乙嫁物語の魅力
絵画とも取れる芸術性の高さ
中央アジアが舞台とあって、緻密な刺繍が施されな絨毯、煌びやかな装飾、まるでその場に立っているかのような雄大な景色、描かれているもの全てに心を奪われる。
まるで世界史の教科書を読んでいるような、歴史や伝統息づく描写は、まさに芸術品である。ひとえに作者の歴史研究や画力の高さによって成り立つものでもあるが、漫画への深い愛情をひしひしと感じざるおえない。
情景描写だけでなく、アミルの読者の心までも見透かされそうな、弓を射るような瞳の強さ、美しくしなやかな身体に黒々とした髪から、どんなキャラクターの女性なのかが如実に表現されている。読む方によっては、くどさを感じてしまうかもしれないが、私には浮世絵などのように世界にも、後世にも評価されるべき芸術作品だと感じている。
多種多様な乙嫁の生き様
アミルから始まり、性格、年齢、環境など異なる魅力的な乙嫁たちのオムニバス形式。
それぞれが、時代や家に、厳しい自然に翻弄されながらも強く逞しく成長しながら生きてゆく彼女たちに、みなに愛おしさがこみ上げてくる。もちろん乙嫁たちだけではなく、アミルを陰ながら支える義祖母のバルキルシュも確かに乙嫁物語を紡いできた者であり、その説得力のある深い言葉は胸に響く。
完璧ではないからこそ、ときに傷つきすれ違いもあるが、一生懸命乗り越えようとする姿に勇気づけられる。
暮らしのワンシーンを切り取ったストーリー
時には血なまぐさい事件も起こるが、基本的にはその暮らしに基づいた緩やかな生活が描かれている。女性たちが集まりパンを焼く姿、一生懸命刺繍を習う少女たち、おしゃべり好きなご婦人の集まるお風呂やさん。
どこか懐かしく、暖かな暮らしのワンシーンの一部が描かれている。
こう書くとストーリー性に欠いていると誤解を生むかもしれないが、何でもない時間を精一杯生きてゆく人たちの生き様が美しく、感情表現がとても細かく描かれている。
技術力の高さにフォーカスされることも多いが、人物の気持ちの揺れ動き、変化を丁寧に大切に描かれる作者の愛情が感じられる作品であると思う。
アミルが徐々にカルルクを男性として意識していく甘酸っぱい時間の中で、バルキルシュの『…嫁心ついたな』は名言。
嫁心という言葉に正確な意味は無いのかもしれないが、アミルの気持ちの変化の機微を的確に表している。そしてそれをさらりと受け止める義祖母と義母のやりとりに、彼女たちも経験してきたであろう【婚姻後の恋愛】ストーリーを覗いてみたくなった。
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