名作の最後の一文を知って驚くなかれ - 名作うしろ読みの感想

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名作うしろ読み

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名作の最後の一文を知って驚くなかれ

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
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5.0
演出
5.0

目次

新しい読書の楽しみ方

おお!何て画期的な試みなんだ。そしてセンスのいいチョイス。そう、『雪国』や『走れメロス』の冒頭は読書好きなら誰でも知っているだろう。しかも、内容も大体の流れを語ることができる。しかし、最後の一文って何?って聞かれると首を傾げてしまう。そこに目をつけた斎藤美奈子さん、いや企画したのは読売新聞か、どちらにせよ、面白い。うーん、これは思いつかなかったぞ。えー、最後なんて知りたくないと思う人もいるかもしれない。そんなの知ったら読みたくなくなっちゃうじゃんと言う人もいるかもしれない。しかし、最後の一文を知ったとて、内容は全くわからないのである。それどころか、冒頭からその最後までの間に何があったのか、余計に興味を持ってしまうのである。最後の一文から、その物語の結末を想像することなんてきっとできっこない。斎藤さんの場合は、もちろん紹介した本はみんな読んでこそ、読者に「これをすすめたい」と思って選抜しているのだが、その本の内容を知らない私のような読者にとっては「へ~」としか言いようがない。しかも、それは関心の「へ~」であって、どうでもいい「へ~」では決してない。

物語には「クローズド・エンディング」と「オープン・エンディング」というのがあるそうだが、それなんだよ、私が本を読み終わった後に感じるモヤモヤは「オープン・エンディング」なのだと腑に落ちた。私は結末に謎を残した終わり方が大嫌い。さて、これからどうなるのでしょうか…というやつだ。それを明らかにするのが作家の仕事でしょうが。読み手に結末を委ねるんじゃないと。オープン・エンディングにぶち当たるたびに、今までにその本を読んでいた時間を返してほしいとまで思ったものだ。しかし、斎藤さんの解説でオープン・エンディングの中にもいろいろな手法があり、その手法が意味を成すことを理解したのである。しかし、好きか嫌いかと言ったら嫌いだけれども。

最後の一文の解釈

例えば『ビルマの竪琴』である。私は恥ずかしながらこの物語は未読である。中井貴一主演の映画で観たことはある。「おーい、みずしまー、日本に帰ろう-」というアレである。話のあらすじは何となくわかったつもりでいた。実はこの本は児童書なのだそうだ。そんなことも知らずに知ったかぶりをしていた。この本の最後の一文は「そして、われわれははやく日本が見えないかと、朝に、夕に、ゆくての雲の中をじっと見つめました。」である。斎藤さんは兵が見ていたのは敗戦国となった日本の「未来」であり、望郷の念だけではなく、これから日本がどうなるかまでも見つめていたと言う解釈である。しかし、僧になって、ビルマに残った水島に一緒に帰ろうと促した兵…という少ない場面をつなげただけの私には、兵たちは水島のことなんかすっかり忘れて、自分が日本に帰れることを今か今かと楽しみに待っているとしか思えないのである。そういった考え方、捉え方の相違も面白い。斎藤さんの解説があれば原典を読んでなくても十分楽しめるのだ。

『細雪』は読んだことがあった。京都を舞台にした四姉妹の話で、谷崎潤一郎の代表作である。最後は「下痢はとうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからも続いていた。」だ。これには、斎藤さんと同じく私も驚いた。これが最後の一文でなくてもいいじゃないか。わざわざ、下痢にしなくてもせめて腹痛くらいにできなかったものか。これを斎藤さんは婚礼に対する抵抗と解釈しているが、一方では連載が中断を挟んで面倒になった谷崎が無理矢理終わらせたという説もあるそうだ。私は、京都を離れることと、婚礼に対する抵抗というよりは人妻として生きることに対しての緊張かなくらいに読み取ったのだがどうだろう。

1冊で100冊分くらいの驚き

この本には、なんと132冊分の最後の一文が紹介されている。正直にいうと全く興味のない本も入っている。特に私は外国文学が苦手なので、読み飛ばしてしまおうかと思った原典もないことはない。なぜかというと、訳者によってその表現が微妙に違って気持ちが悪いのだ。あの有名な『風と共に去りぬ』だがラストの一文は「明日は明日の風が吹く」だと思っていた。しかし、古い新潮文庫では「明日はまた明日の陽が照るのだ」と書いてあるらしい。タイトルが『風と共に去りぬ』なんだからやっぱりそこは風なんじゃないのと思うのだけれども、訳者にはまた違う思い入れがあるのだろう。要はスカーレットはどんなことにもくじけない強い女だということが読者に伝わればいいわけだから。

また、松本清張の『ゼロの焦点』の「禎子の目を烈風が叩いた」には衝撃を受けた。普通、烈風が吹いたら目を閉じるだろうさ。しかし、禎子には閉じられないくらいに見つめていたいものがあったのだ。そういったことを、普段は読み飛ばしてしまっていた。最後の一文を読む前にこの本に関しては結末がわかってしまっていたからだ。私の中で閉じてしまっていた。もったいなかったな。改めて、最後の一文が物語に与える役割を考えさせてもらう良い機会になった。

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