がんばる人を否定することなんてできない - 俺はまだ本気出してないだけの感想

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俺はまだ本気出してないだけ

4.004.00
画力
2.50
ストーリー
3.67
キャラクター
3.83
設定
2.83
演出
3.17
感想数
3
読んだ人
3

がんばる人を否定することなんてできない

4.54.5
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
3.0
演出
3.5

目次

おっさんが夢見て悪いのか

漫画家になる。シズオはなぜか奮起した。齢40歳。なぜこのタイミングで脱サラだったのか。それは彼のみぞ知ることなのだが、誰にでも来るであろうこの時期が、シズオにとっては40歳だったってだけだろう。家では延々とゲームする、テレビをゴロゴロしてみてる、そして定職ではなくバイトに…。フリーターだね。でも気持ちが若いんだよ。見てくれはキモいなって思うのに、あんまり嫌われてない。何歳になったって、本気で遊べるその精神は、むしろいい事なんじゃないかな。

なんで漫画家だったのか?それはわからないんだけど、どうやら今回のシズオは本気らしい。なんかね、たぶんずーっと働いてる人生送ってて、その時はいきなりやってくると思うんだ。自分で決めたことのはずなのに、同じ気持ちのままではいられない生き物なんだよね人間って。逆に、常に自問自答して疑問を持ち続ける人は、きっとずっと輝き続ける人なんだと思う。シズオはそうじゃなかったし、父親には夢なんか見るなと言われ、娘は何も言わない。そんなシズオでも考えるときがやってくる。だから誰でも夢みるときがきっと来ると思う。

中には、そのタイミングすらも見過ごして、後戻りできなくなる大人もいるんだよ。だからシズオはまだポテンシャルあるほうだったんだと思う。彼の漫画に対する努力は、もちろんさぼったりもしながらだったから全部を尊敬するわけではないけれど、逃げずに向き合っていた。そこは誇っていい事なんじゃないかな。子どもには夢に向かって走れ!って教えるのに、オトナになったら現実見ろって言うよね。夢見てたらだめですか?そんな人生楽しいですか?

シズオに対する鈴子の気持ち

娘の鈴子は何も言わない。父親が脱サラするとか言い出して、しかも漫画家になるとかほざいたのに、ちょっと喜んでいた。それは、自分の夢とも重ねていたのかもしれない。鈴子は建築家になりたかった。だけど、父子家庭でお金だってそんなに多くないってことはわかっていた。だからバイトをがんばって、お父さんには迷惑かけないって決めて。涙ぐましいよね。家族だからこそ言いあって助け合いたいって思うものなんじゃないのかなって思っていたけれど、家族だから言いたくないことだってあるんだって知ったというか。

まさかバイトがヘルスだとは思ってなくて、父親とまさかバイト先で鉢合わせしてしまうとは…とんでもないピンチ。この時ばかりは、鈴子も焦ったことだろう。怒られてしまうかもしれない。修羅場になるかもしれない…そこで何も起こらないのがシズオ。逆に娘との距離が近づいたらしい。シズオは自分がこんなんだから娘がそうなったのかもって思ってるところがあったかもしれない。反省もした。ただ一言だけ、「あのバイトはやめなさい」と言ったシズオは、とても優しくて、気弱で、でも娘を大事に想ってる。それは伝わってきた。鈴子も、すんなり受け入れて違うバイトをし始める。稼ぎは落ちたかもしれないけど、お父さんと近づけたことが何よりも財産なんじゃないのかな。自分一人でがんばっているようなものだけれど、近くに誰かがいてくれるってことは、心強いことだ。

なんとなくね、シズオと鈴子はもしかして血のつながりがないパターンなんじゃないかとか、変に勘ぐって考えたりもした。鈴子の何とも言えないまなざしが何を意味するのか、それがはっきりとは提示されないから。でトータルで読んで、やっぱり家族であり、そこには感謝と応援があるんだと思った。

残酷な家族だってある

ぱっと見はシズオのほうが堕落しているし、ダメそうに見える。だけど、つながりはあったかくて、本人も前向きで、健康的な気がする。

一方宮田がね…悲しすぎた。バツイチではあったけど、サラリーマンとしてまともに働いていたし、たまにしか会えなくたって子どもにも会えた。だけど、ただ毎日何のために働いてるんだろうって…悲しくなっていたね。シズオに触発されたのか、パン屋をやって子どもを喜ばせたいと決めた宮田。その矢先、元妻は再婚を決めて海外へ…あぁ…せつなすぎる。がんばって何とか踏みとどまって、子どものためにと前を向いた矢先に叩き落されるこの気持ち…だから、宮田が死のうとしたこと、わかるよ。この時のシズオの涙は、絶対に忘れない。生きてさえいてくれれば、絶対何度だって立ち上がれる。前を向いてさえいれば、生きていける。そんな気持ちにさせてくれた。

