疎外感の中で
小川洋子の操るモチーフはいくつかあるが、その中でも、『数学の問題』は頻度が高い。 「数学」という言葉の持つ硬質なイメージと、その反面数式を解く際に必要な柔軟な発想の、2つのイメージが言葉を多く用いなくとも、その人物の人となりを連想させてくれる。 小川氏は人の姿に関して、髪の長さや肌の色、目の形、体型などといった視覚的なディティールについてよりも、その人が何を職業としているのか、何に対して興味を抱くのか、どういう感情を持っているのか、何が嫌いなのか、そういった内面的なことについて多く文章を割く。 自然と、読み手はその内面が似ていそうな人物を自分の周囲から探し出したり、空想したりして、視覚的な容姿を補っていくことになる。 そうやって自分で紡いだ像のはずなのに、その人物は作中で動き、読み手は語り手と同じような疎外感にとらわれる。小川氏の作品の魅力はまさにそこにあるのではないだろうか。 この作品でも、その手法は発揮されている。ぜひ、贅沢な疎外感を楽しんで欲しい。
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