ハーデスの剣に刺された星矢たちのその後の安否はわかっていなかった。
それが派生作品にも影響を与え、例えばアニメ『聖闘士星矢Ω』では星矢は未来でも生存していることになっているし、劇場映画『聖闘士星矢天界編』では、星矢はハーデスの剣に刺され、魂を欠落したところから物語が始まる。
『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』も、劇場映画『天界編』と同じく、魂を欠落した星矢を復活させようとするアテナと仲間たちの物語だ。劇場版と違うのは、アテナたちが過去を遡る、という点である。
ちなみに、手代木史織による『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話 』も同じく過去である前聖戦の物語だが、こちらはパラレルワールドであり、車田正美による『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』こそが正統な続編である。
ファン感涙! 少年たちは青銅聖闘士から黄金聖闘士へ
生みの親である車田正美が描く続編。これだけでもファンは喜んだというのに、『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』のストーリーや展開は、もっとファンの心を揺さぶった。
中盤の展開は、黄金十二宮編と冥王ハーデス編を両方合わせたような話となる。十二宮を上る聖闘士と、攻め込んでくる冥闘士、そして物語のカギを握る蛇遣座の存在…。
ただ話をミックスさせただけでなく、物語各地に『聖闘士星矢』のオマージュがちりばめられているのが心憎い演出だ。仁王立ちで死んでいった牡牛座。氷の棺に閉じ込められる氷河…と、ファンならば一目でわかる懐かしい演出の数々に感動する。
また、先代の黄金聖闘士の登場も、ファンの興味を引くところだろう。
『聖闘士星矢』時代の黄金聖闘士と似ている外見と、同じ必殺技。各黄金聖闘士のポジションも共通する部分が多いのも嬉しい。特に蟹座のデストールは、従来の蟹座のイメージとおり悪役らしいポジションに立ちながらも、オカマキャラ&漢気溢れるキャラ(+カツラ)という美味しいところ三重どりになって、星座カースト改善に一役買った。これにはデスマスクもデスマスクファンも、蟹座というだけでイジメられた星矢世代の蟹座の人たちも報われたことだろう。
そして何より嬉しいのは、瞬や氷河、一輝に紫龍たちが、先代の黄金聖闘士たちによって黄金聖闘士を継承するにふさわしいと認められたことだ。
『聖闘士星矢』では、星矢を含む青銅5人が黄金聖衣を纏うことは度々あった。
だが、確実に彼らが聖闘士の到達点である黄金聖闘士になったという描写はなく、ファンや派生作品はそれぞれの解釈で、「愛着のある聖衣を得たままである5人」、または、「亡き黄金聖闘士たちの遺志を継ぎ、黄金聖闘士になった5人」を想像してきた。
それがここに来て、生みの親である車田正美によって描かれたのである。公式となった”青銅聖闘士が黄金聖闘士へ”という事実は、そのまま”少年が大人へ”のメッセージの暗喩にも取れるだろう。
いずれにしろ、青銅聖闘士たちの成長を表すのに、これ以上ないエピソードだ。
熱血画道40周年! 色々あるけど、まだまだ頑張って欲しい
全盛期と比べたら作画が劣化していたり、ところどころ旧作との矛盾もあるだろう。
だが、車田正美は漫画家としては十分なほど大成している。それにも関わらず、また『聖闘士星矢』の続編を描いてくれたことに、一ファンとして感謝を述べたい。
一つの漫画を描くということは途方もないエネルギーを要する。まして車田正美は御年62歳である。壮年期に至ってなお、ファンのために漫画を描き続けるそのパワーは一人の人間として尊敬に値する。
たぐいまれなるファンサービスと、器の大きさ。そして何より、優れた漫画を描く技量。
車田正美の熱血画道は、まだまだ終わらないことだろう。
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