ファーゴの感想一覧
映画「ファーゴ」についての感想が4件掲載中です。実際に映画を観たレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
白い、閉ざされた風景の中で小さな狂気が膨れあがっていく陰惨さとユーモア、錯綜と悲哀を描いた秀作 「ファーゴ」
ジョエル・コーエン監督の「ファーゴ」のアメリカでのキャッチ・コピーは"homespun murder"ということだそうだ。つまり"田舎者の殺人者"というわけだ。なるほどこの映画の舞台になっている、ミネソタ州とその隣のノース・ダコタ州は、アメリカの中でも"田舎"なのだ。存在感が薄い。人口は少なく、ミネソタ州の州都ミネアポリスでも、人工はせいぜい40万人ほどだ。隣のノース・ダコタ州はさらに人口は少なく、この映画のタイトルになっている、州で一番大きな町ファーゴの人口は、わずか6万人ほどだという。つまりは、アメリカの僻地といってもいい。おまけに、ここは冬は雪に閉ざされ、零下十何度の寒さの中で、人間は小さくなって暮らさなければならないのだ。そのために、広々とした平原の中に住んでいるのに、開放感が全くないのだ。「ファーゴ」という映画は、このミネソタ州とノース・ダコタ州という土地や風景を抜きにしては語れない、まさに"homespun...この感想を読む
悪は露見する
アメリカの小さな街でカーディーラーに務める男が、借金に困って身内を犠牲にして犯罪を行う計画を立てます。前科者を雇って妻を誘拐させ、妻の父であり会社の責任者でもある男から身代金を引き出すという計画です。本当は事業計画で義父から金を引き出す計画だったのが、いまいち信用されていないために不可能であり、非合法手段に訴えるのですが、状況が暗転に次ぐ暗転を重ねます。 この映画は最終的には陰惨な結末も含む破滅的に結果に終わりますが、そうした経過が主に楽しませる部分となっています。予想外のことが次々に起き、前科者たちの愚かなやり口といい、どうなるかといった興味がもてます。 最終的に調査を勧めていた警察の女性が、ささやかな金で喜んでいる画家の夫の幸せを噛み締めてるあたりがこの作品の言いたかったことだろうかと推測してしまいました。
閑静な田舎の猟奇的事件
コーエン兄弟が手がけた犯罪映画。兄のジョエル・コーエンの妻、フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アカデミー主演女優賞に輝いている。アメリカの小さな地方都市ファーゴで計画された狂言誘拐が陰惨な事件へと発展していくのを描く。「小さなきっかけと深刻な結末」というコーエン兄弟が得意なストーリー展開が見られる作品であり、これはその中でも最も完成度が高いもののひとつであろう。これに並ぶのは『バーバー』か。その描写は「よくできたニュースの再現映像」とでも言えるような淡々とした非劇的なものであり、それが故に日常的な要因(特にウィリアム・H・メイシー演じる父親の小市民的な動機)と非日常的な展開(凄惨なスプラッタなど)が何の違和感もなく同居している。マクドーマンドの普通の女性警察官のような抑制の効いた演技が高く評価されたのは、それがこの客観的な視点を維持した映画によく調和したからだろうか。
怖さとおかしさは紙一重
ファーゴはまさにコーエン兄弟の真骨頂といった感じの映画です。スティーブ・ブシェーミなど、おなじみの俳優軍が怪演しています。登場人物のなかでまともなのはフランシスマクドーマンド演じる婦人警官だけですが、彼女もなぜか妊娠しているという設定です。妊婦が連続殺人鬼の捜査?普通やらないでしょ?って感じでそこもけっこうおかしいです。このキャストで、殺人事件が起こるおかしさというか、え、そんなことで殺すんかい!みたいな倫理観や道徳観が決定的に欠けている人々を客観的にみている感覚です。連続殺人鬼の心の闇、とかそういう映画ではないので、より怖さがあります。完全ネタばれですが、婦人警官、殺されなくてよかった~と心の底からほっとした結末でした。