殺すつもりがほだされる面々 - 桜姫華伝の感想

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桜姫華伝

4.504.50
画力
4.50
ストーリー
4.00
キャラクター
4.25
設定
4.25
演出
4.25
感想数
2
読んだ人
3

殺すつもりがほだされる面々

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.5
設定
3.5
演出
3.5

目次

おなじみ元気はつらつ主人公

桜姫という名前からすでに、明るさ、美しさ、儚さを感じさせるね。肝心な時にドジなところは、琥珀といい勝負。秘剣・血桜を呼び出し衣装がミニスカートに変わってしまうあたり、メタモルフォーゼの大好きなりぼん読者を意識しているよね。「月下天誅!ご意見無用!」って完全に謎フレーズなんだけど、そこが種村さんワールドだ。

恋に焦がれて、人に焦がれて、自分が生きていることが不必要なことだったと思い知らされる。それでも生きていこうと思えるのは、仲間がいてくれるから。人が、大好きだから。相変わらず綺麗な言葉と絵をみせてくれる作者だ。

孤独に14歳まで生きてきたという桜姫。許嫁と決められていた親王様の文だけを楽しみに、毎日を過ごしていた。ついに嫁ぐことになって、でも自分が嫁ぐなんて実感の持てないことを急に言われてテンパる桜姫。散々意識してきたはずなのに、ただの一度も迎えに来てくれなかった人を愛せるのかどうか、愛してはもらえないのではないか…と臆病になっている桜姫は妙にかわいかった。

自分だけがかぐや姫の孫であることを知らずに、今まで生きてきてしまったようで、直面するイベントは実に痛々しいものばかり。何しろ基本的には不老不死だから、射貫かれようが切られようがおかまいなしなのである。青葉も、臣下たちにそそのかされていたとはいえ、愛しながらみ憎んで矢を心臓めがけて一直線に射る…。絶対見た目はヒロインと結ばれる顔なのに、早速殺しにかかるなんてずいぶんと急展開だなーと驚いた。そして殺しかけておきながら、コロッと変わって愛をささやくこともできてしまう。この変わり身の早さがすごいわ。

殺すんじゃなかったの?

青葉が桜姫を殺そうとして殺さず、守る側になる。それ以外でも、瑠璃条は疾風と仲良くなって恋されちゃうし、右京は実は朝霧と恋人同士で、舞々は一番槐の味方っぽくてワルっぽかったのに、姉を見つけて逃亡するし、さらには朱里は帝の密偵も務める裏切り者…結局、槐には誰一人、彼を信じて味方でいてくれるものがいなくなってしまう。人間を恨み、捨てたはずの人の道。最後まで生き続けていれば、きっとみんな人に戻れたのにね。瑠璃条は術で作られたものだから、人にはなれなそうだけど。

殺したいほど憎いっていうのは、どこかで愛を求めることと似ていて、その人の事ばかり考えて、どうやったら屈服させることができるのかを考えている。青葉の桜姫への気持ちと同じように、みんなその中で許しあうことができなくて、許せば今までの自分を否定してしまう気がして、動けずにいる。恨んでいるほうが楽で、許すことのほうが難しいと思わせるのが、戦国・江戸時代のような古き日本が舞台になっているとより表現されやすい。殺すって言ってて愛してしまう。心全てを悪に売ったつもりでも実は何も変わっていないんだよね。

ただ一人、裏切らずそばにあったのは、朱里かなー。抜け忍になって、大好きな琥珀にも告れなくて、せめて疾風と幸せにと願い、自分は一度槐と共に生きると決めたから…と去っていく。せめてもの、槐への忠誠と愛を感じたね。最終的には、槐と桜姫の幸せにつながってくれたと思うし、裏で動いていてくれた朱里の力がすごく大きかったと思う。

疾風たち忍者が愛しすぎる

琥珀と疾風の関係はゆるぎないものだと思っていたのに、まさかの疾風が瑠璃条に移り気になるとは思わなかった。恋物語は断然こっちのほうがおもしろかったね。青葉のオジサンは、引き際をわきまえすぎていて、ちーんって感じだし、桜姫と青葉の関係は崩れようがない。あんなに待ち望んだはずなのに、人間になって、琥珀と一緒になるって思っていたはずなのに、瑠璃条のことが気になって琥珀の告白を断ってしまった疾風。いやいや、実を引いた朱里は?今までずっと我慢してきて、ようやく告白した琥珀の気持ちは?いったいどうすんの?

