人間であるために
クラスターエッジという作品について
現在は、アニメ放送中に更新されていた公式ネットラジオの方が有名になってしまったが、ラジオとは違いアニメはシリアス寄りの作品だ。
元々、この作品はキャラクターの男女比率や採用声優を見ても、女性向けアニメとして作られたことはほぼ間違いない。そういう方向性を予め決められた作品はストーリーよりもキャラクターに重きが置かれる場合が多い。この作品も例外ではなく、最終的にはキャラクターをどれだけ感動的に演出するかに重きが置かれた気がする。
世界観や、第一話より前の時間軸で作られた伏線、人造兵の人権というテーマ、それらは非常に良い味を出していたと思う。しかしながら話が進むにつれて辻褄合わせが非常に多くなり、もう少し事前に考えるか上手く分からないようにしてくれよ!っと放映中、筆者は何度拳を握ったことか……。(特にベリルの家庭事情やアゲートの誕生からアニメ第一話への奇跡は、すごい勢いで辻褄合わせてきている。詳しく辻褄が知りたい方は、DVD購入で付いてくるブックレットを読んでみて欲しい)
このアニメの魅力
さて、ここまで割と辛口に書いてきたが、実は筆者、このアニメを高く評価している。筆者が思うにエンターテイメント作品には、以下の2つの要素が必要だ。
・1つは、『優れていること』矛盾点や作画の崩れ等なく、伏線も全て綺麗に回収し綺麗に終えること。
・もう1つは、『勢いがあること』矛盾点や作画の崩れ、うやむやになった伏線なんか気にさせない勢いがあること。
(日常系アニメを除く)
これは勿論両方兼ね備えると、最高だ。勢いと熱と感動で飽きさせないで、あっと驚くストーリーが最後に綺麗に視聴者の心に何かを残していく。最高だね! そんな作品は少ないけれども……。
クラスターエッジは圧倒的に後者要素が大きい作品だ。ちょっとした矛盾が目についても、主軸をどこかに忘れてしまってないかと心配になっても、途中で監督が代わったせいか世界感守れているかハラハラしても! 感動で押し切られて最後まで見れてしまうアニメだと筆者は感じている。
人間であるためには、どうしたらいいか
このアニメはキャラ萌えアニメかと思いきや、扱っているものは人権だったり政治だったりと重くメッセージ性が案外強い。ではこの作品の一番の主題とは何だろうか。これに関しては、『人造兵の人権』だと考えている方が多いように感じる。しかし筆者は『人造兵の人権』を通して、もう一歩奥に入ったものが主題だと感じている。
それは『人間であるためには、どうしたらいいか』というものだ。このアニメは中盤から、以下の演出が多い。人造兵というある意味人間未満の者たちが、非常に純粋で優しさ人間味に溢れている。という描写に対して、生粋の人間が、自分の利益しか考えていなかったり、無関係の人間を殺したりする“人でなし”の描写が入る。こういう演出は、人造兵の方がよっぽど“人間らしい”じゃないか。いや“人でなし”の行動こそ、嫉妬や自尊心という複雑さこそ、人間なんだ。という思考が飛び交い、多くの視聴者の心をモヤモヤさせたのではないだろうか。筆者は体重が2kg減るくらいにはモヤモヤした。
しかし後に筆者は、この悩みの答えはアニメ中に出てきていると考えるようになった。12話『アゲートの叫び』に出てくるアゲートの台詞。「人間ってこんなものなのか! この程度なのか!」この台詞が全ての答えなのではないだろうか。(余談だが筆者は全25話中、この12話と次の13話が抱き合わせで一番飛びぬけて大好きだ)
つまり上記の台詞、反語的な用法で、神様(アゲート)にとっては『人間がその程度であるはずがない』という意味にも捉えられる。神様が定める人間のボーダーライン高い、ハードル上げないで、というお言葉だ。まあでも神様の言葉なんだから、それがこの世の理なのだ。きっと人間と認められるボーダーラインは高いんだろう。おそらく筆者は今、割と人間以外の何かだ。
このボーダーライン、筆者には果てしなく高く感じるが、清廉潔白の人物でなくても越えられるラインだ。アニメでいうとリナ(数少ない女性キャラ!)なんかが良い例だろう。彼女の行いは善意もあったけど悪いところもあった。でも神様(アゲート)は最後に笑っていた。それは神様的に、リナは十分人間のボーダーラインを越えていたという証拠だ。人間は汚いところがたくさんある。しかしそれを乗り越えようとしなければ、人間のボーダーラインは超えられない。潔白でなくても足掻けば、越えられる。そんなレベルなのだろう。
私は別に良い人が素晴らしいとは考えていない。逆に少し悪い面がある人の方が話していて面白かったりする。嫉妬したり優越感を覚えたりするのも本能だ。無理やり抑え込みすぎるのはよくない。それでも、私はたまに自分を振り返る。人間であるためには、どうしたらいいか。神様に恥ずかしくない生き方をしているか。完全に人間以外の何かには、まだなりたくないからだ。
キャラクター考察
さてここまで真面目(?)に語ってきたが、ここからは軽―くキャラクター考察を書いていく。完全にオマケである。
アゲート・フローライト
神様とカールスのミックス。彼の自己認識がどこまで“アゲート”で“カースル”なのかよく分からない。アイデンティティ的に考えると、精神ヤバそう。でも神様だから大丈夫。アゲートの周りで起きたことは、大体神様だからで辻褄合わせが出来る。
予知の能力を持っているのに、あの最終回への流れは防げなかったのかとも思うが、もしかしたらこの世に神様はいらないと判断した、アゲートの予定調和だとしたら……、これ以上考えるのはよそう。
ベリル・ジャスパー
人造兵の人権問題が解決しないで、アニメが終わったと感じる方もいるだろう。しかし8話の『生徒会選挙』でアゲートが、ベリルが選挙で選ばれ皆を助けると予言しているので、未来的には解決すると示している。これによりベリルの将来へのハードルは凄く高い。
フォン・アイナ。サルファー
主格4人の中では影は薄かったが、こういうキャラが一人はいないと人物関係図に厚みがでないので仕方ない。筆者的にはクロム団とフォンが接触したおかげで、かなり良い感じに厚くしてくれたと思う。
クロム
人造兵の代表格としての役割が大きい。最終話でベリルに「人間だ!」と言われているので、恐らく神様的に人間なのだろう。筆者よりは少なくとも人間。
エマタイト・ラムスベック
かなり序盤から別軸として動いていたキャラクターほぼ全てと関わりがあった人物。このモラトリアム人間が変化して何かのキーになるのかと視聴者の期待を高めつつも、最後まであまり変わらなかった。
しかし、学園が崩壊した後でも、日常と変わらず青空教室で授業を始めた姿を見ると、この世には変わらない大切さがあるんだと感じられる。
カルセドニー・レニエル
1話ラストでアゲートに助けられまだ生きてると考えていた人は筆者だけではないはず。
結びに
駆け足でクラスターエッジについて語ってしまったが、いかがだったろうか。深読み考察をするにも、矛盾がちらほらある作品なのであまり考察向きではない。しかしこのアニメが私たちに何を伝えたかった考えるのは、なかなか面白いと思う。こういう心に響く作品もいいものだ。
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