本と私の個人的な交際の話
さがしもの
巡り巡って、角田光代さんの『さがしもの』という本に出合った。
本にまつわる幾つかの物語。
読書家?と聞かれれば、「はい」とは答えられないし、答えないけれど、まぎれもなく私は本が好き。
だから、この『さがしもの』という本は読まなければならない気がした。
この本の最後のエッセイの部分を読んで、本と自分のことを話したくなった。
本とのつきあいかたは、きっともっといろいろある。書き終わってからそう気づき、私はだれかの話を聞いてみたくなった。その人の本との個人的なおつきあいについて。どのようにして出合い、どのようにして蜜月を過ごし、どのように風変わりな関係であったかを。いつか機会があったら、あなたの話を聞かせてください。本とあなたの、個人的な交際の話を。
この本のもともとの名前は、『この本が、世界に存在することに』。
このフレーズを読んで頭に浮かんだのは、『あなたが、世界に存在することに』。
じんわりとあたたかい涙が、からだの中にある。
本はいつだって私に寄り添ってくれる。だから、死ぬ直前まで本と一緒にいたい。
いや、棺桶に一緒に入れて欲しい。
本と私の個人的な交際の話
高校に入学してすぐの頃、なんだか、中学生の頃と同じようにあまり友達ができなかった。特別に本が好きでもなかったけれど、授業と授業の間の休み時間をしのぐために、本を持っていって読んでいた。
私の斜め前の席の男の子が私のことを見ていた。目線は本にあるものの、視線に気付かないほど、私は鈍感じゃない。唐突かもしれないけれど、私はその男の子を好きになった。
人を好きになるということ、それがどういうことか、今でもはっきり答えられないけれど、その時の私が「好きだ」と思ったのだから、恋をしていたんだと思う。いや、恋をしていた。
TVドラマ、少女漫画実写化の映画から、胸がキュンとするものだけをあえて選びとっていたのだから、心が少しでも動いただけで、誰かを好きになれた。
男の子が自分を見ていただけで、「この男の子は私のことが好きなんだ」と思えた。
勘違いから告白して、みごとにフラれた。話をしたこともないのに、出会って七日で、告白した。
勇気だけは褒め讃える。
高校生活にも慣れてきた頃、友達ができないことは、「ヤバい」と思っていて、優しそうな何人かの女の子に声をかけて、友達はできた。お弁当を1人で食べることもなくなった。
だけど、人と会話をするのが苦手だったから、辛かった。周りに置いていかれないように常に必死に笑顔を作っていたし、小さかった声は、どんどん大きくなった。
「ヤバい」という言葉しか使えないくらい、何かには鈍感だった。
しだいに、クラスメイトからは騒がしいバカっぽい人という印象がついていった。
私のキャラクターは変わらないまま、月日が経ち、高校三年生になった。
たまたま学校の図書館で、ある1冊の本に出合った。
その小説に出てくる女の子は、教室で、声をあげて騒いだりはしない。誰と誰が付き合ってるという噂話だってしない。ある男の子のことを考えて、放課後、窓の黄昏時の空を見ているような女の子なのだ。
「もう少し早く、この本に出会いたかったな」そんなことを考えながら、私も、女の子の真似をして、帰りの駅のホームで、空を、月を見ていた。
その本は、表紙に鉛筆汚れが付いていて、紙は黄ばんでいた。何人の女の子が、この本を読んだのだろう。学校の図書館の本なのだから、みんな私と同じ高校生。
昔からほとんど制服のデザインは変わっていないから、同じような制服を着て、この学校で授業を受けて、図書館に本を借りにきたんだろうな。当たり前のことだけど、胸がわくわくした。顔を年齢も名前も知らない、この本を読んだっていうだけの共通点。私たちだけの秘密。大切な大切な本だから。
この本を、もっと前に読んでいたら、あの男の子に、もっといい恋が出来たんじゃないか。
そんなことを思った。
おとなしくて、本を読んでいる女の子がいたら、それは、見てしまうなと、思う。
あの時の私に、そのまま本を読んでいればいいよ、無理して友達作らなくていいよ。
そのままいれば、男の子が告白してくれるよ。と教えたい。
男の子が見ていたのは、あなたじゃなくて、目に見えないものだよ。と教えたい。
目に見えない素敵なものを見ていた男の子。
本を読んでいた女の子。
本は私を変える?
高校の時に、すてきな本に出合ってから、本が好きになった。
書店で買ったり、図書館で借りたりする。色々な本があることを知った。
そして、1人1人それぞれ違う恋愛があることを知った。
そんなこと当たり前じゃないか、と思うかもしれないけど、私は、知らなかった。
もう高校1年生の時のように、同じように、人を好きになることはないということ。
本は、私を、変える。
本の中には、宝物が隠されている。
見つけたら、私の心の中に大切にしまわれる。
目に見えない素敵なものを持つ女の人になりたい。
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