恋愛トラウマ映画でも最高の一本 - ブルーバレンタインの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

ブルーバレンタイン

4.004.00
映像
4.00
脚本
4.00
キャスト
4.25
音楽
3.75
演出
4.00
感想数
2
観た人
2

恋愛トラウマ映画でも最高の一本

4.54.5
映像
4.5
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
3.5
演出
4.5

目次

この映画の”キモ”

それはずばり「みせる時系列」!!!

いやもうそれはずるいでしょと言わざるを得ない素晴らしいつくり。

一言でいえば

”若い夫婦に起こりそうな「愛があれば乗り越えられるんだ~!」的な

ロマンチックで早合点な結婚から、6年を経て離婚するまでの話”

なんだけれど、その「みせる時系列」というのが

幸せの絶頂(=若い2人が出会って結婚に至る駆け上り時期)と

離婚する2人の関係の崩壊(=一方通行な気持ちと積もり積もった不満が爆発寸前の時)が

交互に展開していくもので、初めは意味が分からないけど映画が進むにつれてそれがボディーブローのようにじわじわと効いてくる・・・。しかし言うまでもないが「君たちはこんなに幸せだったんだよ!」っていうのが主人公2人(とくにシンディ)には分からない。観客として非常にむずがゆくて、悲しい。そういう意味ではアクション映画によくある(観ている人だけが知っている)主人公のピンチのシーンのハラハラと似ている。めちゃくちゃうまい演出である。

(※ラブラブ期)画像参照元

https://www.bing.com/images/search?view=detailV2&ccid=IJALRg5K&id=9DCAFC6583B79887FF9DA72B79E91318C19D6829&thid=

OIP.IJALRg5K8U0voxr8Nxz2KAEsC0&q=blue+valentine+&simid=608047884838699852&selectedIndex=51

(※噛み合わない2人)画像参照元

https://www.bing.com/images/search?view=detailV2&ccid=OODemKs5&id=B2DE17379A7501F43269DF7CD64D366CEF5F50EF&thid

=OIP.OODemKs5v0RRyK9m-_yZhwFEDA&q

=blue+valentine+&simid=608002328105127345&selectedIndex=26

鑑賞後の「ああ~映画観たなあ~~~」っていうげっそり感。作品にどっぷり入り込んで精神的エネルギーを消費したからこそのげっそり。ハッピーエンドではないからテンションも下がるし・・・。それでも映画として最高の一本であることは間違いない!

変わらないふたり①ディーンという男

何故2人はこんなにもすれ違ってしまったのか。

それはディーンはいい意味でも悪い意味でも変わらなかったからだろう。

まずシンディに一目ぼれした後のトリッキーな距離のつめ方。

「ヘイ、ちょっといいか。泥棒を見るような目で見ないでくれ。俺は君のお金をとったりしてない。」って・・・えええっ?!その後口説き文句だったんだって気付いても少しとっつきにくくないかい。(笑)

ほぼ初対面なのに、「そのしゃべり方はSuckerがやるもんだ。二度とするなよ」って言ってくるし、何かしら決めつけが多い。

挙句の果てに、ラブホテルで出てこいと叫びながらドアをたたき続け、職場に殴り込みに来る。本当に見ていられなかった。誰もがこんな人パートナーにしたくないと思ったはず・・・。

そしてこれらは6年間の夫婦生活をもってしても「あなたが何を言おうとしているのか知りたいもんだわ。あなたはいつも考えてることを言ってしまうけど。できるもんならね。ははっ」とシンディに言われてしまう分からなさなのである。しかも下手に笑うと「何がそんなにおかしいんだ?!」とくるからたまったものではない。地雷を踏まないように、”10がいち”踏んだとしても彼の癇癪がおさまるのをやり過ごさなければいけない生活のなんて窮屈なことだろう。  

でもそれらすべては、ディーンのすごくピュアな気持ちからきているのだ。——うまくいかなくかってしまっただけで。

画像参照元

https://www.bing.com/images/search?view=detailV2&ccid=SQlmEE3Q&id=A76FAFF3320E0D1DD840ECFDF10BA9583C9E5856&thid

=OIP.SQlmEE3QyUQZATj7cIuTbQEsCo&q

=blue+valentine+&simid=608044968532904291&selectedIndex=154

その想いがピュアなまま働くときもあった。

娘と一緒に遊び、ふざけて、シートベルトをきちんと締めろよと家族を気遣う。犬が亡くなったら涙を流す。

出会った頃に引っ越し業者として働いていた彼は、ただの業者にもかかわらず、依頼主であるおじいさんの段ボールを開ける開ける。部屋を勝手に飾る飾る。(笑)さすがアートの才能を持っているディーン。とてもセンスがいい。おじいさんも「ありがとう。」といってディーンの手をぎゅっと握る。(いいシーンだなあ。)

初め観たときはなんて心根の優しい青年なんだと思ったが、しかし冷静になって観ると(というかディーンにあえて懐疑心を持って観ると、)プライバシーもへったくれもない。結構すごいことをやっている。でもそういうのをピュアな心でお構いなしにやってしまうのがディーンなのである。

と同時に、その想いが伝わらなかったときに、自分の求めているものが相手の求めているものではなかったときに、ディーンは相手を追い詰め、追い詰められた相手を見て「こんなことがしたかったんじゃないのに!」と自分を追い詰めてしまう。それは皮肉なことに、出会った頃のシンディが辛そうに話していた「うちではだれも“話さ”ないの。”怒鳴り”はするけど」にそっくり当てはまってしまった。

変わらないふたり②シンディの心の扉

一方でシンディもやっぱりシンディだったりする。

元彼に「五分だけでいいから!話を聞いてくれないか」といわれても見向きもしなかった6年前と同じことをディーンにしているだけなのだ。シンディにとって一度シャットダウンした相手はもう自分を犯す存在でしかない。彼女は永遠に彼女の中で被害者なのであって、その心の扉は一度閉ざせばもう二度と開くことはない。それが「君との子どもが欲しい。」と真摯に訴える夫に対して、これで満足でしょと言わんばかりに、目を合わせることもなくパンツを脱ぎ、そのうえ「叩きたいなら叩きなさいよ」と、挑発するシンディの姿そのものである

画像参照元

https://www.bing.com/images/search?view=detailV2&ccid=DQcJu5%2f1&id=836B58294E79788D40B9A805B8675B5D6D4D8D3E&thid=OIP.

