何歳になったって夢見てもいいでしょ?
40歳で脱サラしたさえない男
シズオは何を思ったのか、40歳で脱サラをし、漫画家になると言い出した。家ではゲームしたり、テレビ見たり、お金を少しでも稼ぐためにバイトしたり。店長よりも店長みたいだからあだ名は「てんちょう」。でもなんか気持ちが若くて、若い子たちにも嫌われない。漫画家になりたいって、おっさんが言ったらだめかな?何歳になっても、子どもたちと本気で遊んだりしたらダメなんだろうか?シズオの気持ちは、大人ほど心にしみるもののように思います。家には父親と娘。夢なんか見てないで働けって言われるけど、じゃあ、働いた先には何があるんだろうね?
やはり若いうちから、常に自分の信念を強く持つことや、ビジョンを持って生きていくことって大事だなーって思いました。シズオはそういうのやってきてなくて、今からがスタートみたいな人。やっと自分のこれからのことを考えて、「挑戦」を始めたんだなーって思いました。失敗することからも、成功することからも遠ざかり、自分が楽してできることだけをやってきた今までだったんだろうね。それを一気に断ち切るだけの力が、シズオにはあった。これだけでもサラリーマンに誇りを持てずになーなーで仕事をしている人よりも意識が高いような気がします。どんな仕事であれ、好きなことを仕事にできることは少ない。それでも、そうしようと努力をすることが間違っているとは言いたくないですよね。だって、子どもたちには夢を持て・自分のやりたいことへ向かって努力をするんだと教育する。なのに、大人になってからは現実を見ろ・生活を大事にしろと後ろ指をさされる。お金をある程度稼いだシズオは、むしろチャンスを持っていると言ってもいいのではないだろうか。
娘が…なんでこんなに優しいのだろう
娘が、ずーーっと笑顔なんですよね。父親が脱サラして漫画家になると言い出してきたのに、ちょっと嬉しそうだった。むしろ、好きなことやって、輝いてほしいって思っているような。鈴子は自分の建築家になりたいという夢のために、バイトを一生懸命がんばっていた。父親の知らないところでヘルスをしてた。それが父親が漫画に行き詰ってヘルスへやってきて、鉢合わせしてしまうという…悲劇が起こるのかなって思ったけど、全然起こりませんでしたね。むしろ、父娘の絆が深まっちゃった気がします。シズオなりに、がんばらなくちゃ、娘のため?自分のため…?たくさん考えたのでしょうけれど、漫画の紙面上では言葉で語られていません。ただ、あのバイトはやめなさいって言っただけ。父親に止められても、鈴子は全然反抗することもなかった。むしろ、話ができたこと、シズオの背中に、父親らしさをみたのかな。すんなりわかったって笑った。自分のことを考えてくれる人がいるって、あったかいですよね。
いつの間にか鈴子はシズオをお父さんとは呼べなくなって、それをちょっと悲しいと、もしかしたらお父さんは思っていたかもしれない。決して嫌いなんじゃなくて、迷惑はかけたくないから、私の留学資金は自分で稼ぐ。母親がいなくても、おじいちゃんがいて、お父さんがいて、夢見ることを制限されるわけでもないし、ご飯を食べて、笑っていられる生活がどれだけ幸せなことなのか、わかっているんだなーとじーんとします。彼女はなんて立派なのか…なんだっていいじゃない。がんばれば?って言ってくれる鈴子。好きだ。
宮田がシズオをうらやましく思う
宮田はシズオをどこかバカだなーと思っていたかもしれない。だけど一方で、うらやましくも思っていたんですよね。自分はサラリーマンで、バツイチで、子どもにはたまにしか会えないし、ただ働いているだけの毎日。だから、シズオが漫画家になるって言いだして、がんばっている姿を見たら触発された。子どももパンが好きみたいだし、パン屋をやろうって。
なのに、元妻は再婚を決め、海外へ行くことを決めた。宮田と子どもの縁を切ることにしたんですね。あー…せっかく脱サラしてパン屋始めたのに。全部子どものためだったのに…目的のなくなった人間ほど、危ない人はいません。ただでさえ、人間っていうやつは、子どもを残せば、後は金を稼いで惰性で生きているようなところがあるじゃないですか。長生きして、何がしたいんだろうって思う。自分の好きなこと、社会貢献になること、そういうものに尽力できる心と熱意を、人間全員が持ってるわけじゃない。でも、その逆を言えば、何かに熱意があったら、どれだけのことが人生でできるだろう。なんだってできる。行こうと思えば、どこにだって行ける。誰にもそれは否定できない。人間は自由なんですから。
だから、死ぬなんてことだけは、言っちゃいけないよな。シズオの涙は、忘れられません。宮田が生きていてくれてよかった。生きてさえいれば、きっとなんだってできる。名声やお金が手に入るようなことじゃなくても、豊かに生きることはできる。そして確かにそこに生きていたからこそ、次の世代があるわけで。どんな命も無駄がないはずですね。
父と息子
父はずーっと息子には働けと言っていました。くだらない夢を見るのはやめろ、働けって。それでもシズオを強制するようなところはないですよね。それは、自分も居酒屋をやっていたことがあって、その時の自分と重なるからなんでしょうか。やっぱり自分の息子だから、自由にやらせてやりたいと思う親心なのかな。口ではきつく言ってるけれど、とても大事にしているのがわかる。シズオはそんな優しい家庭に育ったんだなーだから優しいんだなーって思いました。
なんといってもお似合いなのが市野沢と志郎のコンビ。市野沢は、ちょっと目つきが悪くて金髪で、怖い見た目をしているけれど、優しい奴。シズオとバイト仲間だったけど、長続きはしなくて。でも、宮田がそれを拾ってくれた。パン屋で一緒に働くようになったんですね。見た目じゃなくて、市野沢秀一という人を見て、選んでくれた人。相当感謝したんじゃないでしょうか。シズオ、志郎、宮田、いろんな人の支えがあって、秀一はちゃんと働けるようになった。志郎に対しては、どこか自分の父親みたいな影もちらついていたかもしれません。頼るものがなかった彼にとって、とてもでかく、あったかく、嬉しい存在であったことでしょう。とがってた心も丸くなって、金髪も黒髪にしたし、これからは楽しいこと、いっぱいあるよ!
それぞれがそれぞれの夢を見る
シズオは、宮田を想ってパンを焼く漫画を描きました。熱意が通じたのか、最終選考まで残り、いよいよ漫画デビュー!?…でもそう簡単にはいかなくて。だって、他にも漫画家になりたい人はごまんといるからね。それでも、少しくらいだらしがなくたって、前しか見てないシズオのおかげで、たくさんの人が救われました。鈴子も、通りすがりのお姉さんも、宮田も、秀一も。がんばったことが、無駄なんてことは決してない。自分の手元に残る結果もあるし、影響された他人に残る結果もある。望んだ未来が必ず手に入るわけじゃないけれど、それでもまた今日を生きて、笑って、前だけ見てる。その生きざまに励まされる人はたくさんいたでしょう。5巻完結というさらっとした去り際も素敵。さぁこれからのことを考えよう。下を向いている暇があったら、とりあえず前を見て、自分を見て、やってみよう。迷ってやらないよりずっといい人生が待ってるね。思ってるだけじゃだめ、やらないとだめ。やったらもう無限大。シズオが今日も優しく諭してくれます。
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