誰もが熱意をもって生きているわけじゃない。そして、熱意のままに行動して成功するわけじゃない。それをシズオが誰よりも知っている。死ぬほどがんばった先に必ず実を結ぶものがなかったとしても、やり切った行動が残す結果はそれだけじゃないんだね。シズオと宮田はお互いに違う人生を歩みながら、常に影響しあって生きている、いい関係なんだろう。常に、これだと決めたらがんばる。これしか人間まともになれる方法はないんだと思う。

お父さんの想い

シズオの父親の志郎はシズオにまともに働けと言っている。夢は捨てるべきだと。でも口では悪口言いながら、無理強いまではしていない。それは自分も夢みて走った時期があるからなんだろうな。そしてシズオの父だからこそ、やると言うならやってみろという気持ちにもなるのかもしれない。お父さんも、鈴子も、優しい人だね。

おもしろいのは、血のつながったところに芽生える新たな感情ではなく、血のつながりがなくても芽生える気持ちもあるってこと。市野沢というシズオのバイト仲間は、その見た目ゆえに損するタイプであった。目つきといい、金髪といいね。でも優しさと正直さだけは持ち合わせていた。そんなつまはじきに合ってきた彼を拾って雇ってくれた宮田。市野沢自身のことを見て判断してくれた唯一の人。市野沢にとっては宮田は救世主と言えるだろう。そして、シズオがいて、志郎がいて、今までどこにも属していなかった市野沢が、初めて持てたコミュニティがまさかのアラフォー&おじいちゃん。働かせてくれることも、ただ自然と近くにいることを許してくれることも、彼にとっては本当に感謝しきれないくらいの恩だったことだろう。志郎に対して父親の像も浮かべながら、心も丸くなって、態度も丸くなって、身なりも丸くなった。若い市野沢に対して、宮田もシズオも志郎も。自分の若いころを重ねたんだと思う。

最後のシズオが一番かっこいい

大切な友だちを想って描いた漫画。最終選考にまで上り詰めて、そして散った。そりゃー漫画家になりたくて行動している人は世の中にたくさんいるのだから、シズオごときの付け焼刃で叶うことはないんだろう。それでも、今までのサラリーマン時代には考えもしなかったようなことを一生懸命考えて、行動して、やり切ったシズオ。彼の書いた宮田のパン屋の話は、背景を知っているこっちからすると大賞ものだったよ。

結果として形の残るものでなかったけど、シズオの行動が周りの人の行動を変えてくれて、そしてさらに別の誰かの行動を変えてくれた。それだけでも、前を向いて、生きていることがどれだけ大切かがわかる。一人で生きているようでも、必ず影響しあって生きているんだ。

5巻という短さの中で、シズオの良さとか、泥臭くてまさに汚いおじさんのなけなしの努力とか、印象深いものをたくさん伝えてくれている。終わり方もしつこくなく、これでいいんだと思えた。どうかシズオが自分らしく生きて、そして鈴子を幸せにしてくれたら、嬉しい。

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他のレビュアーの感想・評価

何歳になったって夢見てもいいでしょ?

40歳で脱サラしたさえない男シズオは何を思ったのか、40歳で脱サラをし、漫画家になると言い出した。家ではゲームしたり、テレビ見たり、お金を少しでも稼ぐためにバイトしたり。店長よりも店長みたいだからあだ名は「てんちょう」。でもなんか気持ちが若くて、若い子たちにも嫌われない。漫画家になりたいって、おっさんが言ったらだめかな?何歳になっても、子どもたちと本気で遊んだりしたらダメなんだろうか?シズオの気持ちは、大人ほど心にしみるもののように思います。家には父親と娘。夢なんか見てないで働けって言われるけど、じゃあ、働いた先には何があるんだろうね?やはり若いうちから、常に自分の信念を強く持つことや、ビジョンを持って生きていくことって大事だなーって思いました。シズオはそういうのやってきてなくて、今からがスタートみたいな人。やっと自分のこれからのことを考えて、「挑戦」を始めたんだなーって思いました。失敗す...この感想を読む

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