作間先生の悲運を見て日々のありがたみを知れ
世界観は飛躍しすぎている
この物語の舞台は、妖怪の類が人間を殺す。そんな単純な世界じゃない。オトナの世界と子どもの世界が別れてしまった歪みの世界だ。その世界をぶっ壊す強烈な存在と対峙するために、歪みの世界に囚われた大人になれなかった子どもたちが魔王として君臨する。何も関係がないと思い込んでいた作間先生だったが、過去にさかのぼり、自分の罪と愚かさを知り、絶望と、初めて自分が社会にできることを自身に問うのだった。
ホラー系のくくりに入るのだろうが、全然怖くはない。グロさもあのイラストの感じだとだいぶマイルドで、それほど気にならない。確かに解体されて生かされている作間先生はきもかったけど、なんかもうそういう生命体かなって思えるような描かれ方をしている。内臓が内臓っぽくなくて、ただの紐みたいなもので紡がれてできているような…そんな生命体だ。いつの間にか記憶を魔王たちに飛ばされて、いつもの日常に戻される彼は実にかわいそうでもあり、哀れでもある。肉体的な傷は一切残らず、精神だけが削られていく作間先生の末路を、ゆっくりと見守ることができるだろう。
死ねない体に、何度も再生と破壊を繰り返されておかしくなっていく作間先生。恐怖の感情が心にいっぱい広がり、それを餌に特殊な生命体が彼に寄ってきて、憑依するのだ。そこを待ってましたとばかりに先生ごと殺して食べる魔王たち…すべての元凶である作間先生を利用し、どこまでも使い倒す。子どもの姿をした怖い人間たち。因果関係がどうなっているのか、魔王たちがなぜそんな力を持つに至ったのかはわからないまま。この不思議なワールド、異空間の設定が「電脳コイル」に近いよね。
明かされる真実のスケールが異常
村田郁美という存在。彼女は宇宙の破壊と創生を担う、白と黒の2つの卵を持つ存在…とのこと。ホラーを超えてどうやらSFになったらしい。生命を超えて宇宙の根源を創れるらしき村田郁美は、なんで地球を選んだのかな…宇宙を壊して作り直せるなら、太陽系じゃなくても他の銀河の星だってよかっただろうに。宇宙のデカさをある程度知っている人なら、このスケールのデカさで語られるのは解せないと思う…たまたま選ばれたんだろう、うん。だから、ある意味チャンスを与えられた唯一の星、とも言えるね。
いじめられていた村田郁美を結果的に救った形になり、気に入られてしまった作間。宇宙の破壊と創生という、今の日常をぶち壊してくれるようなことを教えてくれた彼女に、作間は惹かれたわけじゃない。童貞卒業してみたかっただけだろう。アダムとイブになろうなんて気はさらさらなかった。そこで村田郁美がすぐには宇宙を作り直せなくなり、地球には歪みが生まれたが、チャンスが生まれた。危機に瀕したとき、地球人はどうにかしてやろうって努力して、魔王という存在を作り出したんだろうね。そりゃー進んで死にたいと思う人は多くないのだ。
無理矢理相手をゲットしてもよかっただろうに、そこになぜかお互いの理解と愛を欲したような村田郁美は、逆にキモい。宇宙を創りなおそうってときにわざわざ必要になるものじゃないだろう?スケールが大きいのか小さいのか…とにかくぐちゃぐちゃ。愛がないとダメなら、宇宙もきっともっと脆くて、危うい存在なのかもしれない。
子どもの姿をした悪魔
魔王たちがキモすぎる。平気で人を喰うし、作間先生を切り裂く。魔王は一人一人が全く違うタイプだけれど、露骨で、卑怯で…目的は村田郁美を倒すことだろうけれど、お互いをも喰らって力を蓄え、強力な存在になろうとする。彼らは確かに世界を救う天使なんかじゃない。人を犠牲に大きくなる、悪魔のような存在だろう。
彼らがどうやってその力を手にするに至ったのかはわからないが、何かがおかしいと気づき、調べ、協力して努力してきたからこそ、つかんだものなのだろうと思う。
世界は徐々に荒廃し、村田郁美が着々と準備を進めている。どのタイミングで作間先生をつかみにくるかわからない。用意周到に、綿密に、ぶちのめすために計画を練る…魔王たちも必死だ。自分たちも生きていきたいもの。
作間先生は世界の歪みを理解し、魔王を含めた子どもたちに心を開き始める。自分のダメな部分全てを見せて、それでも救おうという素直な行動ができるようになっていく。大人になって初めて、人と真正面から向き合おうとする。そんな彼を前に、作間先生を犠牲にすることをためらう魔王も出てきた。悪い人間だと思っているからいくらでも傷つけられる。善い人なら、ためらわれる。相手も同じ人間なのだ。情がないわけじゃない。それがせめてもの救いで、作間先生が生き残るかもしれないフラグだった。
オトナは子どもを育てて人になる
子どもを怖いと感じるのは、とても不確かで、自分の力でどうとでも転ぶ可能性を秘めているからだろう。さらに、オトナに粗があれば、間違いなくそこをつついてくる。自分がかつてそうであったように、みな同じ道を通って大人になっていくのだ。
子どもにとってみれば、大人・親がいなければ食事にはありつけないし、学校にも行けない。絶対的に服従しなければならない存在であり、でも成長と共に反抗してみたり…そこに愛があって、理解しあって、お互いが成長していくんだ。作間先生のように、怖がって腫れものを触るように避けていたのでは、自分も変わることがないし、相手も成長することがない。カッコ悪くても、一生懸命背中を見せてやることが大事だし、そうやって自分を表現することで、社会で生きる人間の生き方と立ち回り方を知るのだろう。誰とも関わらずに生きていけたらどんなに楽だろう…?って思うけれど、関わらなくて行える仕事なんて、この世のどこを探したってないのだ。
自分に都合の悪い世界なら壊れればいいって思ってしまうのは、相手への思いやりがないから。自分が誰よりかわいそうで、人の立場に立って考えることができていないからだ。作間先生は、訳も分からぬままだったけれど、行田を自ら救おうとできるほど、強制的に精神を叩き直された。もはや彼の意志ではどうしようもないレベルの展開だと思っていたけれど、それこそが大事なキーポイント。愛がなければ、できないもんね。
ラストは全然明るくない
…いい話系?お月様になって終わり。作間先生は、いい人間とは言えなかったかもしれないけれど、巻き込まれてかわいそうな人間だった。死に際に勇敢になれたことは、むしろ褒めてあげなければならないと思う。作間先生と村田郁美が創生のアダムとイブということで、こんなキモいアダムとイブなんて嫌だなーと思ったわ。最後まで、人間として生きる道には戻ってこれなかった作間先生。残念すぎるこの男から言えることは、テキトーに生きるな。逃げるな!ということだね。そうしてりゃー村田郁美に引っかかることも、もしかしたら出会うことすらもなかったかもね。
宇宙レベルで話されても、次元が違いすぎるのに、地球を脅かすのが「村田郁美」という日本人の名前であることがどーにも受け入れがたい。たまたま宇宙で地球を選んで、たまたま日本を選び、たまたま作間のいる小学校へやってくるための名前を使っただけのことだろうけど…素朴すぎるでしょ?名前が。ホラーっていうよりシュールギャグになってるよ。
3巻で終わってしまったことはもったいなかったが、短くてもこれだけまとまった形にラストをつくれるっていうのはすごいことだ。
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