そうこうしているうちに、瑠璃条は主と決めた桜姫のため、槐に牙をむいて死んでしまうこととなる。疾風は瑠璃条がいなくなったら今度は琥珀に好きだとか言うし…もうこれは、「ふざけんな」でいいと思うよ。あんなにいい奴だと思っていたけれど、疾風は論外。戻ってきた朱里と琥珀が仲良く暮らしてくれることを望むわ。誰より、愛してくれるはず。疾風は絶対浮気する…!

ただ、少女漫画の中における恋で、しかもりぼん誌だと、なかなかこういう展開にはならないから、けっこうおもしろかった。瑠璃条と添い遂げてしまえばまぁ普通なんだけど、どの面下げて琥珀に再度アタックできるんだよ!っていうのが逆に予想できなくておもしろかったというか。一時の気の迷いで済ませておめでとう!ってならないあたり、常識的な漫画だと思ったよ。

一部の狂った人間たちのせいで

それにしても、みーんないい人だったんだよね。槐だって、いい子だった。妹の幸せを誰よりも願っていたはず。人間ではないものに恐れ、命を奪い、利用しようとする、一部の悪い人間たちによって、結局はどこにも争う理由なんてなかったはずの人間たちが、争わなくてはならなくなる。最終的に救われたものは本当に少なくて、失った命のほうがたくさんあるし、確かにそこにあったはずの誰かのことも、いずれは忘れ去られてしまう…。生きてさえいれば、救われたかもしれないのに…なんかなー世の中ってこういうことなんだろうなーって思って、ただの少女漫画と言えど、考え込んでしまうんだよ。信じた人が信じるに値しない人ばかり、疑心暗鬼になっても信じ続けるなんて、絶対馬鹿を見るわーって思ってしまう。

寄り付く人間が自分にとってどういう存在か、自分の立ち位置と、周りの状況と、いろいろなものを含めて考えて、コミュニティをつくっていかなくちゃならないんだろうね。桜姫みたいに、愛を生み出し続ける人の周りには、共鳴する人・求める人が集まるだろうけどさ。狂った人間とそうでない人間を見分けるには、出会ってみないとわからなかったりする。難しいものだね、本当に。

生き返ってよかったけれど

桜姫が蘇生されて、戻ってきてくれたことは嬉しい。いや、たぶんどうにかして戻ってくるんだろうとは思っていた。それでも、朝霧といい、右京も、瑠璃条も。なんで死んじゃうの…?と言いたい。白夜がいなくなったことは、彼女が月の主として覚悟していたこと。槐がいなくなってしまったことは、自分がやってきたことの償いとして、おそらく必要なこと。それでも、仲間もこれだけ失って、忍者とメインキャラしか残らなかった。人間しか残っていないってことがすごく嫌なんだよね。雪女だって、普通に生きていてほしかったし、術で作られた存在だったとしても、世を見つめる生き方はできる。ずーっと生きていた白夜の代わりに、かぐや姫を語り継ぐ存在として…とか言えばいいじゃない。

物語が、仲間がみんな生きていて何も失っていない、というつくりだと、さすがにデキすぎの物語になってしまうし、ある程度は何かと引き換えに得るものがあるのもいいと思う。それでも、大事すぎる存在をこうも簡単に失わせてしまわなくても…って悲しい。

ハッピーエンドと言っていいのだろうが、満月の日には血桜に眠る命も会いに来てくれるとか、そういう演出ほしかった。それが心残りだね。血しぶき・敵をボッコボコなど、けっこう珍しいバトルシーンも描いていたけれど、血桜で切られた者たちは桜の花びらになって散っていく…さすがの美の描写だった。

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