怪談ファンタジー - 夜市の感想

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夜市

4.504.50
文章力
5.00
ストーリー
4.00
キャラクター
3.00
設定
5.00
演出
5.00
感想数
1
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怪談ファンタジー

4.54.5
文章力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
3.0
設定
5.0
演出
5.0

目次

怪談なのかファンタジーなのか

私は怪談話が好きです。怪談話が好きなのにファンタジーが好きではありません。

幽霊を信じているわけではないですが、それなりに現実感があって、それでいて「なんで?」という不思議な部分が残っているお話が好きです。

ちょっと面倒くさい人だと思われてしまいますが、それでいて、がっつりと起こった現象を科学で説明させたり、言い訳じみた解説がずらっと書いてある作品もあまり好きではありません。スマートで謎を残す、現実的な話が好きです。

どっぷりファンタジー?

そんな私にとって、この話は読み始めて、もうかなり早い段階で「これ、最後まで読むのきついかもな。」と思うくらいファンタジーでした。そして、今回この本を読んでみて、私は自分の隠れざる嗜好に気づかされました。

私は本当のところ、異世界ものが好きだということです。少し長くなってしまうのですが、私の自分の新たな嗜好の分析をもう少し書くと、以前「四国」という映画を見たことがあります。リングからせんなどの系列で、映画館で上映されていたもので、あの頃の和製ホラー映画ブームの中で生まれた一本だったように記憶しています。そして、あの映画も四国を舞台にした異世界もの、だったように思います。

私は今回この「夜市」を読んで、あの「四国」と比べてみました。あまりほかの材料がなくて、本と映画という違ったジャンルでの比較になってしまうのですが。

何はともあれ、この二つの作品を比べてみた時、私は「私の求めている異世界ものの特徴は、「夜市」に色濃く出ている」と感じました。それは、たぶん視覚的な色彩の美しさなのではないかな、と思います。あの、二人が夜市に初めて訪れる瞬間の描写が、とてもきれいです。真っ暗な中にポッと小さく灯っている火に向かっていくと、気づかないうちに回りに屋台が広がっている感じ。ちょっと宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」で、千尋が湯屋のある街に入り込んで、辺りが暗くなり始めるのと同時に、街に火が入り始める、あの時の心がざわざわする感じ。どんどん取り返しがつかないところに、入り込んでいってしまっているのに、自分ではどうすることもできない、それでいて、もっと先も見てみたい、とういうような、好奇心と焦燥感がない交ぜになったような気持ちと似ています。

少し長くなってしまいましたが、このようにこの本は私の新たな好み(ドキドキ)を引き出してくれました。

「夜市」と「風の古道」のつながり

ここで、少し大まかなこのお話のあらすじと、所々で私がどう思ったかを書こうと思います。

この本は大きく二つのお話があります。題名も違い、目次にも分けられて載っているのでわかりやすいですが、一つ目は本の題名にもなった「夜市」、そしてもう一つは「風の古道」です。この二つは何の記述もありませんが、つながりを持っていると推測できます。二つ目の話である、古道のどこかに夜市があるのかもしれません。読んでいった感じでは、違う理(ことわり)の中にある世界とは思えませんでした。そう、この二つの世界には異世界ならではの理があります。例えば妖怪や死者が闊歩している、普通の人間はそう簡単には入ってこられないし、そう簡単には出れない、など。「風の古道」でかなり重要人物で、永久放浪者なるものが最初の「夜市」の冒頭で出てきていますが、名前が抽象的なので、これが同一人物かはわからないようになっています。ただこの「永久放浪者」という言葉は、作者のオリジナル性が高く、あまり普段は使用されない言葉なだけに、あえてここで二つの物語の共通性を与えたようにも思えます。深読みすぎかもしれませんが。

