ジャスミンの自己プロデュースについての考察 - ブルージャスミンの感想

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ジャスミンの自己プロデュースについての考察

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
4.0
演出
4.5

目次

名前から作りこむ

本名はジャネットなのにジャスミンという名前で暮らしている。私の周りにも60代以上の女性で名前を変えている人が何人かいるが、「子」をつけたり「〇〇子」に変えるなど地味な方向に変えた人ばかりである。ジャスミンは、ジャネットなんて平凡だからジャスミンに変えたといっているが、ホームパーティーで名前を褒められると「母がジャスミンが好きだからこの名前になった」とさらりと嘘をついている。ジャスミンと名前を変更することから自己プロデュースは始まっているのだ。

言葉選びの工夫

ジンジャーなどの庶民的な暮らしをしている人たちと比べると、直接的な表現をすることはほとんどない。ホームパーティーの後に、ジャスミンとジンジャーのそれぞれが好きになった相手と一夜を共にした後の会話の違いが顕著だ。ジンジャーは「あなたと踊ってたらムラムラきちゃったの。」や「誘いかたがスマートだったから」といっているのに対し、ジャスミンは「最高の恋と出会ったときはピンとくるの。」となんともロマンティックな言い回しだ。高級感を損ねずになおかつ私の気持ちもあなた同様、盛り上がっていると伝える、だてにセレブな生活を送っていなかったことがうかがえる。ジンジャーと言ってる意味合いは同じなのに、こうも印象が変わるとなると言葉選びを気を付けようと改めて思う。

ジャスミンとブランド品

旦那が怪しいなと思っても、なにか買ってあげると言われると疑うのをやめてしまう程、高い物が大好きなジャスミンを見ていると、ハイブランドが人型になったら自分になると思っているのではないかと感じてしまう程である。冒頭でもお金がないのにファーストクラスに乗ったり、ヴィトンのスーツケースを持っていたりすることに対してジンジャーに疑問を持たれているが、ジャスミンにとってセレブブランドを捨てることは、ジャネットに戻ってしまうことで、すなわちジャスミンの死を意味する。イニシャルが入っていたってヴィトンならば売れるし、いつも持ち歩いているバーキンなんてプレミアがついている可能性だってある。ジャスミンが手元に残して物だけなかなか値崩れしないものや、使い勝手いいものばかりであろう。全ての持ち物がチェックできないのが残念に思うくらい興味深い。

カクテル

里子として育った幼少期から、富豪に見初められて結婚とまさにプリンセスみたいな生活を送っていたジャスミンにとって、一文無し同然の今の現実は厳しすぎる。過去の世界に戻りつつ、ジャスミンなりに現実と向かい合うためタバコを吸うように強い酒と薬を飲んでいる。タバコを吸わないのは、欧米では日本以上にタバコを吸う=愚かな行為という認識が高いからであろう。ジャスミンはすでに注意欠陥障害とうつの診断はくだされているようだが、他にも色々と併発しているのは素人目にもわかる。ドワイトとの出会いの場面での虚言ぶりは、見てるこちらも「実はそうなの?」と思ってしまいそうになるほどなめらかだ。

ジャスミンの最大の欠点

自己演出に長けたジャスミンだが、都合の悪い現実は徹底して見ないという自己プロデュースする上で致命的な欠点がある。ドワイトに嘘がばれて問い詰められたときも、途中からトリップ混じりになってドワイトからしたら意味不明なことを口走り強引に車を降りてしまう。口論も最後までやり遂げることができなかったし、ハルから浮気ではなく本気だと面と向かって言われた時でさえ、パニックを起こし、パニックのままFBIに通報して、ハルとの別れ話という現実から逃げてしまった。ここまでの現実逃避ぶりは常人には理解できないから、ハルは自業自得だとしても義理の息子には同情してしまう。

ブルームーン依存

ハルと結婚して贅沢三昧の生活を送っていたけれど、出会ったときが一番のピークであったことは、ことあるごとにブルームーンについて話すジャスミンの様子からわかる。ジャスミンは、このピークの瞬間を噛み締め続けるためにハルにこだわっていたのではないだろうか。なぜなら、本当にハルのことを想っていれば徹底的に加担するか、もしくは、詐欺を全力でやめさせようとしていただろうし、浮気についてももっと早い段階で問い詰めるか、気づかぬふりを貫くか、なににせよ別れる気がないのならあんなヒステリーな問い詰め方はせず、ある程度ハルの性格にそった形で行動するであろう。

自己プロデュースの総評

ファッションや振る舞いなどの見た目のプロデュース力は満点だが、客観視ができないことから計画性のない嘘をついてしまうため自分で自分の首を絞めてしまうし、傷つきたくないために事を大きくしてしまう。自己プロデュースの最高峰である、マドンナや松田聖子を考えると、ジャスミンの自己プロデュース要素のバランスは相当悪い。あの二人までいかなくとも多少なりともその要素のバランスがとれていたなら、過去は過去でブルームーン依存にならずに、自らハルを捨てて別の男性をものにしていただろう。見た目のプロデュース力が満点なだけにその点が悔やまれてならない。ここまできたら完全に精神を病んでしまって、ブルームーンに居続ける方がジャスミンにとって幸せなのかもしれない。

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