トニー滝谷の評価
トニー滝谷の感想
静かな愛情、静かすぎる孤独
村上春樹の同名小説の映画化作品。原作小説は短編のもので、市川準監督が、小説の世界を壊すことなく、美しい映像に仕立て上げている。主人公とその父の二役を演じたイッセー尾形も、その妻と、事務員の女性を演じた宮沢りえも、たいへんな好演。さりげない話でセリフも多くないけれど、世界観がぐっとこちらに伝わってくる。埋めることのできない孤独を背負った男と、彼がただひとり愛することができた女性。かなしいけれど解消しない「孤独」の物語。そのあまりの静かさになんだか泣けてしまった。原作と唯一違ったラストだけが不満だった。監督としては、そうしたい意志があったのだろうけど、はっきり言って蛇足です。