クリント・イーストウッドがマカロニ・ウエスタンのヒーローからダーティハリーへ移行する、橋渡し的な作品 「マンハッタン無宿」
"ミスター、ハリウッドスター"、我らがクリント・イーストウッド、マカロニ・ウエスタンのヒーローから、映画史上のナンバーワン刑事ダーティハリーへ。その橋渡しとも言えるようなウエスタン風刑事像を、見事なまでに我々映画ファンの心に焼き付けたのが、後に刑事映画の傑作「ダーティハリー」を生むことになる、ドン・シーゲル監督とのコンビによる「マンハッタン無宿」だ。
イーストウッドが扮するのは、アリゾナ州の保安官補のクーガンという男。西部のイメージそのままの荒野をジープに乗った彼が、砂煙をあげて颯爽と登場する。シャープに決まった細目のサングラスは、「ダーティハリー」第1作で強烈な印象を残したサングラスにも似て、ハリー・キャラハン刑事の原型はすでに出来上がっていたと言える。
この西部のクール・ガイが、逃亡犯の引き渡しを受けるために大都会ニューヨークへ。ウエスタンハットにウエスタンブーツといういでたちは、まさしく「カウボーイ都会へ行く」の図であり、ウエスタンのヒーローから大都会の敏腕刑事へと役柄のイメージを変えていくイーストウッドの姿と見事に重なって見えてくる。
事あるごとに「テキサスから来たのか?」と聞かれて、「アリゾナ」と言い放つ時の「やれやれ」という得意の表情が、イーストウッド・ファンにとっては堪らない魅力だし、田舎者と侮ったタクシーの運転手が、わざと遠回りして2ドル95セントを請求したのに気付きながら、3ドル渡して「チップ込みだ」と言い残す場面などは心憎いばかりだ。
その後、犯人の引き渡しの許可がなかなか出ないのに苛立つクーガンは、強引に犯人を連れてアリゾナへ帰ろうとするが、寸前に襲われて犯人を逃がしてしまうのだった。こうして犯人を逮捕するためのひとりっきりの孤独な捜査が、この物語の軸となるわけだが、派手なアクションはほとんど無い。
しかしながら、男の渋みがそのまま映像になったようなハードボイルド調の展開や、犯人を追いつめる終盤のスリリングな空間の創造が、オートバイのチェイスをグッと引き締めるあたりのドン・シーゲル監督の演出はさすがにうまい。
それから、この映画には他に印象的なシーンが2つある。ひとつは、イーストウッドが出会ったその日に、ヒロインをラブシーンへと誘う色男ぶりを見せつつも、彼女がためらっていると察するや、静かに立ち去る場面の心地よいセンチメンタリズム。
もうひとつは、情をかけたがために逮捕した男を死なせてしまったという過去を語る彼が、その時の血の記憶になぞらえて「同情の色は赤だ」と呟く場面での、短くも鮮烈なる心理描写。
この2つが以降のイーストウッド映画に不可欠な要素として、研ぎ澄まされていくのです。
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