主役は帝都そのもの - 帝都物語の感想

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主役は帝都そのもの

5.05.0
映像
4.5
脚本
3.5
キャスト
4.5
音楽
5.0
演出
5.0

目次

バブル期に巨額製作費を投じた異色作

映画「帝都物語」はバブル期の真っ盛り、1988年にセゾン系の資本を中心に作られました。製作費だけで10億円と、かなりのスケールを誇る超大作ですが、当時から日本映画としては異色の点が多く、話題を呼びました。

まず、原作者の荒俣宏は翻訳家(SF作家ダン・セイニをもじった団精二という筆名でした)、書誌学者として長年知られた人で、「帝都物語」は著述業10年目にして初の小説でした。長年サラ金から借金して本を集め読み続けたといわれ、超人的な博覧強記をバックにしたこの作品はすぐにベストセラーになっています。

監督の実相寺昭雄は当時からかなりのビッグネームでした。TBSディレクターから円谷プロダクションに出向して1960年代後半「ウルトラマン」「怪奇大作戦」などの斬新な演出で一部の評価を受けた後、劇場映画に転じ、「無常」「あさき夢見し」などを独立プロ系で製作してきました。「無常」はロカルノ映画祭でゴールデン・ジャガー賞を受賞していますが、デビュー長編で国際映画製作者連盟(FIAPF)公認国際映画祭(総合映画祭は三大映画祭を含む7つのみ)で最高賞を得た日本人は48年後の現在も他にいません。比較的最近では是枝裕和監督がデビュー作「幻の光」でシカゴ映画祭、バンクーバー映画祭でグランプリを得ていますが、ともにFIAPF公認外です。ただ、それだけの名声を持つ人ながら、作品は親しかった大島渚の影響が濃い、難解で観念的なものが多く、大手映画会社に起用されることはありませんでした。唯一の例外が日本ヘラルド社が3億円を投じた「歌麿 夢と知りせば」〔1977年)でしたが、これも決してわかり易いエンターテインメントではありません。

この厄介な鬼才を制御する狙いか、脚本は本人でもその周辺でもなく、全く別のところから起用されました。それが林海象ですが、この人も商業大作の経験はありません。それどころか自主制作した監督・脚本作品「夢みるように眠りたい」だけが唯一の実績という、若干30歳の新人だったのです。

例えていえば、松本清張原作、橋本忍脚本、野村芳太郎監督といった「誰もが安心のメンバー」とは真逆の布陣でした。加えて主演までが後述のように無名の新人です。それでも東宝や映画館側に拒否反応がなかった理由は、実相寺昭雄監督が当時(亡くなった今もですが)特撮マニアを中心にカルト化しつつあったこと、原作が話題のベストセラーであったことでしょう。

ストーリーがわからない!

果たして蓋をあけてみると、興行的には大ヒットと呼んでいい水準に達しましたが、評判は今ひとつでした。原作を読んでない人には、話がさっぱり判らないというのです。

少し後で4コマの巨匠、いしいひさいちがこの作品をネタに取り上げてます。ある学生が、評判の映画だと聞いてビデオレンタルしてみようと思いますが、何回訪れても棚に並ぶパッケージは全部貸し出し中。3コマ目で店員がぼやいてます「話がわからないバカが何回も借りかえてるのよ」。4コマ目では別の学生が再生ビデオを前に「うーん、わからん」と唸っています。

ここでバカ、と切って捨ててるように、そんなに無茶苦茶に難解な脚本ではありません。原作の4巻までを2時間にまとめているのでそうとう駆け足ですが、物語の展開に必要な情報は一通り入っています。ただ、映画は本と違って情報があればいいというものではなく、ちゃんとドラマの中で観客に飲み込ませた上で次の展開に移らなければいけないのですが、経験不測か意図的か、脚本はそこがまったく出来ていません。TV時代を含めれば25年のドラマ経験を持つ実相寺監督がダメ出ししなかったのは意図的でしょう。途中、登場人物の近親相姦出産が明かされる箇所があるのですが、演出はここで一切タメを入れず「そういうことです。ハイ次」みたいな、むしろ明るい描写で済ませてしまいます。日本人にはついて行きにくい感覚ですが、トニー・リチャードソン監督の映画「ホテル・ニューハンプシャー」にもこんなタッチがありました。

