生と死、愛
目次
- 『世界の中心で愛をさけぶ』
- 『一人で生きる人生は、ただ長く、退屈なものに感じられる。ところが好きな人と一緒だと、あっという間に分かれ道まで来てしまうのである。』
- 『もちろん緯度と経度の交点として、あるいは地理的な名によって、この場所を特定することは可能だ。でも、そんなことにはなんの意味もない。ここがどこであろうと、そこはどこでもないのだから。』
- 『いまここにないものは、死んでからもやっぱりないと思うの。いまここにあるものだけが、死んでからもありつづけるんだと思う。』
- 『目に見えるもの、形あるものだけがすべてだと考えると、わしらの人生はじつに味気ないものになるんじゃないかね』『わしの好きだった人が、かつて知っていた姿形のまま、再びわしの前に現れることはないだろう。だが形を離れて考えれば、わしらはずっと一緒だった。この五十年、片時も一緒でなかったときはなかったよ』
- 『なぜ大切な人の死はそんなふうに、わしらを善良な人間にしてくれるのだろう。それは死が生から厳しく切り離されていて、生の側からの働きかけを一切受けないからではないだろうかね。』
- 追伸
『世界の中心で愛をさけぶ』
この本を読み続けている間、心が静かにゆらゆら、揺れていた。涙が今にも、溢れ出しそうな状態が最初から最後まで続いた。気をぬくと、流れ出してしまいそうな涙。
『一人で生きる人生は、ただ長く、退屈なものに感じられる。ところが好きな人と一緒だと、あっという間に分かれ道まで来てしまうのである。』
好きだった男の子のことを思い出した。いろんなことが、あっという間に過ぎていく。世界に、色がついて見えるようになったわけじゃない。もともと色はついていた。だけど、見えるもの、聞こえてくるもの、感じることは、すべて彼を中心に、編み変えられていった。好きな人と共有した時間は、たとえ今、全然違う人と共に人生を過ごしていたとしても、よみがえってくる。今も好き、とか、そういうことではなくて、ただただよみがえってくるだけ。今と結びつかないところの時間として、今はもう、そこには決して介入できない時間として、好きな人と共有した時間は存在している。もう2度と思い出せないかもしれないし、何度だって思い出すかもしれない。自分の意思とは関係なく。
『もちろん緯度と経度の交点として、あるいは地理的な名によって、この場所を特定することは可能だ。でも、そんなことにはなんの意味もない。ここがどこであろうと、そこはどこでもないのだから。』
「世界の中心で愛をさけぶ」。世界の中心とはどこだろう。どこを探しても見つからないものがある。どこに出かけても、満たされないものがある。探しても見つからないのは、探せるところにはないから。見えるところにはないから。
『いまここにないものは、死んでからもやっぱりないと思うの。いまここにあるものだけが、死んでからもありつづけるんだと思う。』
それまではどうでもよかったのに、なくなってから大切なことに気づくみたいなことって本当にあるのだろうか。それって、ずるくないですか。その時、大切にできなかったんだから、これから大切にすることなんてできるはずがない。あの時ああしとけばよかったって思うのは、嫌だ。もう遅い。あの時ああしとけばよかった、なんて、今も何もしない人のセリフ。ずっと大切なものは、昔から大事に大事にしてきたから、今も大切なんだ。
『目に見えるもの、形あるものだけがすべてだと考えると、わしらの人生はじつに味気ないものになるんじゃないかね』『わしの好きだった人が、かつて知っていた姿形のまま、再びわしの前に現れることはないだろう。だが形を離れて考えれば、わしらはずっと一緒だった。この五十年、片時も一緒でなかったときはなかったよ』
人が死ぬことは、「ゆく川の流れは絶えずしてしかも、もとの水にあらず」そう何度も言い聞かせていれば、大丈夫なような気がしてた。私はまだ、好きな人や家族を失った経験がない。自分の周りの人が死んでいくことを考えると、怖くなった。だから、「ゆく川の流れは絶えずしてしかも、もとの水にあらず」と自分に言い聞かせようと決めていた。「世界の中心で愛をさけぶ」の主人公の祖父の言葉(小見出しの2つ)を読んだ時に、何かが柔らかくなった気がした。何度も自分に言い聞かせなければいけない言葉は、なくなった。そっと心に置いておく言葉になった。それとは別の場所に、主人公の祖父の言葉も置いておきたくなった。好きだった人が、かつて知っていた姿形のまま、再び、前に現れることはないだろう。心にいる、だなんて言うのは腑に落ちない。だけど、主人公の祖父の言葉は、なんか「あー、そうなのかなー」としんみり感じた。この場面でタイトル『世界の中心で愛をさけぶ』にもある『愛』という言葉が主人公の祖父から発せられた。理由はわからないが、印象に残った。『愛』だ、そう思った。この場面、もう一度読み返そうと思う。
『なぜ大切な人の死はそんなふうに、わしらを善良な人間にしてくれるのだろう。それは死が生から厳しく切り離されていて、生の側からの働きかけを一切受けないからではないだろうかね。』
このフレーズも、印象に残った。死が生から厳しく切り離されている。そう考えたことはなかった。少しだけ、『死』というものがイメージさせるものが変化した気がした。すぐに『死』は、怖いものだって思うかもしれないけど、ちょっとだけ、雰囲気が変わった気がした。
追伸
表紙が好き。真っ白に、水色の文字。夢中になって読んでいてタイトルの『世界の中心で愛をさけぶ』のことは、すっかり頭の中にはなかった。読み終わった後にタイトルをみて、「ふっと」、鳥肌がたった。このタイトルを見るだけで、涙が目の表面にたまる。『世界の中心で愛をさけぶ』の物語が、このタイトルを見るだけで、よみがえってくる。タイトルを見て、いい本だったなーと感じることはよくあるが、タイトルだけで、涙が溢れそうになるのは初めてである。出会えてよかった、大切な本がまた増えた。
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