自分の本当に大切な”もの”は、死んで初めてわかるのかもしれない - うせもの宿の感想

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うせもの宿

4.504.50
画力
4.33
ストーリー
4.33
キャラクター
4.17
設定
4.33
演出
4.50
感想数
3
読んだ人
4

自分の本当に大切な”もの”は、死んで初めてわかるのかもしれない

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.5

目次

うせもの宿の存在と"うせもの"がひらがなで書かれている意味

「失くしたものが必ず見つかる宿」にはどうやってここに来たのか、何を失くしたのかさえわからない人たちが訪れ、”お客さん”は”女将さん”の手助けや挑発に乗って、さがし物を見つけていきます。
うせもの宿では働きながら、いつかさがし物は見つかると思っている人もいれば、過去など忘れて、さがし物もせずにこのままここにいればいいと思っている人もいるのです。
ですが、不思議なことが起こるうせもの宿だからこそ思っていること、望んでいることとは違うことが起きてしまいます。

人間はいつも当たり前のようにそばにあるものに、どれだけ気を配っていられるのでしょうか。
とても大切な物のはずなのに、時が経つとそれを自分が持っていることはさも当然だと思うようになり、大事に扱えなくなってしまうのです。失ったことに気づくことができれば、大切な物だったと思い出せる機会も生まれるのかもしれません。でも多くの人間は大人になるうちに少しずつ、大切なことに気づかないふりをすることに慣れてしまいます。
生きている間に自分にとって本当に大切な物が一体何なのか、気づくことができる人はどれ程いるのでしょうか。自分の命を失って"失せ者"になって初めて、本当は大切にしたかった、大切に思っていた、唯一の"失せ物"には気づけるのかもしれません。
もしかしたら、最期に持って逝きたい"失せ物"を見つけ出すために自分自身と向き合うことが、未練を絶つために必要なことなのかもしれませんね。

話の内容や心情を表した、目を引くタイトルの意味

「客人3」 笠の雪(かさのゆき)
苦しいことも、辛いことも自分のためだと思えば気にならないことのたとえで、このお客さんにとっての笠の雪は八百屋を支えることと登山をすることだとわかります。

このお話は読み終えても、よくわからないところがありました。
「大事なもんは仏壇の中か タンスの引き出し」がルールと言いながら、"お客さん"は自宅でタンスの引き出しは探しているのに、仏壇の中を見ているシーンはありません。
中盤と終わりに妻と娘が同じ会話をしていますが、終わりではお父さんである”お客さん”は存在していないのです。仏壇には自分の遺影があったから、見て見ぬふりをしたのだと、理解するのに少し時間がかかりました。中盤の「シカトかよ!!」という言葉にまんまと騙されてしまったのですが、理解できた途端、切なさでいっぱいになりました。

「客人4」 薄紅(うすくれない)
生徒に対して感じてしまった隠さなければならない好意の色と"失せ物"の口紅の色を連想させる言葉と考えるとしっくりきました。

「客人7」 玉箒(たまばはき)
【酒は憂いの玉箒】ということわざがあり、酒は心の憂いを取ってくれる箒のようなものという意味を持っています。親友が自分の抱えていた憂いと共に戦ってくれたことへの感謝の気持ちを表した言葉なのだと感じました。

「客人13」から「客人17」
麦藁菊(むぎわらぎく) 花言葉は思い出・献身・真実・永遠の記憶
金木犀(きんもくせい) 花言葉は謙虚・気高い人
待雪草(まつゆきそう・別名スノードロップ) 花言葉は希望・慰め               綱手(つなで) 船につないで手で引く網
 後悔して死んだ者を宿に導くことを覚悟した松浦の想い
有明の月(ありあけのつき) 夜が明けかけても空に残っている月
 記憶をすべてなくしても消えない松浦への想い

これらのタイトルは、"マツウラ"と"女将さん"ではなく"松浦篤志"と"寺島紗季"がお互いにお互いをどう想っていたのかを明確に表現していると感じました。1つ1つのタイトルのこだわりに気づくとより一層、心を打たれる作品になると感じました。

心にぐさりと刺さり、涙を誘うセリフ

「失くした場所は分かってる 探せば必ず いつか取りに行けばいい」(客人1)

何かがなくなった時、多分あの辺りにあるだろうと勝手に思い込んで後回しにしてしまうことはよくあるのですが、他人が言っているのを聞くとこれほど耳障りなことなのかと驚きました。

作中の最初の客人は、妻に指輪を贈ったときに思っていた"気持ち"をさがし物の指輪と一緒に失っていたのです。いつか指輪を取りに行けば、その気持ちも戻ってくるとわかっていながら、死ぬまで取りには行かなかったのです。
"いつか"はこないかもしれないという危機感が足りないのではないかと問われてるように感じました。



「本当に後悔のない人間は・・・ここには来ない 後悔のない人生など 誰も送れない」(客人4)

自分の中になる感情を後悔だと認めることが辛いことも時にはあります。自分で選択した道だからこそ上手くいかずに失敗してしまうと、他の道を選択していれば失敗していなかったと、良いように思い込みたくなるのです。
教師である客人は生徒である彼と関わったことが失敗であって、彼の気持ちを拒否したことは正しかったと思い込みたかったのでしょう。でもそれは数多にある選択肢の中から"教師"として選んだ答えであって、1人の女性としてみてくれていた男の子に対する答えではありませんでした。
後悔は心の弱さではありませんが、後悔を後悔と認めなければ自分の失敗を許してあげることはできないのだと感じました。

生きている間につくるべき”物”と”者”

この作品のように死んだら”うせもの宿”へ行けるわけではありません。
自分はなぜ心の中にこの問題を溜め込んでいるのか、自分が死ぬとき持っていきたい物は何なのか、真剣に考えてる時間をつくることも大切だと感じました。そして嫌々ながら話を聞き、相手をしてくれる"女将さん"や"うせもの宿で働いている人たち"のような、親友や恋人や家族とは違う人を、たった1人つくることができれば、この作品で描かれていた感情が未練として残ることはないのではないか思いました。

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いったいどんな宿なのか、教えてくれないから読んでしまうなくしてしまったものが見つかるという不思議な宿「うせもの宿」。誰がつけたか、どんな宿なのかはわからないが、なくしてしまったものを見つけるため、一人、またひとりとお客さんがやってきます。案内人はマツウラという男。優しい表情でお客さんを導いていきます。うせもの宿ではなぜ探しているものが見つかるのか、そもそもマツウラって誰?女将さんのその特殊能力っていったい何?この宿はいったいどこにあるの?次々浮かぶ疑問をそっちのけで、お客さんの探し物は見つかっていきます。しかし、短編集風に仕上げながらも、少しずつ宿の仕組みがわかってきて、ここは死んだ人間がなくしてしまった、その人にとっての心を見つけさせてくれる場所だとわかるんです。一見関係ないようなことがすべてつながっている巧さが光るのが、作者である穂積先生の特徴ですね。他の作品でも、はじめから多くを...この感想を読む

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5.05.0
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