脱力系ドラマの決定版
深夜ドラマの自由さを生かした傑作
深夜ドラマは大きな視聴率は望めないので低予算しか組めませんが、そのぶんターゲットを絞ったマニアックな作りが可能で、ゴールデンタイムドラマにはない自由さが魅力です。「時効警察」は、そうしたメリットをフルに生かした作品で、放映時にもかなりな評判を呼び、続編「帰ってきた時効警察」が製作されるに至りました。ここでは正編を中心に考察したいと思います。
基本トーンは三木聡ワールド
このドラマは作家主義が基本で、監督たちが自分で脚本を書いているエピソードが多いのが特徴です。ケラリーノ・サンドロヴィッチ、園子温ら舞台、独立映画で気を吐いている面々が集まっています(園はこの作品のあと何本かの映画で大幅に知名度を高めましたが、当時から注目株でした)。それだけ多士済々にも関わらず、バラツキがないのも驚きで、頭と終わりの3話(この番組は全9話)で脚本監督を担当する三木聡が見事に全体のトーンを統一しているのです。三木監督の他のドラマや映画をご覧になった方はご同意いただけると思いますが、他監督の担当エピソードにも、それぞれの個性と同時に、まぎれもない三木ワールドが脈打っています。
これは、総監督的に全体をコントロールしたというよりも、第1話第2話でガッチリと全体の方向性を定めてしまったことが大きいと思います。それは、お話の枠や展開パターンだけなく、細部のタッチやトーンという意味でも。
なお、三木監督はこれでもまだやり足りなかった部分があったのか、同じオダギリジョーと組んでの同枠番組「熱海の捜査官」では全話監督脚本に挑んでいます。
絶妙のキャスティング
「時効警察」は題名どおり、一応は警察ドラマでありミステリもあるのですが、主眼はその部分の謎解きや事件展開よりも脱力系の小芝居のてんこ盛りにあり、その成否はレギュラー俳優陣の顔ぶれに大きく左右されます。その点は今回は完璧でした。
まず主演のオダギリジョー。時効事件を暇にあかして単なる趣味で捜査する、と思い立った変人警察官・霧山修一朗ですが、見事なまでに二枚目を捨ててます。もちろん、分厚い眼鏡をかけてボーッとした喋り方をする以外、ことさらに三枚目演技をするわけではありませんし、美女・麻生久美子に惚れられるポジションでもありますが、とにかく自然体で風変わりなのです。そんな彼も解決場面では少しだけ颯爽とするのですが、あくまでほんの少しだけ。これは、番組がシリアス面に踏み込みすぎないようにしている姿勢とリンクしています。第8話では一人二役で霧山そっくりの下着泥棒役にも扮していますが、これがチョイ役なだけに丸っきり頭のネジの切れた変質者としてしか描写されておらず、こんな役を演じた二枚目スターも前代未聞ではないでしょうか。
相手役の麻生久美子は対照的に、かなり強めの三枚目演技です。彼女はもともと無個性といえるぐらい顔立ちが整った正統派美人で、インタビューによると、この役を引き受けるまでは神秘的に淑やかな役ばかりだったとか。ちょっと薄幸な雰囲気すらあり、そうした「シリアス麻生」をご覧になりたい方は2005年のサイコミステリー映画「ハサミ男」が最適です。凄絶なまでにニューロイックな彼女の姿が見られます。この翌年に、かくもけたたましい三日月しずか巡査を演じているというのも両極端ですね。もっとも、三日月は騒々しい女性ではあるものの、変人ぞろいのこの番組では唯一の常識家という設定で、のっけから「趣味で時効を捜査って、何それ? さっぱり判らない」と言い放つなど、視聴者視点を代行もしています。
豊原功補も二枚目を捨てた演技といえるでしょうが、こちらは二枚目パロディというか、ややナルシスティックな味付けでアクセントになっています。三木作品の常連、岩松了、ふせえりの達者さはいうまでもありませんが、もともと劇作家、演出家である(映画監督経験もある)岩松は、本番組でも「帰ってきた時効警察」でも1本ずつ監督・脚本を担当しています。ちなみにオダギリジョーも「帰ってきた」の方で1本監督していますが、ここで脚本もまかせているのがこのシリーズならではですね。
やはりいい加減な警察設定
霧山巡査部長の趣味はいいとして、そもそも彼が所属する「時効管理課」というのも謎の架空セクションです。時効事件の捜査資料を保管し、不要になった証拠品などを関係者に返却する、とかもっともらしい説明が行われてますが、なぜ本部ではなく所轄にあるのでしょう。他署の時効事件も扱っているような描写もあり、本部業務の一部を所轄が委託代行している、銀行でいう「統括店」みたいなものなのかも知れません。ま、そんなことは全くどうでもいいと思わせるのがこのドラマ全体の雰囲気ですが、この時効管理課のセットは実によくできています。深夜番組は予算の関係で、なかなかセットや映像にまで凝ることが期待できないのですが、「時効警察」は監督陣のがんばりもあって結構美しい絵もそこかしこに見られ、脱力系のやりとり以外にも楽しい発見が多い番組といえるでしょう。
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