新しいアニメの作風を開拓した作品の一つ
写実的でもあり写実的でもない空間
たまこまーけっとは京都アニメーションが製作し、監督は「けいおん!」の監督も務めた山田尚子監督の作品でもある。ジャンルとしては恋愛もありつつ、日常系というか空気系といった側面も持つ作品だ。京アニの作品には共通して作画が良く特に建物や背景を写実的に描いているという特徴がある。例えば「けいおん!」では舞台となった学校の様子はかなり細かいところまでリアルに描き込まれている。我々が作品を見ているとあたかも登場人物が実際に生きていてそこに住んでいるのではないかといったリアリティを感じることができる。また、キャラクター自体も「けいおん!」では原作の存在もありマンガ的な大げさだったりオーバーだったりする表現がよく用いられていたが、一方でこの作品のキャラクターの大部分はリアリティを感じられるような、多くの人から共感を得られるようなキャラクターが多い。例えば、親友と同じ相手に恋をしてしまって自己嫌悪に陥ったり、部活がうまくいかなくて悩んだり、片思いの相手がなかなか自分の想いに気付いてくれなかったりとリアルでもよくあるキャラクターが多い。しかしながら、このような現実をそのまま映したような風景に似つかわしくない(?)キャラクターもいる。デラをはじめとした南の王国の人々は、いかにも昔のアニメや漫画に出てきそうな、しかも劇場版では実際スピンオフ作品が作られてしまうような現実に居ないキャラクターである。このようにほとんどのキャラは現実に居るのだが一部だけおかしい、といった独特の世界観がたまこまーけっとの特徴である。
新しいタイプの日常系かもしれない
果たしていわゆる日常系アニメの主人公たちと同じような人々が実際居るかと言われると怪しい訳であくまでも日常系アニメはちょっと突飛なキャラクターたちの日々を描いていき、そこにギャグなどを挟んで面白くするという形が一般的だろう。しかしながら、たまこまーけっとはその点他の日常系アニメとは異なっており、実際に居そうだったり居たらいいなと思えるようなキャラクターの悲喜こもごも様々な感情を描いており、ところどころにギャク的要素もあるものの、基本的にはリアリティのある世界線で話が進んでいく。このような構成の作品は今まであまり無かったのではないのだろうか?リアルな世界の中で進む話は見る人々に登場人物が生きているような感覚を与え、作品が作り出した世界への没入感・没頭感を生みつつも、デラをはじめとしたキャラクターたちが非日常感とかフィクション性を生み出している。
こうした表現はその後のアニメ作品でもいくつか見られるのではなかろうか?例えば「SHIROBAKO」や「NEW GAME!」などのお仕事系作品は主要キャラはリアリティの無いフィクション感あふれるキャラクターばかりだがその一方で、"社畜アニメ"とまで称されるほどのリアリティのある仕事内容の演出だったり、周りのキャラクターが現実世界の有名監督とそっくりなど脇を固めるキャラクターに日常感があったりと私たち視聴者が日々感じうることをあえて題材としつつ、その中にフィクションを混ぜ込むことでより強い共感と現実から離れた理想を想起させ、作品の世界の中へ没頭できるようになっているのではないのだろうか?そうした観点から見るとたまこまーけっとは先進的だったのかもしれない。
ただし、その手法で行くとなると虚構と現実がたまこまーけっとの場合逆になっている。この点がこのストーリーの評価を二分している点だと思う。私が強く疑問に思う点は「デラ達って要る?」ということである。いささかデラの役割が少ない気がする。ストーリーに笑いを作るという部分は大きいが大筋となるストーリーは実はデラがいてもいなくてもさして変わらないように感じるのだ。あるとしてもデラがいるから起承転結の起の部分が始まるだけで、それ以外の部分にはあまり関与していないような気がする。当然結末を担当するのは主人公であるが、現実世界側のキャラクターは良くも悪くも現実的な事しかできない。したがって、結果として出てくる結末も現実的になってしまっている気がする。逆ならば、普通のことを普通じゃないことに昇華できてストーリーとしての面白さが出ると思うのだが。この点がこの作品がある意味平凡な青春ラブストーリーという結末で終わってしまった理由なのではないのだろうか?
いつ見てもだれが見ても楽しめる作品
現実の中に虚構を混ぜ込むことで人々は共感するとともに深い没入感を覚えるわけだが、それがこの作品のいつだれが見ても楽しめるという点を形作っていると思う。なぜなら、たまこまーけっとで題材としている現実はいつの時代の人でも感じられるような葛藤や悩み、喜びである普遍的な感情だからである。今までの日常系ではどうしてもキャラクターが突飛な言動をしたり、現実味が無かったりしてキャラクターに感情移入しにくい部分があったのも否めない。しかし、この作品では普通にいそうなキャラクターを描くことでだれでも感情移入しやすくなっている。よくこの作品は放送時間を間違えたともいわれるが、こうした親しみやすいキャラクターたちがこのような評価を作ったのではないのだろうか?
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