ホラーというか殺人事件ミステリーだった - LOFT ロフトの感想

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LOFT ロフト

3.503.50
映像
3.00
脚本
3.50
キャスト
3.50
音楽
2.50
演出
3.50
感想数
1
観た人
1

ホラーというか殺人事件ミステリーだった

3.53.5
映像
3.0
脚本
3.5
キャスト
3.5
音楽
2.5
演出
3.5

目次

静かに流れる時間

中谷美紀演じる春名礼子は、芥川賞受賞歴のある有望な作家。しかし、最近の彼女はと言えば、なんだかスランプの様子。幻覚なのか、現実なのかが定かではないが、ゴホゴホと咳が出やすく、痰ともまた違う物体が口から出るのである。血液ともまた違う、泥のような物体。これはいったい何の病…?そう思いつつも、それ以外に特に弊害がないことから、礼子は何とかスランプを脱するため、執筆活動に没頭できるような場所に引っ越すことを決めるのだった。

最初から最後まで、ずーっと静かーに時間が流れていく。効果音も挿入歌とかも全然なしで、ただただ進んでいく流れ。ホラーだと聞いていたので、もっと恐怖を煽るような音楽でも鳴るのだろうかと思っていただけにびっくり。ひたすら静かだとあまり怖くならないものなんだなと学習した。

後からわかることだけど、なんで礼子が茨城県郊外に住んだこともないのに血反吐のようなものを吐いたかが疑問で、すでに何かに憑りつかれていたって理解するまで時間がかかった。何しろ背景とか全然わからぬまま物語が進んでいくし、回想とかそういうの一切ないからね。いきなりどうやら西島さん演じる木島が、昔担当していた小説家を殺して山に埋めたらしいと分かり、物語はすっかりホラーから推理ミステリーの領域へと突き進み始める。恐怖を極める演技というより、謎解きと、何かに囚われてしまった人間の変貌を描いていると言えるだろう。

西島さんが大根チック

西島さんが演じている木島は、物語で一番悪い人であり、けっこうな演技が求められる役柄かと思うが…なぜかとても大根役者に感じてしまった。なぜだろう。西島さんってもともと感情的な役よりも、こういう起伏の少ないキャラクターでの役が多いとは思っていたが、際立って棒読みのような気がしてならなかった。西島さんも若かったということだろうか…個人的には、木島のキャラクターと反するあのカラフルすぎる服装が原因で、違和感が生み出されていたような気がしてならない。亜矢を口論のすえ殺害し、山に遺棄した人物とは思えない、という点では成功だったかもしれない。豹変して礼子を首つり殺害しようとしたときのキャラクターは、もはやぶっ壊れていた。これぞサイコパスの領域なのかもしれない。あっさり捕まってしまったので、「悪の教典」と違い頭は悪かったのだと思う。

礼子と吉岡のキスシーンとかも…いる?って思った。ディープなキスと熱い抱擁のシーンが何度かあり、必死に礼子が吉岡を現実の世界に引き留めておこうとしているのがわかる。わかるのだが、なんかそこだけエロ映画なのか?という雰囲気が出ていた。木島が礼子を殺そうとしたときも、もはやそんな雰囲気を感じ取ってしまったのだが、普通に首つりしようとしていて拍子抜けした。出てくる亜矢の幽霊や、ミイラの亡霊が、全然際立たないのは、余計なラブシーンがあることと、大根役者の演技があるためだと思う。

謎の行動

謎な行動がこの映画にはいくつかある。

まずは、木島がなぜ礼子に亜矢に貸していた別荘を紹介したのか?ということ。普通、殺人を犯したのなら、事件発覚を恐れて何者も関係のある土地に近づかせまいとするのが普通の心理ではないだろうか。そこを敢えて礼子に住まわせ、吉岡と出会うことで自分の罪がつまびらかにされてしまい、結局また殺人をしなければならないところまでいく。…そんなことって、ある?なんで近づかせてしまったのか、木島はもはや狂った奴だったとしか言いようがない。

