うせもの宿の評価
うせもの宿の感想
作者の誘導にまんまと引っかかる楽しさ
いったいどんな宿なのか、教えてくれないから読んでしまうなくしてしまったものが見つかるという不思議な宿「うせもの宿」。誰がつけたか、どんな宿なのかはわからないが、なくしてしまったものを見つけるため、一人、またひとりとお客さんがやってきます。案内人はマツウラという男。優しい表情でお客さんを導いていきます。うせもの宿ではなぜ探しているものが見つかるのか、そもそもマツウラって誰?女将さんのその特殊能力っていったい何?この宿はいったいどこにあるの?次々浮かぶ疑問をそっちのけで、お客さんの探し物は見つかっていきます。しかし、短編集風に仕上げながらも、少しずつ宿の仕組みがわかってきて、ここは死んだ人間がなくしてしまった、その人にとっての心を見つけさせてくれる場所だとわかるんです。一見関係ないようなことがすべてつながっている巧さが光るのが、作者である穂積先生の特徴ですね。他の作品でも、はじめから多くを...この感想を読む
切なすぎて巧すぎる物語
「うせもの宿」が何なのかを引っ張られてズルズルと誰かの大切なもの・大切だったもの。失くしてしまったというものが必ず見つかるという「うせもの宿」には、次々とお客さんがやってくる。必ず1人で門をくぐり、そして出ていくその宿は、いろいろなストーリーを差し置いても魅力的な場所だ。その宿には、必ず「マツウラ」という案内人の男がお客さんを連れて一緒にやってくる。女将さんがなぜ探し物を見つけられるのか、この宿の正体が何なのかが謎のまま物語が進行していくのだが、その答えを早く見つけたくてどんどん読んでしまう。短編でお客さんそれぞれの背景と探し物について1つ1つ解決していくが、物語はしっかりとつながっており、少しずつ「うせもの宿」の正体が見えてくるのが素敵だ。その答えへの近づき方もまた憎らしい演出で、1つわかってもまだ全容は分からず、また1つわかっても大事なところは最後までおあずけ状態。関係のないような...この感想を読む
自分の本当に大切な”もの”は、死んで初めてわかるのかもしれない
うせもの宿の存在と"うせもの"がひらがなで書かれている意味「失くしたものが必ず見つかる宿」にはどうやってここに来たのか、何を失くしたのかさえわからない人たちが訪れ、”お客さん”は”女将さん”の手助けや挑発に乗って、さがし物を見つけていきます。うせもの宿では働きながら、いつかさがし物は見つかると思っている人もいれば、過去など忘れて、さがし物もせずにこのままここにいればいいと思っている人もいるのです。ですが、不思議なことが起こるうせもの宿だからこそ思っていること、望んでいることとは違うことが起きてしまいます。人間はいつも当たり前のようにそばにあるものに、どれだけ気を配っていられるのでしょうか。とても大切な物のはずなのに、時が経つとそれを自分が持っていることはさも当然だと思うようになり、大事に扱えなくなってしまうのです。失ったことに気づくことができれば、大切な物だったと思い出せる機会も生まれる...この感想を読む