デビュー作とは思えない、センセーショナルな作品
かつてこんなに衝撃的なデビューを飾ったミステリー作家がいたでしょうか。あまりの素晴らしさに読了後言葉を失う、そんな小説には滅多にお目にかかれません。この作品を掲げて颯爽とミステリー界に登場した島田荘司に、私は人生の半分以上を捧げてきたと言っても過言ではありません。
この作品で主役を演じた御手洗潔は、その後シリーズとして幾多の作品に登場し、島田作品の代表的なキャラクターとなりました。なんといっても彼の魅力はその奇人ぶりにあります。突然走る、叫ぶ、唸る…。名探偵というものは洋の東西を問わず変人ばかりですが(ホームズ然り、金田一然り)、御手洗はその最たる例です。また、彼には名探偵に必須の条件ともいえる「自信」が彼には満ち溢れているのです。「解けない謎はない」と言わんばかりのその態度。日本の小説なら桜庭一樹の『GOSICK』に登場するヴィクトリカもそうですが、探偵役のキャラクターがしっかりしているので安心して読むことが出来るのです。
そして御手洗の最もステキなところはここです。彼はいわゆる「Armchair Detective(安楽椅子探偵)」、つまり現場に一切赴かずに石岡君が持ってくる情報だけで謎を解いてしまうような無粋なマネはしません。この作品では京都に、『暗闇坂の人喰いの木』ではイギリスにだって飛んでいきました。その彼の行動力、子供のような好奇心が作品に輝きを与えていると思うのです。
さて、2013年には完全改訂版も出版され、初版から30年以上経った今なお新しいファンを増やし続けている本作。この名探偵については今まで島田氏が映像化を拒み続けてきましたが、2015年にファン待望のドラマ化、そして2016年には映画化が決定しております。この機会にもう一度、この類稀なる探偵の冒険譚を読み返してみてはいかがでしょうか?
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