そして吉岡。1000年前のミイラをみどり沼から発掘し、その呪いと亜矢の殺人を自分の罪と勘違いしてしまったという謎の男。いや、あんた考古学者だろう!発掘したんだろうミイラを!展示するでいいだろう!木島による亜矢殺害を目撃したら、警察に告発だろう!…そこが1000年前の呪いってことになるんだろうけど、なぜかミイラが動き出して、吉岡が「動けるなら自分で断ち切れ…!」とか意味の分からんことを言い、え?ミイラって生きてたの?という謎…不思議な映画である。妄想の中で起こっていることだったのかもしれないが、あれはたぶん…現実で起きている感じの表現だったよね…?いや、実際にはもう幻覚と現実がわからなくなってしまった、吉岡の一連の不思議な行動だったのかもしれない。人の生と死に触れて…とかなんとか吉岡は言っていたけれど、考古学者としてそのメンタルの弱さはどうかと思う。病気だったのだろう。

二重に殺された女

一番かわいそうなのは安達祐実演じる亜矢。彼女は新米小説家であり、木島が担当していた人物。彼女もまたあの別荘を紹介されて、作品作りに没頭していただけの女性だった。それが木島の変態野郎のせいで口論になり、殺害されて山に埋められてしまったのである。そりゃー祟りの1つも起こさなければ気が済まない。そこでなぜ木島ではなく礼子に影響を及ぼす必要があったのだろうかと不思議なんだけどね…木島を呪い殺してやればいのに、なぜか吉岡にすべてが降りかかってしまったのだ。

もちろん、山に埋められただけでなく、なぜか偶然亜矢殺害を目撃してしまった吉岡によって掘り起こされ、まさかの今度は湖に沈められることになるという…二重に殺されてしまった哀れな女だった。吉岡の行動がまず意味不明なので、そこは完全に亜矢が不幸だったと言うしかないんだよね。

結果的に亜矢を手にかけた木島はふつうに警察に裁かれて、場所を変えてさらなる苦痛を与えた吉岡は、完全に自爆で湖に沈んでしまった。って、あの沈み方だと、紐をつたって浮上してくればいいと思うんだけど、どうだろう。もはや俺は死ぬんだと暗示がかかり、浮き上がってくるつもりはなかったのだろうか。呆然と立ちすくむ礼子のまた哀れなこと…あんただけ幸せになるなんて許さない。そんな亜矢の呪いがかかっていたのだろうか。完全に礼子にとってはとばっちりだし、礼子に実害がなかったのは本当に良かったと思う。亜矢を手にかけた木島と吉岡に天罰が下ったと思うことにするよ。

なんだか腑に落ちない終わり

最後がね~…なんで吉岡死んじゃった感じなんですか?って思うよ。それと、木箱をひもで引っ張って陸にあげて、あとは誰も紐を動かしていないのに、勝手に上がってきたのは亜矢の霊の力ってことで…片付けていいだろうか?

礼子のキャラクターといい、なぜか吉岡にハマって小説家としての道を丸投げしたことといい、なんか全部が強引な気がしてならないんだよね。少しずつ侵食されて、もう関係者みんながおかしくされていたのかもしれない。ちょっと考えすぎかもしれないけど、一番哀れだったのは、礼子だとも言えそう。礼子は小説も、男も、全部失うことになった。吉岡が情熱的に惹かれたのはミイラ・死体のほうであり、その呪縛から解き放てるほどの力が礼子にはなかったわけで…無力だった。関係なかった女までぶっ壊しにくるあたり、女って死んでも怖いものだね。

謎のミイラ動いてます描写が一番ぽかーんとしてしまったシーンであり、個人的にはお気に入りでもある。あれを見てから、こりゃーホラーではなくてただのシュールなコメディーだわ、と思ってしまい、吉岡が悪夢を見たり、情熱的に愛を表現するたびクスっと笑えるようになってしまった。ホラーやパニックの部類に分類されているこの映画だが、ヒューマンドラマでもないし、アクションでもないし…そうなったらもはやコメディー部門しか残らないでしょ?

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