心の中で染みわたる、このじんわりと熱いもの
比喩などは少ない一方、感情表現に重きをおいていて朔太郎の心理描写はありありと胸に迫る。
主人公、松本朔太郎が病気で亡くなったアキとの思い出を振り返り、未来へと一歩踏み出す物語。また、朔太郎と彼女のアキの愛と悲哀の満ちた物語。感慨深い一冊でした。
TVドラマ・映画にもなった話題作。極自然に恋人となった運命的な二人、朔太郎とアキ。しかし病魔が静かに忍び寄っていく。クリスマスイヴのラジオから空港の有名なシーンに至るまで、ストーリーは実にシンプル。おじいちゃんと朔太郎の会話からは生死や愛に対する真摯な思いが伝わってきます。ラスト、ふとした瞬間に朔太郎がお別れに踏み出す静かな余韻がいいです。
「目に見えるもの、形あるものだけが全てだと考えると、わしらの人生はじつに味気ないものになるんじゃないかね」
確かにそうかもしれない。見えないものによって生かされている部分が人間どこかしらにあるだろう。
死生観と”世界の中心で、愛をさけぶ”とはなんなのかを読者に考えさせるのがこの物語の本質なのだと感じました。好きな人を失うことは、なぜ辛いのでしょうか。読んでいるとき、私は涙が止まらなかったです。人は大切な人の死を避けて通れない。そんなことは当たり前のことなのに。
私もこんな風に美しく人を愛せたら…と思いました。
「急がずに、ゆっくり一緒になっていきましょうね。」
アキのそんな一言。
自分自身のことも人生もゆっくりと味わって満足のいく状態になったらどんなに幸せなんだろうか。ふと思う。
原作者の片山恭一さんは、第63回(1986年度・下文学界新人賞を受賞しているようです。映画、見てみたいなって思いました。昔ブームになったらしいし、、、。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)