全貌が明らかになるまでノンストップ
優しい結界師
妖を元気にしてしまう烏森の地。この土地を守り、侵入者を滅する仕事を代々請け負ってきた墨村家と雪村家。互いに「結界師」として仕事にあたり、その存在を疎ましく思いながらも能力を高めあっている存在だ。この漫画は35巻という大作なのだが、長くてだらけることがなく、かなり秀逸な作品の部類に入ると思う。だからこれだけ長く連載できたのだろう。
やっぱり主人公の良守のキャラクターがいいよね。自分の力に溺れるわけでもなく、ただ大切な人が傷つくことがないように守るために力を使いたいと願う。そこからブレることがないの一番の魅力。また、結界師は夜に活動するため、昼間は寝ないとやっていられない。授業は聞いてないし、友だちもいるのかいないのか…って感じで、でも疎まれているわけではないという、非常に微妙なポジションをキープしている。みんなから愛されるヒーローキャラではなくて、でも彼のやっていることは偉大なこと。それをわざわざ表に出さないのが本当にイケメンだと思うし、クラスメイトの女の子に実はバレているのもちょっとドキドキさせてくれる。
良守の優しさは、自分の守りたいものだけに発動するわけじゃない。妖であっても、自我を保てなくなってしまった者や、悪意に満ちた者だけじゃなく、心優しい者、なりたくてそうなったわけじゃない者、いろんな存在がある。だから、できるなら誰も傷つかないようにしてあげたい。…悪は討つしかない、とする王道な少年漫画とはまた一味違って、考えさせてくれる要素が満載だ。誰もが、生まれた時から悪であるはずがない。
良守の成長の仕方がいい
良守は、小学生のころに自分の失敗で時音が傷ついてしまったことがトラウマになっていて、それ以降は決して時音を傷つけまいと行動している。時音がケガをしてしまう前までの良守は、自分が家を継ぐこと・結界師であることへの反抗期。なんでこんなことしなきゃいけないんだろうって悩んでいた。それが吹っ切れて、自分の能力と、目的と、やるべき努力が決まったことは、むしろ彼にとっては最高の出来事だったと言える。
少年漫画を読んでいると、やはりこれくらい自分の中で衝撃の走るイベントが起きないと、人生激変させるのなんて無理なんだろうなーって痛感させられるね。惰性で生きていくことなんて、たやすい。たやすすぎる。だから命がけの世界に憧れてみたり、実際に戦地に赴いてみたり…命の価値を探してみたくなるんだよね。
良守と時音はどちらも家を継ぐとされる能力者。実力はあるのだがまだまだ発展途上のため、失敗したり、一人では倒せなかったり…最初から、自分だけでどうにかできるくらいの強さを持っているわけじゃない。それがまたいいよね。良守はタラタラしているけど、別に不真面目なわけじゃない。ちょっと頭は悪いが、感覚では結界師として光るものがある。磨く努力も怠らないし、必要とあればプライドも捨てられる。成長できる人って、こういう人なんだろうなー…何度読んでも、良守みたいな人になりたいと思わせてくれるよ。
何となくだけど、「青の祓魔師」の主人公である燐にもよく似ているよね。フォルムもそうだし、バカだけど感覚的に優れているところ、そして何よりお菓子を作る(料理を作る)才能があるところ!イケメンじゃなくても、輝く。そんな主人公に弱いわ。
全容をうまく隠しつつ展開される
なぜ烏森にこれほど妖や毒された人間が集まるのか。その謎はかなり終盤になるまで明らかにならない。常に烏森のパワーを狙った輩が登場し、そいつらとのバトル・良守と時音の結界師としての成長が語られていくスタイルで、よくこれほど飽きないよね、って思う。どのバトルも人情があるし、全部が真っ黒じゃないし、おもしろいんだよね。うまいこと最終決戦まで引っ張ることができたのは、裏会でうごめく陰謀がカモフラージュになって、実際に良守のお母さんと間時守の狙っていることがうまく隠れていたから。しかもそれもある程度は予想済みだったっていうんだから、時守様はすごすぎる。
序盤で出ていた白(ビャク)たち一行は、ラスボスになる雰囲気はなかったけどそれなりにおもしろかった。この漫画の良心的なところは、最初は敵だと思っていた人が仲間になることは大いにあるが、仲間だと思っていた人が裏切るケースがほとんどないこと。特に良守に関わる人間では、全員がハートフルでクリーンな存在だった。だからこそ気持ちよく読むことができるし、素直に応援できるんだよね。
金剛が戦いの中で死んでしまったこと、秀や閃が加わってくれたこと、敵だと思っていた氷浦と心通わせたこと、時音と切磋琢磨しながら力を高めていったこと…どれも大切なイベントだが、仲間が多くなり過ぎないのはよかったなーって思っている。大所帯で攻め込むとかそういうことじゃなくて、1対1でキメよーぜ的な流れになるわけでもないし、バトルの流れが自然だから、読みやすいなーって感じるのだと思う。
すべては間時守のせいだった
間時守さんに関しては、すごい能力者だったことは理解できるが、生まれた時代が悪かったね…大好きな人との婚姻も、命も、宙心丸というわが子も。なかったことにされたらそりゃー自暴自棄にもなるわ。でもさ、まさか自分の我が子に術をかけるとか…そんなことよくできたわ…そこが、彼の人間として足りなかった部分なんだろう。そのため400年という長きにわたって異能者の争い、妖と結界師の共存のような小競り合いのような関係が続いてしまったのだから、とんだとばっちりである。
しかも、宙心丸は永遠の時を生きなくてはならない存在。永遠に楽しく暮らせるようにと、良守のつくる大きな結界の中で、良守の母親と封印される。そんなのってさ、おいおい…と悲しい気持ちになった。ただ、宙心丸を消し去るのではなく、永遠を与えられたっていうのは、いいラストと言えるかもしれないよね。宙心丸が寂しくないことが一番だと思うし、もしかしたら、良守が死んじゃったら今度は霊体となって宙心丸のそばにいてくれるのかも。
続編は全然期待してないけど、もし作るとしたら、宙心丸の封印が解かれる話か、彼がそれなりに成長した姿を見せてくれる話かなと思う。どこかのタイミングで宙心丸の力を狙った妖が、封印を解いてしまって、なんだかおかしなことになっていく…的な。
人情メインでうまい具合の仕上がり
少年バトルマンガにおいて、ラストにバトルがないというのはかなり珍しかったらしい。バトルの末、一番の悲しみは母親と別れることだったという…ただそれもまた、この漫画らしい幕引きとも言える。常にハートフル展開が多かったし、良守が守りたいものを守って無用な闘いをしないという信条を貫き通せるラストにするには、きっとこれが一番良かったんだと思う。
良守の母親の能力に関しては、化け物じみたほどすごいとされながら、あんまりすごさが伝わらなかったからもったいなかったな…彼女がやれば一瞬で終わったような仕事もあったんだろう。あんまり表で活動するわけにもいかない、烏森封印の件があったから、無理もないんだろうけどね。
時音とのラブはあまり期待してはいなかったし、すでに恋なんかよりももっと大きく、深く、2人は関わっていると思うから、このままの関係でもいいのかなって思った。そりゃいつかは結ばれることもあるのかもしれないけどね。もともと雪村と墨村の因縁だってあってないようなものだし。超大作の漫画だが、最後までノンストップで駆け抜けることができる、いい漫画だ。
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