画力の無駄遣いなんじゃないかってくらいの漫画
高すぎるイラストのクオリティ
まず表紙を見てほしい。どう見たって恐ろしいヴァンパイアのシリアスな話を想像するのではないだろうか。超絶の巧さである。ダークな雰囲気漂うこの空気…表紙だけなら「デビルズライン」とそっくり。ヴァンパイアってなんでこんなに題材に選ばれることが多いんだろう…恋愛の征服欲とヴァンパイアって結びつけやすいからだろうか。
なんて真面目な考察を考えても仕方がない。この物語はギャグ漫画なのだから…。せっかくの中世ヨーロッパの雰囲気も台無しの主人公、ヴァン・ヘルシング。深みもなければ感動もなし。ただただギャグを楽しむだけの漫画である。ヴァン・ヘルシングはヴァンパイアを倒す最強の存在として、どうしようもなくくだらない方法で勝利を収めていく。必殺技的なものは1つもなく、ヴァンパイアの側にも特徴なし。なんかな~…一つくらい決め技があったっていいじゃない。ヴァンパイアもアホばかりでしらける。しかしそのクオリティとくだらなさのギャップを楽しむのがこの漫画のいいところであるともいえるだろう。そこに惹かれたお客がいなければ、これほど続く漫画にはなっていないのだから。
丁寧に描かれる戦闘シーン、口さえ開かなければおそらくビューティーなだけの登場人物たち。そして、何度殴られけちょんけちょんにされようとも全然負傷することのない主人公・ヴァン・ヘルシング。ヴァンパイアハンターとして毎夜駆け巡る彼の毎日はとても忙しいのである。
短い話をいっぱいに詰め込んで
基本的には、1話につき1人のヴァンパイアを倒していくスタイルの構成となっており、頭がイカれているのはヴァン・ヘルシングのみ、と言ってもいいだろう。村人や敵であるヴァンパイアはいたって常識人で、ヴァン・ヘルシングに翻弄されてあたふたとしている…その間に卑怯くさい方法でまんまとヴァンパイアは倒され、ヴァン・ヘルシングはまた(ある意味)最強の肩書きを固めていくのである。結果がすべてってやつだ。職場にいたら絶対嫌われるタイプに違いない。仕事ができても絶対に関わりたくないタイプだろう。常に気取ってそう…。他にもギャグマンガはたくさんあるが、たいてい仲間も増える。「斉木楠雄のΨ難」みたいに。しかし常にヴァン・ヘルシングは一人…仕方ない。そしてそこがシュールだ。
驚くのはこの漫画のぶっ飛んだ会話だ…全然意味が通じないのである。通じるように話すのが普通だとすれば、通じないように、しかもおもしろい感じでしゃべらせるって相当レベルが高くないだろうか。作者のセンスに驚かされる。
まったく関連のない話をべらべらと話すヴァン・ヘルシングは、予測不可能だという面白さがある。最終的にはちゃんとヴァンパイアを倒してくれているのは間違いないのだが、全然納得できないこのストーリーの数々。人々は平和になるだろうが、何とも言えない不完全燃焼感を残していってくれる。そんな深い漫画ではないってわかっているし、納得させながら読むものでもないのだろうが、オチはいつも楽しみであった。
シリアスな話も欲しかった
そこまで求めるものでもないのかもしれないが、やはり「銀魂」のようにシリアスな展開や感動的な話も欲しくなってしまう。ホロリと泣けて、ギャグがいっそう笑えるものだとなおよかった。ヴァン・ヘルシングが子どものころの話をするようなこともほのめかされていたのに、過去が全然明らかにならないし、常にアホな闘いが研ぎ澄まされていくだけ。心温まる余韻もあったら、ギャグのおもしろさだけでなく「巧さ」もあってよかったんじゃないだろうか。そのまま普通に何にも後ろ髪引かれず終わっていってしまった感が否めない。そういう去られ方をすると、秀逸な表紙があまりにもったいなかったと感じてしまう。“ヴァンパイアを倒す”という目的のためにヴァン・ヘルシングがいるので、ある程度進めばネタ切れは仕方ない気がする。常にヴァンパイアとヴァン・ヘルシング、もしくは村人とヴァン・ヘルシングという構図だからネタが足りなくなってきてしまうだろう。
個人的には「ここでそのセリフ?」って思ってしまい、フリーズすることも多かった。オチはなかなかいい感じなのだが…ほんと、よくこれだけぶっ壊れたギャグをよく思いつくものだ。この崩壊したコミュニケーションを笑っちゃう人というのは、ミツルギファンっていう人たちらしい。確かにコアなファンが多そうな造りに違いない。話の巧さよりもただただバカな奴で癒されたいときはこの漫画が向いていることだろう。
可哀そうな人
クリスティーナ。この漫画の中で最も可哀そうな人だろう。ヴァン・ヘルシングに愛された女性…らしいが、殺されたらしい。瀕死で困ってたところをヴァンパイアに助けられ、ヴァンパイアになることによって生き延びることができた彼女。そんな境遇ではヴァン・ヘルシングに復讐を誓って当たり前。しかも、完全にヴァン・ヘルシングの片想いであったことがわかってくる…哀しいのにこの掛け合いは相当楽しませてもらった。クリスティーナとの思い出は妄想に過ぎず、クリスティーナにとっては完全に消し去りたい恐怖の過去。ディープ…そしてヴァン・ヘルシングはあっさりクリスティーナを抹殺する。あーーー…容赦がない。ヴァンパイアになったらもうどうでもいいんだね…。
ヴァン・ヘルシングには仲間がいない。でも仲間っぽい人はいた。ヴォルフ…ヴァン・ヘルシングの奇行により体中が傷だらけになってハンターを続けられなくなった彼。そのエピソードはどれも不憫でしかたないものばかりだが、なぜそうもポジティブにとらえられるのやら。彼は最後まで登場の機会があったのが幸い。これでサラッと出て終わりなら本当にいたたまれなくて見てられない。ヴァン・ヘルシングに誰か雷落としてくれ…。こうなったらヴァン・ヘルシングが忌まわしきヴァンパイアになってしまえばいいと思う。そして狩られてしまえばなんかおもしろそう。もしくはヴァンパイアで最恐を築いてくれるとウケる。
そりゃー短い話になるよね
確かにおもしろかった。いつの間にかサッと終わったが、それはそれでちょうどよかったと思う。ネタも続かせるのが大変だろう。ギャグマンガはどこまでいったらいい感じに終われるのかと問われると、そこはもはやわからない。しかし飽きさせないイベント性もないと読み続けるのはきっと大変だ。ヴァン・ヘルシングがどのようにして出来上がったのかということを知れなかったことは残念だが、ギャップは楽しめた。
ギャグ漫画だと、どうしても説明するためにセリフが長くなりがちだ。何の本なのか分からずに読みだしたら、一見すごい漫画なんじゃないだろうかと錯覚を起こすことだろう。大丈夫、全然中身のないことを連発しているよ。かなりラフに読める内容に仕上がっている。真面目に気張って読まないほうがいい。真面目な人はヴァン・ヘルシングに殺意の湧く方もいるやもしれない。ゆるくだるく読んでいこう。
一番楽しかったのはやはり1話だろう。ヴァン・ヘルシングの手の内がすべてばれているあの滑稽さはよかった。あ~そういう話なんだってようやく理解できる。それまでは堅苦しい中世ヨーロッパのおとぎ話だと思って疑わなかったしね。
またどこかでふらっと彼に会えたらよりおもしろいだろう。番外編とかで再登場してまたシュールに輝いてほしい。
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