新たなるチームの始動
不完全なチーム
地方予選で敗退し三年生が引退したことでそれまでとは違うキャラクター達で物語が仕切り直されました。それゆえに起こる仲間同士の衝突やライバルとの差が浮き彫りになることでの個々人の葛藤、新たなキャラクターの台頭などが描かれていきます。これ自体は以前から描かれていたことですが主に主人公である沢村栄純の目線に立ってのものでした。それに対して今回のSecond Seasonではチーム全体の話となりそれまで名前だけしか出ていなかったキャラクターにもスポットが当たりチーム全体が一丸となって成長する物語となりました。これはまさに高校野球ならではの要素で、例えばプロ野球などでは一人一人の引退などはあってもよほどのことがなければチームの主力が一斉にいなくなるということはありません。高校野球だからこそ描ける物語がこのSecond Seasonだと思います。
秋大会だからこその見せ場
大会が始まった当初、青道高校の目標は打倒稲城実業でした。しかし当の稲城実業があっさりと負けてしまいます。この敗北には物語上二つの意味があったと思います。一つは最大の敵である稲城実業であっても負けるという展開を作ることで青道高校もいつ負けるのかわからないという先の見えない展開を作り出したことです。多くの野球アニメがそうなのですが甲子園に行くということを目標にしていてもあくまで本番は夏季大会であり秋大会や選抜などはあくまで前哨戦に過ぎないということです。言い換えれば物語上負けてしまっても問題のない戦いといえるでしょう。青道の監督である片岡監督が辞表を出し新たな監督候補である落合コーチがその手腕を発揮していたこともあり青銅高校がいつ負けてもいいような下地が作られ一つ一つの勝敗がどうなるのか全く分からないものとなったのはとてもうまい話運びでした。
次回への布石となった稲城実業
もう一つは稲城実業の今後のパワーアップ展開です。夏の予選で青道高校をやぶった彼らはその後甲子園を順調に勝ち進み最終的には準優勝という結果になります。多くのメンバーが高校野球日本代表にも選ばれ新チームのキャプテンもあっさりと決まり一見新チームには何の不安もないように思えました。しかし心のどこかにあったわずかな油断を突かれて敗北してしまいます。その象徴だったのがその時点で作中最強のピッチャーであった成宮鳴でしょう。彼は甲子園で鳴ちゃんフィーバーなるものを起こしいわゆるその世代を代表する怪物ピッチャーとして名を残しました。決勝で敗れはしましたが投手三人をつぎ込んだ相手に対して一人で投げ切った彼はその評価を落とすことはありませんでした。そこが大きな落とし穴だったのかもしれません。元来調子に乗りやすく明るい気質の持ち主でしたが特に過剰にうぬぼれている描写はなく新バッテリーにも問題はないように思えました。しかし結果としてキャッチャーのリードを無視した直球勝負で彼はやぶれてしまいます。これらのことが表しているのは作中最強のキャラクターといえどもまだ17歳だったということです。うぬぼれもするしそれゆえの挫折も経験するのが高校野球という場だといわずとも表現されていると思います。と同時にその挫折を乗り越えるのもこのようなアニメの鉄則でもあります。この挫折を乗り越えまた一つ大きくなった成宮鳴が再び青道高校の前に立ちふさがり以前のような名勝負の大いなる布石になる展開だったと思います。
裏主人公前園
Second Seasonでもっとも躍進したのが彼だったのは間違いないでしょう。前期のチームではベンチ入りも果たせず見せ場といえば客席からの応援だった彼が副キャプテンに抜擢されたのを驚いたのは僕だけではなかったと思います。それも意外なキャラを抜擢された衝撃的な驚きというよりは誰も覚えてなかったのに急に出てきたので「誰…?」と戸惑いが強い驚きでした。彼はかなり汚れ役の役割を持ったキャラクターでもありました。三年生が引退しうなだれている春一に対して残念ではあるがこれからは自分の時代が来た、ワクワクしていると宣言し少し冷たい発言をしましたし、本作ナンバーワンの人気キャラである御幸と意見の違いから対立し口論にもなりました。これらのことや肝心の野球でもあまり結果が伴っていなかったのもあり正直あまり人気のないキャラクターとなってしまいました。しかしこれらは彼らがまだ未熟な高校生だと表す必要な描写でした。全員が常にみんなのことを思うことなどはあり得ないし未熟な彼らが意見をぶつけ合うことで信頼関係を作るある種の必要悪ともいえるそんな役割だったと思老います。
メインである野球であっても彼はかなり難しい位置にいるキャラクターでした。絶対的な四番がいるチームの五番というのは展開上なかなか活躍させることができないからです。どうしても相手のエースが一番盛り上がる場面であてるのは四番でありそこが盛り上がるためにすべてがあるとしても過言ではありません。ごくまれに打っても四番を抑えた隙をついて打つことや四番に打たれた後のダメ押しなどになってしまいます。これが三番などであれば四番につなぐための役割があるのでまだ見せ場がありますが五番では損をすることのほうが多いのです。実際青道高校の前の五番であった増子といえば作中でもトップクラスの体格を誇るパワーヒッターであるはずが試合を決めるホームランなどの得点シーンは栄純とのチーム内での練習試合ぐらいであとはセーフティバントを決めるだとか守備での見せ場などがほとんどでした。前園もそれをなぞるように試合を決めるような決定的な見せ場はある時点まではなく本編でもなぜこいつが五番なんだと思われるほどでした。しかし秋大会本戦の一回戦で当たった帝東高校戦でまさかの決勝打を打つことで覚醒しその後鬼のような形相でバッターボックスにたちコンスタントに得点するようになります。決勝戦の薬師高校戦ではついに決勝打を打ち甲子園行きを決定づける大活躍を見せるのですがこれは野球アニメにおいてかなり異質なことだったと思います。単に四番である御幸が負傷しそのため五番の前園が打ったという構図ではありますが、キャプテンの後に副キャプテンが打ち秋大会を勝ち抜くことで一つのチームとしてまとまった構図が出来上がったのは王道ではありますが四番至上主義の日本の野球アニメで歴史が変わったような新しい展開でした。
監督の物語
ダイヤのAは以前のシリーズから監督たちが印象的な作品だったと思います。物語上あまり重要ではない予選の一回戦で当たるチームであってもエースや四番ではなく監督が最も印象的なキャラクターとして描かれていました。Second Seasonではそれらがより顕著になり物語の大きな要素として片岡監督の辞職がかかり選手たちはそのためにも負けられないという気持ちを高めているというものがありました。これも高校野球の大切な要素であるあくまで教育の一環だということを表していると思います。時につらい練習をかすこともありますが監督と選手の間にあるのはあくまで信頼関係であってすべての球児は監督のことを慕っている。その前提があるから高校野球は成立しているというのをこの作品で描いているように思う。最後に甲子園行きを決めた片岡監督を引退した三年生たちが胴上げしたのが何よりの信頼を表していると思います。
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