ハリウッド映画を盛大に皮肉ったコメディ映画
目次
映画会社の多忙さが十分に伝わる冒頭部
この映画は映画会社の重役であるグリフィン・ミルが主人公だ。その彼をティム・ロビンスが演じている。脚本家からの企画の売り込みを選別するのが彼の仕事であり、そのため一日125本もの電話が彼の元にかかってくる。当然すべてじっくり聞く時間はなく、「25語以内で話せ」とか「連絡する」と言いながらしないなど、自然に態度は尊大になり、敵も多い。そんな中、彼の元に脅迫状が届き始める、というストーリーだ。
映画の冒頭部はとにかくその多忙さが伝わってくる。グリフィンに走り寄る脚本方たち、またその関係者たち。カメラは切り替わり、そこから人から人へとカメラは流れるように移動していく。女性同士が話しているのを写していると思えば、そこにすれ違った男性同士の会話にカメラがついていくといった具合だ。それが繰り返されることで、この業界の忙しさが実感できる。そして皆早口で話し、早足だ。だけど大したことを話しているわけではないところに、皮肉を感じた。
部下でもあるボニーとは恋人同士で、グリフィンの人生は順風満帆に見えた。だけどこの脅迫状が届きだすころから、急速に転落していく。
相変わらず変な日本食レストラン
脅迫状に怯えたグリフィンは自分で犯人にあたりをつけ、ケヘインという男性にたどり着いた。なんとか和解しようと穏やかに話すグリフィンを最後まで罵倒したケヘインを、激昂した彼は殺してしまう。しかもケヘインは脅迫状の犯人ではなかったのだ。
この安い展開はなんともハリウッド的で、監督がなにを言いたいのかがよくわかる。いかにもありがちな、しかも悔しいことにちょっと先が気になる展開だ。
また、グリフィンとケヘインが食事をするレストランが日本レストランなんだけど、これもまた“日本?”と首をかしげたくなる代物だった。映画で日本的なものが出てきて、違和感を感じなかったことは一度もない。日本人として出ている人はかなりの確率で韓国人か中国人だし、日本的だと出してくるものはすべて、アジアのイメージのミックスだ。そういうのを見るたびに、ハリウッドに日本人がいないわけでなし、ネイティブチェック的なことをしないのだろうかといつも疑問に思ってしまう。
逆に、ハリウッド映画に登場する妙な日本レストランを日本でオープンさせたら流行るんではないかという気さえしてしまった。
数々の意味ありげなカメラワーク、ブラックな笑い
この映画には多くのいかにも意味ありげなカメラワークが出てくる。グリフィンが立ち去ったあと写る銅像とか、なぜかカメラが移動した先に出てくるいくつかの写真とか、極めつけはグリフィンがケヘインと一緒にレストランへ(例の妙な日本食レストラン)行く後写る、ポスターの「Something is waiting」という文字だ。これは若干懲りすぎのような気もしないではなかったけど、この無意味、あるいは大して意味のないカメラワークも、ハリウッドを皮肉ったものなのかもしれない。
あとグリフィンが警察に連行されたとき、なぜか女刑事(ウーピー・ゴールドバーグ!)がタンポンタンポンと連呼し、グリフィンの供述をそれを振り回しながらいかにも適当に聞いている。いらつきながらも冷静さを保とうとしているグリフィンを、最後皆で馬鹿にしたような笑いで笑うのだが、そのバカバカしさや意味のなさは、おそらくハリウッド映画で警察が決まってやる、わざとらしい無能さをあげつらっているのだろう。
それと同時に、ヒットするハリウッド映画の条件、「笑い」にあてはまるのかもしれない。
あと、いかにもな刑事の分かりやすい尾行もその演出のひとつだろう。
豪華絢爛なカメオ出演の面々
この映画はハリウッド映画を皮肉る映画だというのに、本人役でハリウッド俳優が多く出演する。映画が始まってすぐに、会食中のグリフィンは同じレストランに来ていたジョン・キューザックに挨拶するし、パーティで出会うライバルの男ラリーの横には、ジェフ・ゴールドブラム。それ以外にもブルース・ウィリス、ジュリア・ロバーツ、「バック・ドラフト」で味のある消防士の役が印象的だったスコット・グレン、スーザン・サランドンなど、目を見張る多くの俳優たちが贅沢にもチョイ役で出演している。その豪華さは「マーズ・アタック」や「オーシャンズ」シリーズ以上ではないだろうか。
