本作の見据えた日本のリアルって - カケラの感想

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映画レビュー数 5,784件

カケラ

3.333.33
映像
3.50
脚本
3.00
キャスト
4.17
音楽
2.83
演出
3.50
感想数
3
観た人
3

本作の見据えた日本のリアルって

3.03.0
映像
2.5
脚本
3.0
キャスト
3.5
音楽
3.0
演出
3.0

目次

漫画もアニメも全く嗜まないけども

私は日本映画(特に女性監督)に対するリテラシーは非常に低いです。また、同様に漫画原作の映画というと更に低く、とはいえ、2018年現在、むしろこのジャンル(漫画原作ではないアニメ映画を含む)がトレンドセッターである事は、日本に住んでいれば誰だって安易に想像出来てしまいます。因みに本作、カケラが公開された2009年の日本国内映画興行収入ランキング1位は、同じく漫画を原作とした「ROOKIES-卒業 -」でした。せっかくなので2009年から2018年現在までのランキングを振り返ってみましょう(2009年から数えれば丁度10本ですし)。「ROOKIES-卒業 -」に続き、2010年「アバター」、2011年「ハリー・ポッターと死の秘宝PART2」、2012年「BRAVE HEARTS海猿」、2013年「風立ちぬ」、2014年「アナと雪の女王」、2015年「ジュラシック・ワールド」、2016年「君の名は。」、2018年「名探偵コナンゼロの執行人」(暫定)となっており、実に3本(アニメ映画も含めると6本)が漫画を原作にした作品だという事が分かります。この歴代1位の10本を比較対象とした考察も大変興味深いですよね。更にいうと2位以下の順位を見てみれば、群雄割拠の時代と言えるでしょう。因みに「カケラ」は40以内にも入っていません。興行収入が直截、作品の評価に繋がるとは思ってもいませんが、歌は世につれ世は歌につれと言うように決して世相と繋がっていないとは映画と言えど、言えないのではないのでしょうか。興行収入上位に君臨する漫画原作の映画と同じく漫画を原作とした「カケラ」の世相との距離感はなんなのでしょうか。

原作者、監督、出演者の恋

物語は端的に言ってしまえば、レズビアンである女性からの愛情表現に世間体を気にしつつ葛藤しつつ、惹かれてしまう女性の恋の物語です。もっと言ってしまえば、監督(安藤モモ子),そして主演女優である2人がお互いに作品を軸として恋している事が映像から伝わってきます。恋とは自我を押し殺し相手との同一化を目指す事です。恋する者は恋した者を真似ます。この映画からは出演者と監督からの作品に対する自我を全く感じません。そして、原作者の権限としての映画に対する強圧さも感じられません。制作側のコンフリクトが全く感じられない事が、この作品自体の主題(レズビアンというマイノリティー)とコンフリクトを引き起こしているという事が、世相との距離感ではないのでしょうか。LGBTであるという事は彼ら、彼女らの中で性に関してコンフリクトが起こっています(これは差別でもなんでもないです)。要は未だに世相とLGBTはコンフリクトしており、本作はその世相とコンフリクトしているLを主題にしている映画であるが、映画特有の制作側それぞれの立場の自我が感じられず、コンフリクトしていない。という3重構造が鑑賞者に対して潜在的な複雑さを生んでしまっている事がこの作品と世相の実質的な距離感だと言えるでしょう。

2018年から見た2009年

レズビアンを扱った女性二人の物語ですが、公開当時、どれ程の共感者がいたのでしょう。満島ひかりの演技による虚無感全開の女子大生は設定と演技の上手さにより、とても普遍的に見えます。が、この人物に対して同時代の女性がどれ程、共感するのかは正直分かりません。ただただ彼女の演技に脱帽しました。歌って踊れる役者の表現する虚無感には惚れ惚れします。これについては、アメリカのミュージカル映画、ラッパー、R&Bシンガーに顕著です。演出上のマッチョイズムは、公開当時、どのように映ったのでしょう。SEXをしている最中にTVに映し出される戦争の映像、ライブハウスで裸体を晒すロックバンド、サラリーマンしかいない居酒屋のシーン等は2009年ギリギリセーフの演出だったでしょう。というのもこの後すぐに、「女子力」(漫画家の安野モヨコが命名!!)、「草食男子」という言葉が2009年の流行語大賞にノミネートされ、2010年に「女子会」がトップテンに入りました。2018年現在からすればこの演出は完全に無効であり、現在は完全に逆転しています。女子アスリート、アイドル人気、女子会等、現在のカルチャーを定着させる強度があるのは圧倒的に女性です。だからこそ「草食系」などと言われ深層では受け入れられずにいた男子諸君、聖地であった居酒屋を女子会に奪われたサラリーマンの方々は「シン・ゴジラ」に救済を求め、実際に救済されたのでしょう。

