若かりしブルース・ウィリスを彷彿とさせるような - ロックアウトの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

若かりしブルース・ウィリスを彷彿とさせるような

2.52.5
映像
3.0
脚本
2.5
キャスト
3.0
音楽
2.5
演出
3.0

目次

エンターテイメントに徹した娯楽映画

この映画の公開は2012年だ。このあたりは未来の刑務所系の映画がいくつかあったように思う。シュワルツェネッガーとスタローンの「大脱出」とかがすぐ頭に浮かぶが、その中でもこの映画が一番の出来のような気がする。おそらく製作費などは変わらないと思う。どれもCGを駆使した迫力ある場面が多い。それでもこの「ロックアウト」の方が好みなのは、出ている俳優の演技によるものだろう。
この映画のよいところはシンプルで善と悪がはっきりしており、わかりにくいトリックなどがないところだ。こういうSFもので難しいことをされても迫力ある場面に押し切られ、よくわからないことが多い。
そして1時間30分程度の時間もちょうど良い。これ以上長すぎると飽きてしまうし、短すぎると物足りなくなる。
そういった意味で、この作品は娯楽性が高く、軽く楽しめる仕上がりとなっていた。
面白いのは、これはフランスで製作されたハリウッド映画だということだ。製作がリュック・ベッソンだからだろうか。こういうこともあることを初めて知った。とは言え、アメリカ製作のハリウッド映画と変わりはしないのだけど。

間違いなくガイ・ピアースはまり役

この映画の主人公スノーを演じるのはガイ・ピアースだ。彼はどちらかと言うとストイックで無口な印象のある俳優だったけど、この「ロックアウト」の不遜でニヒルな男がとてもよくはまっていた。彼が何者なのか、CIAのエージェントでどんな仕事をしていたのか最後までよくわからないけど、その強さと実力は隠しきれないものだった。
この少しふざけながらも仕事はきちんとする憎めない役は、まるで「ダイハード」シリーズのブルース・ウィリスそっくりだ。ちょっとドンくさいところもあり、決して必死にならない(フリをする)のに、結果は出すというところもよく似ている。
ガイ・ピアースは今までは「メメント」や「ハート・ロッカー」「ザ・ロード」で見てきたけれど、一番印象深いのはやはり「メメント」だろうか。記憶を保てない男の苦しさを実感できる演技が心に残っている。「ザ・ロード」ではラストの少ししか登場しないにもかかわらず、強烈な存在感だった。
この映画でのガイ・ピアースは、今までのどれでもない魅力をその役柄にあふれさせている。そしてスノーのキャラクターと行動にブレがない。これにブレがあるとたちまち映画に軸が狂ってしまうものだけど、そうならないのはガイ・ピアースがこの役をきっちりと自分のものにしているからだろうと思う。
そしてそれは間違いなく、監督の手腕でもある。だからこそこの映画が最後まで飽きずに観ることができたのだろう。

わがままながらも憎めない大統領の娘

助けに来てくれたスノーに悪態をつき、つまらないことに口を出し、気位の高さばかり目立っていたエミリーだけど、なぜか憎めない。恐怖のためそうせざるを得なかったのかもしれないし、大統領の娘だからという責任感もあったのかもしれない。このエミリーを演じているのは、マギー・グレイス。彼女の出世作はなんといってもテレビドラマ「LOST」だろう。あの時はヒステリックでわがままで、悲鳴が大きく、あまり好きではないキャラクターだったけど、忘れられない存在感だった。
その後「ナイト&デイ」とか「96時間」とか、トム・クルーズやリアム・ニーソンと共演するまでになり、出世したなあと出てくるたびに感慨深くなる女優だ。
そして今回はガイ・ピアースの相手役。なんとなくハラハラして観てしまうのだけど、元来逃げ惑う演技がうまい役者だ。心配せずともしっかりとした危なげない演技を見せてくれた。
だいたい役者は最初あまり好きでなければ、それが変わることはあまりない。だけどこのマギー・グレイスはそれが変わった、私にとって珍しい役者でもある。

