江戸幕府公認の遊廓であった、吉原の舞鶴屋の花魁・葛城が、忽然と姿を消した謎を追いながら、往時の吉原を鮮やかに描いた、松井今朝子の第137回直木賞受賞作「吉原手引草」 - 吉原手引草の感想

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吉原手引草

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江戸幕府公認の遊廓であった、吉原の舞鶴屋の花魁・葛城が、忽然と姿を消した謎を追いながら、往時の吉原を鮮やかに描いた、松井今朝子の第137回直木賞受賞作「吉原手引草」

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幕府公認の遊廓・吉原は、古くから文学作品の舞台になってきたと思います。
その中でも、松井今朝子の「吉原手引草」は、最高傑作の一つと言えると思います。

舞鶴屋の花魁・葛城が、何か大事件を起こした後、忽然と姿を消した。
ようやく、噂も消えかかった頃、一人の青年がこの失踪事件を調べるため、吉原にやって来ます。

青年は、引手茶屋の内儀、妓楼の番頭、遊びを究めたお大尽など、吉原の裏も表も知り尽くした、怪しい人物を訪ねて話を聞くが、葛城の事件はタブーになっており、誰も真相を話そうとはしませんでした。

葛城の話題を避けるためか、十五人以上の証言者は、青年に吉原のしきたりや自分の体験を語るのですが、このエピソードが、とにかく面白い。

吉原の年中行事や、遊女の階級による遊び方の違いなどは、ほんの序の口で、見世の男衆は、遊郭の運営方法を、客は粋な遊び方を、女衒は少女を遊廓に売る時の手続きについて語るので、知られざる裏事情が連続して、興味が尽きることがありません。

遊女が、馴染み客に誠意を示すために、小指を切って贈るという伝統を実現させるため、偽物の小指を作る「指切り屋」なる、意外な商売があったことまで紹介されているので、驚かされてしまいます。
まさに、吉原の百科事典ともいえる、緻密な時代考証によって、往時の吉原が鮮やかに再現されていくところは圧巻です。

やがて、断片的な情報が積み重なり、葛城の人生が浮かび上がってくるのですが、そこは遊女と客が、虚々実々の駆け引きを行なう吉原のこと、嘘と真実が錯綜し、失踪の理由はなかなか見えてきません。

それだけに、当初は葛城と無関係に思えた、吉原の風俗や証言者の回想が、事件と結び付き、二転三転するドラマを作り出す後半の展開は、ミステリーとしても、実に秀逸だと思います。

吉原は、男尊女卑の封建下にありながら、男が遊女に従う特殊な世界。
だが、強い力を持つ遊女も、結局は借金に縛られた籠の鳥に過ぎないのです。

こうした遊女の実態は、一見華やかに見えて、その実、様々な制限を受けている、現代女性の姿に重ねられているように思えるのです。

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