三大アカデミー賞女優の競演による、チェーホフ劇にも似た三人姉妹の物語 「ロンリー・ハート」 - ロンリー・ハートの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

三大アカデミー賞女優の競演による、チェーホフ劇にも似た三人姉妹の物語 「ロンリー・ハート」

4.04.0
映像
3.5
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
3.5

「ロンリー・ハート」という映画は、何と言っても「アニー・ホール」のダイアン・キートン、「ブルースカイ」のジェシカ・ラング、「歌え! ロレッタ・愛のために」のシシー・スペイセクという"三大アカデミー賞女優"の競演が、我々映画ファンの興味をかきたて、三人の演技を堪能させてくれます。演じるほうも、競争意識に燃えていただろうし、当然、観るほうもワクワクしながら楽しめるのです。

ミシシッピーの田舎町の2日間の"三姉妹の再会"のお話です。三人の中で、ただひとり既婚者の三女のベイブ(シシー・スペイセク)が、夫を銃で撃ってケガをさせます。この大事件で、次女のメグ(ジェシカ・ラング)が帰郷して、久しぶりの三姉妹が集まることになります。

この三姉妹は、それぞれがユニークな、というより"心を病んだ"彼女たち------。家にとどまる長女のレニー(ダイアン・キートン)は、野暮ったく、頑なだ。卵巣障害による不妊症と信じる劣等感から、極端な恋愛恐怖症。サナトリウムから出てきた誕生日に、小さなクッキーに赤いローソクを立て、ハッピー・バースデー・ツー・ユーと、つぶやく。隣家のおしゃべりな、いとこ(テス・ハーパー)がくれた、去年の残り物のチョコレートを後生大事にする、可哀想な人なのです。

次女のメグは、かつてコパイア郡のあばずれなんて鳴らした派手な娘。そうよ、子供の時から、私たちのペチコートには三つしか鈴がついてなかったけど、あんただけ11もつけてたもの、と今も姉妹の怨嗟の声。歌手の栄光を夢見てロスへ行き、そのため幼馴染の恋人ドク(サム・シェパード)も振ったけど、かの地で挫折して精神病院入りの過去もある。剃った眉、超ミニスカート、ひどいチェーン・スモークにも、荒んだ生活が忍ばれるのです。

そして、末娘の、そばかすだらけのベイブは、18歳で結婚し、ずっと年上の相手は、町一番の弁護士で有力者。だが、こともあろうに、15歳の黒人少年と不倫した彼女は、現場を見つけた夫に銃を向けた、というわけだ。白いひらひらのドレスで、やたらと甘いもの好きも、少女のままの発育不全を思わせて、そのくせ居直ったように肉感的で、なまめかしい奇妙さ。

遠い日に、三姉妹の若くハンサムな父は、家族を捨てて行方知れず、働き疲れた母は、"猫を道連れ"に自殺したのです。このように、スキャンダラスな一家で、いままたベイブの事件。そして、彼女らを育てた、祖父の危篤------。

暗い材料ばかりなのに、ドラマは奇妙に明るい。ユーモラスで、笑わせてもくれる。物見台のある、古びて荒れた、でも名残りの白い家に、柔らかな黄金色の陽が差している。その何とも言えない暖かいトーンが、心地いい。

この映画の原作は、ベス・ヘンリーによる女性初のピュリッツァー賞受賞の三幕ものの戯曲です。とにかく、現代アメリカ版チェーホフ劇とでも言えるほどの、いい芝居だと思います。人間観察の目の細やかさ。ユーモアとペーソスによって捉えられた、実人生の風景。滑稽でもの悲しくて、愛しい女たち。その誰かに、風景のどれかに、観ている我々も身を置く覚えの共感を抱くのです。

人はみな、何がしかの心の病を抱えているものです。孤独という名の病的な犯罪を抱いてもいるのです。罪びと同士、せめて寄り添おうじゃないか------。優しさを求め、優しさを与えるラストがとても素晴らしい。ベイブが首吊り自殺をしそこない、初めて"猫と死んだ"母の謎が、とけるのも実にいい。

黄金色の輝きに、優しさ願望を込めたこの人間ドラマは、私の魂を揺さぶってやみません。オーストラリア出身のブルース・ベレスフォード監督の演出は控え目だが、三人の演技派女優のエネルギー、魂の演技にお任せの感じですが、これも彼の優しさなのだろうと思います。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ロンリー・ハートが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