DQcJu5_1mG5AVkN-l4jBswEsDH&q=blue+valentine+&simid=607991895621304893&selectedIndex=155

また、言い争いになった時に、シンディが決まって言うのが「分からない。」

妊娠が発覚して隠して、打ち明けたときに産むのか産まないのか聞かれても、ディーンが「関係を修復する方法はないか。何でもやるから…。」と懇願した時も、彼女の一言目は「I don't know.」だった。

彼女の家庭は父親が母親に対して怒鳴ったり、ちゃぶ台返ししたりするのが日常となってしまっているもので、彼女の祖母もまた「愛って何?恋に落ちたことある?」という孫の質問に対して「おじいちゃんも怒鳴る人だったから分からないわ。最初は少しね(好きだったかもしれないけど)・・・。」というような状態。そんな中で彼女の身に着けた生きる術が、諍いになった時にはとにかく”その場が過ぎるまでじっと耐えること”だったのかもしれないけど、「分からない。」と蓋をしてしまう行為が、相手を混乱させ傷つけていることをシンディは理解しようともしない…。

にしてもよくモテるシンディ。

ディーンがドアのほんの隙間から顔をのぞかせたシンディに一目ぼれしたのは例外として、大学生までで経験人数25人?!成る程なあ、でも行きずりの関係だとしても、その分別れも経験してきたわけで、ディーンのときと同じく「トイレに行ってくる。」といって木陰で泣いたり傷ついたりしながら、「愛とは何か。」、「恋に落ちるとき」を探し求めていたのかなと思うと、応援したくなってしまう。

彼女の祖母の「慎重に相手を選びなさい。」という言葉に反していたように見えるけれど、

シンディにとっての相手を選ぶとは、その人のもとを去る瞬間なのかもしれない。

とりあえずは寄ってくる人と関係を続けて、「限界だ。」と思った時にシャットダウンする。その見限る瞬間、彼女は未来を(場合によっては次の相手を)選択しているのではないだろうか。

と、ここまで考察して

ディーンは変わっていないし、シンディもシンディのまま。

じゃあどうしてふたりは昔のラブラブのままじゃいられなかったのか? 

つまりシンディの変わらなさは、もともと上昇志向ということもあって、人生の各段階ごとにステップアップしていきたいというところからくる。突然の妊娠によって一度夢を絶たれたシンディにとっては、若くて才能のかたまりであるディーンが娘を一緒に育てると言ってくれ、自分を好きだと言ってくれたことはともに次のステップに踏み出したということであり、それこそが愛だった。しかしいつまでたってもディーンは、次のステップに進もうとしない。しかもはげてしまった頭はもはや若くもないし、才能も発揮できそうにない。キラキラしていないのである。ああ、シンディにとってのディーンは”変わって”しまったのだ。

そうして「愛があれば乗り越えられる」はずだった結婚は、ディーンがいくら「家族を愛している」と言ってもシンディには届かないものとなり、やがて終わりを迎える。

さいごに

とはいえ、6年も続いたのだ。私たちは彼らの始まりと終わりしかみていない。

その間に娘がはじめてしゃべった瞬間、いや、子どもがいなくても、2人で過ごした一生忘れない幸せな瞬間も確かに存在するはずだ。

この映画があまりにもリアルだからといって、「現実の結婚なんてこんなもんよね…3秒に1組離婚してるらしいしね」なんて悲観するのはやめないか?この映画はむしろ、私たちに見えにくい「出会った頃の思いやりや気持ち、感謝」を思い出せてくれる素晴らしいものなのではないだろうか。

画像参照元

https://www.bing.com/images/search?view=detailV2&ccid=oyL5BfgU&id=BDCAD3E0380F37120E350D3A4B5CD545A37A3DC3&thid=OIP

.oyL5BfgUccC9hckeAQvfpQFNC7&q=blue+valentine+&simid=608018760651509529&selectedIndex=21

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

誰も責められないリアルな夫婦の破局

いつもの朝からずれている2人この映画はいつもの朝から始まる。もっと寝ていたい母親をふざけ半分で子供と起こす父親。起こされて真剣に苛立っている母親の顔がリアルな始まり方だった。その後も急いで仕事に出たい母親と、いつまでも子供と遊んで片付かない夫。オートミールをふざけて食べあっているところは、楽しそうな子供を尻目に「片付けるのは私なのよ」とイライラとつぶやく母親のこの顔を見て、わかるわかると感情移入しない母親はいないと思った。その忙しい朝の間中、母親は父親の顔を一切見ない。その仕草からもこの2人の隠れた危機を感じさせた。家族の飼い犬であるメーガンがいなくなったことはあまりストーリーに関係がないように思えた。でも悲しみにくれる母親に対して「鍵を閉めろって言ったろう」と責めるような言葉を不用意に吐く父親の無神経なところを垣間見せる小道具なのかもしれない。そんな忙しい朝の中、父親が言ったセリフが...この感想を読む

3.53.5
  • miyayokomiyayoko
  • 1500view
  • 3442文字
PICKUP

関連するタグ

ブルーバレンタインが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