彼ら、彼女達の品格

映画のラスト、二人の関係の結末は語られずじまいでしたが、映画の世界ではない2018年現在の現実世界においてもレズビアン、女性のトランスジェンダーの問題はここ日本においては2009年の頃から変わらず一定の距離を保っているように思えます。ここ日本のTVではゲイ、男性のトランスジェンダーは完全にとは言えませんが、許容されていますし、ブラックジョークのネタにもされています(これは彼らの勝利を意味します)が、男性のそれとは違い、女性の方はというと、未だにタブー視されている様に思えます。2012年、傑作アルバム「Channel Orange」を発表したアメリカのR&Bシンガー、フランク・オーシャンは初恋の相手が男性だったと告白し反響を呼びました。それまでは、HIP HOPを含むいわゆるブラックミュージックの世界に属する男性にとってこの様な発言はタブーでした。最近では同じくブラックミュージックの世界に属するジャネル・モネイのパンセクシュアリティについての発言も話題になりました。ブラック・ミュージックとはセクシャリティと強く結ばれている音楽でもありますから、そういった意味で彼らの発言は必然的だとも言えます。また、映画の世界では、2015年に「キャロル」が公開されました。カンヌ国際映画祭に出品されましたが、残念ながら、パルムドールの受賞は逃してしまいました。その後、2016年に公開された「ムーンライト」がアカデミー作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞しています。これは、同性愛=マイノリティー=アートと言った捻じれた権威なんかではなく、映画における語り口が更新され、制作側と鑑賞側の同一化も更新されたという素晴らしい結果だったのではないでしょうか。因みに先述したジャネル・モネイも女優として出演しています。本作「カケラ」、「キャロル」、「ムーンライト」の共通項は同性愛という事はもちろんですが、彼ら、彼女達の恋愛模様が皆、とても静かでストイックであり、品格があります。ノンケの恋愛映画にありがちな出会い、トラブル(主に喧嘩)、仲直りしてハッピーエンドという身体的演出を前景化させず、内面的、静的に見せる事により彼ら、彼女達の世相から社会的に認知されたいという思いが逆に浮かび上がってくるという気品のある素晴らしい演出だと思います。そして物語に関しても、静かに彼ら、彼女達の感情で物語が駆動していきます。

これからのフェミニズム映画とは

日本におけるフェミニズムと前述したアメリカのフェミニズムを比べられてもなー、と言われればそれまでですが(アメリカにはまず肌の色という、鬼門といって良い問題がフェミニズムの問題にも含蓄されます)、じゃあ、同じアジア圏内では?となると「黒衣の̻刺客」(2015年)の監督、ホウ・シャオシェンは次の様な発言をしています。「男は生物としてつまらない。女性のほうが複雑で独特な感受性を持っていて、そういう面に私は惹かれます」と発言していますが、この映画は任侠物で、前述の「キャロル」、「ムーンライト」とジャンルは違えどストイックであり品格があります。「カケラ」も10年程前の映画ですが、これらと同じ路線の演出と言っても良いでしょう。映画としては、どれも大変素晴らしいですが、世相との距離感(潜在的な許容)を考えると、男性のジェンダーの問題と同様にブラックジョークとして笑える日が来れば、今後のこの手の映画に期待できますし、そう願っています。

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他のレビュアーの感想・評価

アブノーマルな作品

癖になる安藤モモ子の作品初めてこの映画を鑑賞した時は正直ウーンという微妙な感想でした。ただすごく見返したくなる、なんだか中毒性のある作品になっています。安藤モモ子の監督作品は初めて鑑賞するという事もありどうしてこのようなシーンをとるのか、このシーンにどのような意味があるのかと作品を鑑賞しながらついつい考えてしまいます。きっとこのシーンを撮影するには意味があるんだろうと見終わった後ももう一度見返そうとしてしまうんです。女性ならではの感性で撮影されており独特の空気感がこの映画には漂っています。この映画は主人公満島ひかりがレズビアンの女性と恋に落ちていくストーリーになっています。最近は時代が変わりホムセクシャルやレズビアンに対して偏見の目がなくなりつつありますがそれでも少し重いテーマだと思うんです。ですがノーマルな恋愛をしてきた私でも観ていて重いなと感じることはなく同性愛を押し付けるわけでも...この感想を読む

4.04.0
  • 猫と犬猫と犬
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フランス映画のようでした。

女子ならきっと共感するはず。「なんでこんな男と居るんだろう・・・」そう思いながらもズルズルと付き合い続けてしまった経験がある女子は、世の中に結構いるんじゃないかと思う。主人公のハルがあの頃の自分と重なってちょっとイタイ気持ちになるけれど、そんな自分と葛藤するハルにとても共感できた。レズビアンじゃなくても、やわらかい女子に触ってみたい願望はある。「女の子っていい匂いするしやわらかいし綺麗だし、触りたいって思わない?」リコの言葉に妙に納得した。私自身が貧乳なこともあり、フワフワとしたマシュマロ女子に対する憧れが昔からあるし、触ったら気持ちいいだろうなって確かに思う。男は臭いし汚いし、ゴツゴツしてて毛むくじゃらで、どうしてあんなものと抱き合って満足しているのだろうと、ふと自分でも疑問が生まれた。私はレズビアンじゃないけど、リコの言葉に異論はない。ハルもきっとシンプルにそれに共感したから、リコ...この感想を読む

3.03.0
  • フーコフーコ
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