見逃せない味のある俳優たち

この映画は何もこの二人だけではない。あっと目を引く俳優たちが多く出ている。最後実は裏切っていたハリーはレニー・ジェームズ。人のよさそうな顔立ちながらも、このような役が多い。今回もその優しげな顔立ちにすっかりだまされてしまった。逆に彼が悪役になってもさほど悪く見えないから気の毒でもある。
あとはスノーを尋問していたスコット。最終的には彼はいい人だったんだけど、これまたその風貌にすっかりだまされた。スコットを演じるのは、ピーター・ストーメア。個人的に好きな俳優だ。「マイノリティ・リポート」でトム・クルーズ演じるジョンの眼球を取り替えたモグリの怪しい医者の役も捨てがたいが、「アルマゲドン」でのロシア人パイロットの役が一番好きだ。彼自身スウェーデン出身だからロシア関係ないにもかかわらず、ロシア人特有の冷たさと合理的さ、ロシアなまりの英語など、にやけるくらいの芸達者ぶりを見せてくれる俳優でもある。

ところどころある消化不良感と疑問点

スノーが追っ手から逃げ回りビルから落下したところは、ハリウッドでよくある謎のアジアの店が立ち並ぶ路地裏だ。毎回毎回よく似た設定で、と笑いたくなるくらい、よくある。しかも中国なのかと思いきや「ラーメン」とかいうのぼりもあるし、よくわからない。いつも思うけど、こういう場面を作る時ネイティブチェックのようなものをしないのだろうか。フランスに日本人がいないわけでもないし。いくら未来とはいえ、もう少ししっかり作ってほしいところだ。
そもそもスノーがCIAの長官を殺した疑惑はすぐ調べたら分かりそうなものだったのに、どうして刑務所送りになるまで話がこじれたのかがわかりにくい。あとハリーとスノーは始めからなぜか信頼関係があるように見えた。その歴史が少しでもいいから知りたかったところだ。
そしてスノーの過去も知りたい。いきなり尋問されるシーンから始まるスピード感は嫌いではないが、回想シーンでもいいので少し見せて欲しかった。
あと取り戻したスーツケースはおそらくはスノーの罪を晴らすものが入っていたのだろう。それが何かはっきりしない上に、長官から預かったライターの中からもメモリーのようなものが出てきた。このあたり情報が多すぎてしかもそれがまとまっておらず、いささかわかりにくかったところだ。
あとハリーはスーツケースの暗証番号を不用意に開けたことで彼の罪が露呈するのだけれど、頭の良い彼がそんなミスを犯すだろうか。ちょっとリアリティにかけるところだ。
最後、少し手を抜きすぎだと感じたのは、パワースーツを着たスノーとエミリーは宇宙刑務所の爆破を逃れ、そのまま地球へと降り立つ。最近の技術の進歩を知らないのでよくわからないが、あんなパワースーツひとつで大気圏内の超高温を抜けてあっさり着陸できるものなのだろうか。しかも着地までが早すぎる。いくらなんでも適当に作りすぎなのではないかという気がした。

悪者の悪者らしさが楽しめる映画

この映画で解放された500人の受刑者は皆一様に悪そうだ。そのいかにもな様子がまるで「北斗の拳」の悪者のようで、逆にすっきりと楽しめる。
特にリーダー格の男の弟。兄に頭が上がらないながらも目を盗んでは人質を殺しまくる。また体に書き込まれた数多くのタトゥーが、凶悪さを引き立たせる。そんな彼ハイデルを演じているのはジョセフ・ギリガン。実力派だと思いきや、意外にもそれほど多くの作品に出ていない。彼のああいうエキセントリックでクレイジーな役柄をもっと見てみたいと思ってしまった。
この映画は多くのSF映画と同じように、観終わって心に何かを残すタイプではない。でも、最近のSFアクションCGてんこもり超大作映画がまるっきり最後まで観れないことを思えば、この映画の出来はまったく悪くないと思う。
またスノーとエミリーのちょっと大人な恋を予感させるハッピーエンドもよい。これもまた「ダイハード」のようだ。
ところどころ突っ込むところはあるにせよ、十分楽しめる娯楽映画だと思った。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ロックアウトが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