私はこの映画についてはこう割り切っています。普通のドラマを期待したらダメ。これはあらすじ付名場面集なのだと。

キャスティングも異色

この映画はキャスティングも異色です。いちおう渋沢栄一に扮する勝新太郎がトップ待遇ですが、主演と呼ぶほど出番が多くありません。悪役ではありますが、最も頻繁に登場する加藤保憲をこそ主役と呼ぶべきでしょうが、この映画はここに無名の新人・嶋田久作を抜擢しています。しかも、舞台でこそそこそこ知られてましたが、俳優をあきらめて植木屋を始めようとしていたところを連れ戻しての起用です。今でも活躍中なのでご存知のように、二枚目とはほど遠く、期待のニューアイドル的な売り方は到底できません(年もそこそこでした)。ただ、その異相はインパクト抜群で、映画のヒットを呼びこみました。口跡の明瞭さはすばらしく、同じころ「敦煌」の予告編を見て西田敏行の、喚き始めたとたん何言ってるんだか聞き取れなくなる演技に、同じ舞台人でしかもこっちはベテランなのに、と失望した記憶があります。

脇は一応豪華なんですが、それでも正義側を代表するような役に当時「夢みるように眠りたい」に主演したのみで一般には無名もいいところの佐野史郎、その妹に宝塚娘役トップながら聊か地味な姿晴香、と摩訶不思議な起用が随所に見られます。およそマーケティング的じゃないんです。豪華スター陣の方も、勝新太郎はさすがに文句なしとしても、高橋幸治と原田美枝子はかなり通好みと言っていいでしょう。桂三枝(現・文枝)も不思議な使われ方をしています。セント・ルイスは漫才師の使われ方としては定型的ですが、それでも今見ると(当時からそうでしたが)、少し前のマンザイブームの中からほかでもない彼らが代表として選ばれていることが、ある意味凄いひねり方に思えてきます。

音楽と映像

実相寺監督は、オペラ演出も相当数手がけた人で、クラシック音楽に関する評論も多く残しています。当然ながら映画音楽はすべてその系統に属する現代音楽畑の人が起用されてますが、ここでは映画音楽初挑戦となる石井真木がオリジナルメロディとワーグナーを繋げたテーマ音楽をものにし、強い印象を残しています。後半ではヨハン・シュトラウスも用いられ、ぐっと雰囲気が華やぎます。この映画は映像もそうなんですが、明るい描写と暗い描写が不意打ちのようにめまぐるしく入れ替わります。こういった点も当時の観客を混乱させたのでしょうが、撮影・中堀正夫、照明・牛場賢治、特撮・大木淳といった長年の実相寺組に大御所・木村威夫を加えた映像は本当に見事で、全体に駆け足ななかで僅かに見せる緩急も堂に入ったもの。絢爛たる存分にオカルト絵巻を楽しむことができます。

滅んでは甦る帝都

先ほど、勝新太郎は主役とはいえない、と書きました。ですが、要所で重々しい演技を披露する姿を見ていると、この映画の真の主役は帝都東京そのものであることに気づかされます。大正から昭和にかけて、滅んでは甦りを繰り返すその姿は、まさに生命を持った存在のようであり、そのぶん加藤を除く人間たちの存在感が希薄になったのはやむをえないでしょう。

今なお最高の評価を得ているとは言いがたい作品ですが、視点を変えると尽きせぬ魅力を放つ万華鏡のような名作だと思います。

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加藤も被害者なのか帝都物語を何度も見てきていつも思うのは加藤の執念そこまでして帝都の破壊をしたいのはなぜなのか?江戸時代に徳川家康が妙見信仰で平将門結界を施している。平将門を中心に神社を入れて北斗七星の形で守護しているもの。念には念を入れてわざわざ中国の大連まで行って地脈を操って地震まで起こしてすごいと思った。結果的関東大震災が起きて帝都は破壊されたがまたもや復興。帝都の復興も本当に早い。ネットの検索では明治政府は徳川家康の作った平将門結界を嫌っていたらしい。映画では地下鉄を掘っている最中に鬼が出て対処出来なくなって學天則に頼んで最後の開通する場所を爆破してトンネルを無事に完成させた。加藤が一生懸命に地脈を操っていたのに作戦失敗少し気の毒です。映画で出てきた地下鉄は今の山の手線に関係しているのかなと山の手線を走らすことで北斗七星の陣が分断されています。映画では平将門の結界は破れなかった...この感想を読む

3.03.0
  • なっちゃんなっちゃん
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