しかも、彼らがなんだかノリノリで出てくる感じは、見ていて気持ちのいいものだった。
ブラック・コメディ映画ながらも感じるティム・ロビンスの演技力
コメディ映画でもわかりやすい笑いがある映画ではない分、もちろん演技力も必要だ。そういう意味でグリフィン役のティム・ロビンスの演技は、すべてが完璧だった。ケヘインを殺したことを隠さなければならないのに、ライバルへのつまらない見栄からマイナー映画である「自転車泥棒」を観たともらした時の、一瞬「しまった!」と言う顔、逆に意味もなく女刑事らに笑われている最中の若干コメディチックな怒りの顔。すべてがその場面にぴったりで、違和感がなかったのもよかったと思う。
その上、急に冷たくなったグリフィンに詰め寄るボニーへの冷たい表情などは、役者だなと思えるものだった。
ハリウッドに飲み込まれていく、リアリティ
グリフィンの元に持ち込まれ、ライバルラリーに渡した企画は、この企画は売れないだろうと思い、そうすればライバルの足をひっぱれると目論んだ上だった。その企画は、ハリウッドスターではなく無名の役者を使うこと、そしてハッピーエンドではないことがグリフィンが売れないと思った理由だ。しかし出来上がった映画は、ブルース・ウィリスが派手に壁をぶち壊してジュリア・ロバーツを助け、そして「遅かったのね」「渋滞しててね」などと、激しい場面なのにのんきなセリフをかわすいかにもハリウッド的ハッピーエンドに仕上がっていた。そして誰よりもその映画に拍手を送っていたのは、その脚本家自身だというのも面白い。
企画の時点ではいくらリアリティを追求しても、映画家たちにこねくり回されていくうちに、こういう映画が仕上がってしまうのだろうか。
強烈なハリウッドへの批判だと思う。
でも、この時のなんだかノリノリで楽しそうなブルース・ウィリスはよかった。そしてジュリア・ロバーツ。今まで見た彼女が出演した映画の3本指に入るくらいきれいだったのが印象に残っている。
こんな映画になる前に脚本家がつぶやいた、「俳優のイメージは物語を傷つける」との言葉。それがなんだか心に残った。
サスペンス・笑い・バイオレンス・ハート・セックス・ハッピーエンド
警察に出頭し面通しを受けたグリフィンは、唯一の目撃者であるおばさんのあいまいな記憶力のせいで無罪となる。そして、ケヘインを探すうちに出会ったジューンとは晴れて恋人同士となり、ラストシーンでは彼女は赤ちゃんまで身ごもっていて、いかにも幸せそうな奥さんになっていた。そして「遅かったのね」「渋滞しててね」と二人で言葉を交わして終わる。それはあのつぶされてハリウッド的に仕上がった映画と同じセリフで、これもまた憎い演出だ。
グリフィンが言うハリウッドのヒット条件、サスペンス・笑い・バイオレンス・ハート・セックス・ハッピーエンド。そしてスターのキャスティング。この映画はこれら全部の要素を満たしている。いわばハリウッド的教科書通りに作ったらこうなりました、といったブラックさを感じられる映画というわけだ。
こういう意図に気づかなければ、若干冗長さを感じるし、ただだらだらと続くさほど面白くもない映画のように感じるかもしれない。でもハリウッドを完全に皮肉り、できあがった映画だと思うとそれはそれで見ごたえがあると思う。
でもこの映画の配給はニュー・ライン・シネマだから、これも立派なハリウッド映画だというのも、またブラックで面白いところだ。
最後まで観てそれなりに感じることはあったけれど、一番かわいそうだったのはまったく何も悪くないボニーだと思う。
そしてやっぱりティム・ロビンスは大きい。「ショーシャンクの空」ではあまり気にならなかったけど、この映画ではかなりそれを感じた。でも、「宇宙戦争」でトム・クルーズと対峙した場面でもあまり身長差は気にならなかった。あれは足元どうなってたっけ、階段だったっけなどと余計なことまで思いを馳せてしまうくらい、ティム・ロビンスは大きかった。
この映画は映画の内容もさることながら、ティム・ロビンスの大きさも印象に残るだろう作品だと思う。
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