檸檬のあらすじ・作品解説
檸檬は、日本の小説家・梶井基次郎が発表した短編小説である。初出は1925年1月に著者が中谷孝雄らと出版した同人誌「青空」創刊号に掲載された。1931年梶井の晩年に武蔵野書院より出版された同名の単行本にも、他17編の短編とともに収録されている。 「えたいの知れない不吉な塊」に悩まされる「私」は、あてもなく京都の裏通りをさまよっているうちに果物屋の店先に発見したレモンに心を奪われ幾分気分を癒される。「私」はそのレモンを一個の爆弾に見立て京都丸善書店の棚へと置いてくる、といったあらすじである。 31歳という若さで夭折した著者が生涯に出版した書籍はこの作品の単行本のみであるが、感覚的なイメージと知的な表現を融合した独創的な作風は、井上良雄や小林秀雄といった批評家や、中島敦や三島由紀夫をはじめとした作家たちから高い評価を受けた。今日では日本文学における傑作作品のひとつとして位置づけられ、多くの人に愛読される作品となっている。 本作品は新潮文庫や岩波文庫など、各出版社から文庫版や全集の形で刊行されている。
檸檬の評価
檸檬の感想
絵画のような小説
病気と借金で苦しみながら、「不吉な塊がいけないのだ」という主人公。美しい詩や音楽にも居た堪れなさを覚えて、街を放浪するのですが、その街の描き方、また主人公が行きたいと感じる京都ではないどこかの描き方が絵画を見ているような美しさがありました。何となく憂鬱な主人公の心境が、檸檬の鮮やかな黄色と、主人公の病気のせいで熱っぽい体を冷やしてくれる爽やかさが手に取るように伝わってきます。檸檬で丸善が木っ端微塵なんてことはありえないけれど、檸檬が何か主人公の心の中で鬱屈としていたものを解放してくれるような力を持っていたのだなと思います。檸檬を置いていく主人公を真似をする人が多かったそうですが、丸善は片付けが大変だったろうなぁ(笑)
黄金色に輝く恐ろしい爆弾
色彩美が織りなす小説。檸檬。未だに梶井の墓の上にファンがレモンを置いていくこともしばしばあるらしい。小説の言葉を借りれば、「気詰まりな墓場に黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛ける」ことになるが……。こんな梶井のエピソードがある。花を愛し、樹を眺め、芭蕉を慕い、音楽を好み、雪舟や、セザンヌや、ゴッホを楽しんでいた。梶井は室内を自分の好みの道具類で飾り、私に西洋皿を見せながら「これ、エリザベス朝時代の皿だよ」とニコニコして言っていた。美術や風雅び対する探究心があった。その感覚によって紡ぎだされる言葉からは、美術品を鑑定するかのような比喩が生まれる。「いったい私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。」