夜市の世界

「夜市」は一組の男女が不思議な市場(私は縁日のようなものを想像したので、市場というのはちょっと大がかりすぎるのかも知れません。)を訪れます。そこはこの私たちの住む世界とは違う、死者や妖怪たちの世界。男の人(裕司)は以前、子供のころにこの場所を訪れたことがあり、どうしても欲しかった野球の才能を弟を売ることによって得ています。ただ、それをずっと後悔していて、またこの夜市に来る機会をうかがっていました。夜市で売っているものは、かなり高額なものが多く、何かしらの買い物をしなければ外に出ることはできません。

読み進めるうちに、まさか、連れてきた女性(いずみ)を売って、弟をまた手に入れるつもりなのか、とか心がヒヤッとする場面もありますが、最終的には裕司のあたたかな気持ちに安心感を持って読み進めることができるようになっています。

「風の古道」=無法地帯?

もう一つの「風の古道」という話は、もう少しグロテスクで、視覚的に怖いところが多いように思います。「夜市」は裕司がイズミを裏切るのではないのか、この先、どんな変な登場人物が出てくるのか、など心理的にヒヤッとする部分があるのに比べ、「風の古道」は視覚的に怖い要素も組み込まれています。首が取れそうな死体が意識をなくして古道を通り過ぎる描写や、実際に人殺しもあります

私なりの深読みで、他の人がどう考えるかはわかりませんが、「夜市」の方は、あくまでも幻想的でおとぎ話の中の出来事のような印象が強いのに対して、「風の古道」の方は、妙な現実味があります。

私は以前ヨーロッパを旅行して回った経験がありますが、よく、その町のシステムに馴染めず、最低限の法律以外は、放棄して生活をしている人たちの集団を見ることがありました。表向きの建前は違うのかもしれませんが、ヒッピーなどもそのような集団だったように思います。簡単なドラッグなども結構カジュアルに取引されていて、無法地帯という町が、例えばドイツやデンマークの都市部ではちょっと隔離されたような場所として確保してあり、そういう人たちが暮らしているのです。(とはいっても都市部の一角なので、まったくの辺境の地、というわけではなく、街の中に突然、そういうフェンスで遮られていたり、木立で遮られていたりする場所が出現し、その中がそういう無法地帯だったりしたように記憶しています。)地元の人の話では、警察も、ドラッグをやる人たちがここに集中するから、反って取り締まりやすく、一つの「ゆるい場所」として残しているのだというような話をしていたのを、覚えています。

少し長くなってしまいましたが、私は風の古道の住人達に、このような場所と共通のある種の諦めや、殺伐とした感じを重ねてしまっていました。ちなみにヨーロッパの無法地帯にも、さすがに殺人をする人は放されていませんが(笑)。妙に物悲しい、世間と馴染みたいのに馴染めないような、そういう空気を読み取りました。

自分の新たなる可能性

最後になりますが、私は冒頭でも述べたように、この本を読んで、自分の新たな好み(可能性)に気づくことができました。これは新たな発見であり、いつも貪るように本を読んでいる私にとって、とても良いきっかけになったと思います。本好きでも、あまりにも同じようにホラーばっかり、学校の怪談ばっかり読んでいるとしっかりと飽きてくるのです。

新たな可能性というよりは今までの嗜好をもうちょっと細分化できたということなのかもしれません。私はSFものがとても嫌いで、たとえお金を出して買ったとしても、途中で読むのをやめてしまったりします。あまりしっかり検索せず、その時の思い付きや表紙やタイトルの良さで本を買ってしまうので、これは本当に反省すべき点です。

この本は、私のような「異世界ずき」に気づいていない人にとって、とてもお勧めできる本です。(お勧めできる枠が広くなくて申し訳ないですが。)

最初に異世界の定番とも言える綺麗な色彩の不思議な「夜市」があり、それにちょっとスパイスを加えたような「風の古道」が続く。

「風の古道」は(私の解釈では)少し現実との接点があり、そして「夜市」との接点もある。

とても面白く読めました。

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