子どもの見る世界は色どりに溢れ、動物や野菜でさえも表情豊かにおしゃべりを始める
物語のはじまり、モモちゃんとプーの出会い
懐かしい、というのがまず読み始めての感想でした。ただ私がこの話を読んだのは小学生の低学年のときで、正直どういう話だったのかはほとんど覚えていませんでした。モモちゃんという小さい女の子が黒ネコのプーといろんな冒険をするお話…くらいしか頭には残っていなかったため、初めて読んだお話のように新鮮な気持ちで読むことができました。
物語はモモちゃんの誕生から始まります。イエス・キリスト生誕の際には3人の賢者が訪れキリストを祝福したということですが、モモちゃん誕生の際にはなんと3人(3種類?)の野菜が訪れます。ジャガイモ、ニンジン、たまねぎが、それもカレー粉の入った袋をしょってやってくるのです。もうしょっぱなから、不思議な世界感全開です。このカレー用お野菜3点セットは、モモちゃんがもう少し大きくなってから、またお話の中に出てきます。この野菜以外にも、モモちゃんは虫とお話したり、ウシオニに影を取られたり、様々な不思議な体験をしますが、子どもの世界ではそれほど不思議なことではないのかもしれません。
そしてモモちゃんのお話の中で欠かせない、プーとの出会い。プーはこの本の中では、モモちゃんに次ぐ主人公のような位置づけになっています。
モモちゃんあかちゃんのうちへ行く
モモちゃんは一歳になってあかちゃんのうち(今で言う乳児院でしょうか)へ行くようになり、コウちゃんという仲良しのお友だちもできます。
ここで思うのは、モモちゃんのママはキャリアウーマンだったんだな、ということです。この本が初めて出版されたのは1964年、一歳の子どもを預けて働く母親はまだまだ少数派だったはずです。作者自身が働く母であったため、自分の子どもを預けている間、モモちゃんのように自由な創造の世界で思い切り遊んでほしいと考えてこのお話を書いたのかな…などと、小学生のときとは違う母の視点で、この物語を解釈してしまいます。
お仕事で帰りが遅くなったママが急いでお迎えに行こうとすると、前から二歳になったばかりのモモちゃんとプーが歩いてきて…という描写から始まるお話があるのですが、今の時代にこんなことがあったら、預け先の責任問題で大変なことになるだろうな…と考えてしまいます。それはさておき、この「モモちゃん、怒る」とタイトルのついたお話は、この本のなかでも私が特に好きなお話です。ママに対して怒っている子どもたちが、空色の電車に乗ってお空に旅立ってしまう…けれど、しばらくするとみんなママが恋しくなって泣き出し、無事にママの元へ戻るのです。働くママの大変さと、子どももいろいろ我慢して頑張っているんだ、というのがよくわかるお話です。
三歳になったモモちゃん、プーとジャム、モモちゃんの妹アカネちゃん
プーが大好きなモモちゃんでしたが、お友だちのコウちゃんと遊ぶことが増え、プーはおもしろくありません。けれど、プーにもジャムという白猫のお友だちができます。この子猫は自分のことを男の子だと思っているのですが、実は女の子だということをプーはわかっていて、ジャムが子猫ではなくった頃、なんとプロポーズするのです。プーにお嫁さんができ、モモちゃんには妹が産まれ、物語の終盤には、読者がモモちゃんとプーの成長を実感できるようになっています。
モモちゃんは、赤ちゃんのアカネちゃんと一緒にお留守番できるくらいまで成長します(赤ちゃんが泣きだして困って、お母さんに手紙を書いたりするのですが)。モモちゃんとアカネちゃんがこの色彩豊かな世界でどのように成長していくのか、読者は気になって、続きの物語に手をのばすのではないでしょうか。
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