色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年の感想一覧
村上 春樹による小説「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」についての感想が7件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
失われた人生を快復する旅の物語
いつも救われてきた気がつけばもう20年以上、村上作品と共に生きてきたのだなあと思います。若い時代の混乱した日々を経て、現在の浮き足立ったお金と効率を追究する世の中にあって、村上さんの深い物語の世界に触れ続けたことで、どれだけ救われてきたか分からないほどです。村上春樹の本と出会えたということは、私の人生において感謝すべき恵みのひとつだったと思っています。村上作品が好きすぎて、個人的な思い入れが強すぎて、批評や評論を読んでもピンと来ないばかりか、腹が立つようなことも多く、実際に作家の手で書かれたもの以外はほとんど手に取らずに来ました。なので、自分が小さな場所であれ、ああだこうだ書く事にも抵抗があるのですが、純粋に個人的な感想として、備忘録として思うところを書いてみようと思います。当たり前のことですが、物語というものは、あくまでフィクションであってそのまま何かを証明することにはなりません。ハ...この感想を読む
新作読んでみました。
連日の新作の勢いにのって買ってしまいました。「人生は複雑な楽譜のようだ、とつくるは思う。十六分音符と三十二分音符と、たくさんの奇妙な記号と意味不明の書き込みとで満ちている。それを正しく読み取ることは至難の業だし、たとえ正しく読み取れたとしても、またそれを正しい音に置き換えられたとしても、そこに込められた意味が人々に正しく理解され評価されるとは限らない。それが人を幸福にするとは限らない。人の営みはなぜそこまで入り組んだものでなくてはならないのだろう?」というところが好きです。リストの『巡礼の年』が本当にピッタリ、聞きながらよむとさらに作品の世界が広がります。考え続けながら読むからこその価値がある本です。思考を放棄せずに、知りたいと思いながら読み進めないと楽しめません。
村上春樹にしては、軽い。
村上春樹らしくないなぁ、というのが私の印象です。それは、主人公が友達にとても依存していること。ここまで極端なことはなかなかないにしろ、「仲良くしていた友達が急に離れていく」ということは、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。なぜ離れていったのか、理由もわからないまま、何年も過ぎ去り、忘れていくものです。そこを、「心の穴」というような表現をし、十数年?引きずる主人公に、子どもっぽさを感じてしまいました。ただし、そういう身近な設定だからこそ、入り込めたのは事実です。なぜ離れていったのか、自分の体験と照らし合わせながら読み進め、すぐに読了してしまいました。最後が尻切れトンボなのは、読了直後気持ち悪かったですが、あれもいい味なのでしょう。
読んだ!
長編?村上春樹の作品のなかでは中編かな?です。けっこうさらさらと読めます。 やっぱり彼の独特な文章が好きなので、「村上春樹の新作を読んだ」っていう満足感と達成感があります。シックで素敵なガールフレンドもでてくるし。スプートニクの恋人とかアフターダークと似たような感じ(もちろん内容は全然ちがいますが、イメージ的に)。1Q84の後なので、なにか変化あるかと思ったけれど、良くも悪くもいままでどおり。でも、こんなに綺麗で引きこまれる文章と世界観を表現できる作家さんはほかにいないと思うので、これからもいままでどおりの作品をたくさん書いて欲しいなぁと思います。
テンポ良く読めた。
本を手にして、一気に読み終えた。短編にするはずが、長編になったというこの作品。(そういわれると、そんな感じがする・・・)色彩を持たない多崎つくるは、村上春樹さんの作品では、よくある考えや、性格をもつ男性。それを取り囲む、友人、女性たち。この関係や謎を、多崎つくるがひとつひとつ解いていく過程は、かなりテンポよく進んでいき、次は、どうなるのか、という興味で、ページをめくる手を止めることができなかった。後半、個人的にイマイチかな?ということもあったが、大変楽しく読むことができた。できることなら、もう少し、ほんと、もう少しだけで、いい。続きがよみたい!と思う。
独特の世界観、さすがです
独特の言い回し,ナイーブで聡明な主人公,優しくてタフな女友達。今回のお話しは時空を越えるような大きな仕組みではなく,現実から離れることなく実存と想像をメタ言語的手法で書き分け読者の意識をあまり遠くへ飛ばさない工夫があった。ちょっと物足りないような安心したような気分だ。フィンランドの描写も主人公の心象描写がほとんどで、これまでの村上氏の作品の中で独白とか内面描写の分量が多い方ではないでしょうか?それに比べると、社会や組織に関する話や意見が少なくなっています。ミニマリズムに向かっているような。台詞とか比喩は相変わらずという感じですが、この小説では、そこに注目するよりも、独白部分とか内面描写の方が重要な気がします。
勇気をもって評価★2
村上春樹は孤独を書く作家だと思っていた。人間の孤独の深さを語りつくすには村上春樹の文体と村上春樹の文体だからこそ読ませるSF的設定。深く深く人の心の深層まで下りていき暗闇の中で幽かな明かりさえも見えない。ひりひりと焼けつくような人間の孤独さについて書く作家だと思っていた。それは直視するのが怖いぐらいの本質的な孤独であった。一体人間の孤独はどこにいってしまったのだろう。友人の欺瞞であったり友人との距離であったり恋人の不実であったり。そんなものは日常生活の一部であって主人公のようにそんなささいなことで死んでしまうと連呼するなど。そんなことであったら私などとっくに何度も死んでいる。村上春樹の新作であるが勇気をもって★2つ。