ぎりぎり評価できる作品
目次
犯人がサイコパスだったことに"ポカーン"としてしまう、良い意味でも悪い意味でも
犯人がサイコパスである男だと判明した時、私は肩透かしを食らった気分になった。
もちろん唐突に出てきた人物ではないから、「あ~お前だったのか」というミステリ特有の快感はあるっちゃある。犯人が常に第一主犯のそばにいたことも、彼が煎餅をぼりぼりと食べこぼす無神経なふるまいもあとから思い返せば伏線だったと思う。
しかし、どうしても私は「違う、そうじゃない」という気持ちから抜けきることができない。観客としては、意外な人物が犯人であって欲しい、驚かせてほしいという気持ちはもちろんあるが、そうはいっても例えばちらっと出てきた完全な通行人が犯人でした、といわれても面白くないのである。
だってそんな人物の犯行ははじめから誰も疑っていないからだ。
一度「もしやお前が……?」というフェーズがあり、しかし確信が持てない、他にも犯人らしき人物がいる、とやきもきした上で、心から納得できるトリックが見えた時に快感が起こるのである。犯人がサイコパス的な思考の上に行動を起こしたことははじめから考察候補に入れていなかったので、「嘘だろ……これが物語の締めかよ……」と思ってしまうのだ。
もしかしたら、常にミステリを見る時にサイコパスの存在を考慮に入れて見ている人にとっては、「ほら当たった!」と快感に浸れる作品なのかもしれない。
ネタばれ第一弾のシーンが雑、演出は再考してほしかった
上の段落でさんざんサイコパス犯人の登場について愚痴ったが、しかしそれはこの第一ネタバレにあたるシーンの演出が雑に作られていたことが問題を大きくしているように思う。
特別臨時倫理委員会がはじまってから速水がネタバレをする演出がとにかく雑なのだ。
雑というより、効果的な演出がない、といった方が正しいか。速水が語る内容そのものは面白いのに、なぜか「そうだったのか!」という感動が薄い。臨時委員会が終わった後からその他の謎も続々と解決されていくわけだが、どれをとってもあまり驚きがないのだ。淡々と最後まで見てしまう。
その上で件のサイコパスだ。印象に残っているのはサイコパスのことばかりで、「いやそんな話じゃなかったはずだ……」と思っても私の心のもやは払しょくされない。
実はこの臨時委員会のシーンさえうまく演出されていればサイコパス問題も解決される。なぜなら、サイコパスは晴れて味の濃いオマケ要素になるからだ。
オマケだと言われたら「最後まで驚かせてくれてありがとう」という気持ちになる。しかし、倫理委員会のシーンで「おや?ここはまだ序盤なのかな」となり、映画の山場はどこだろうとずっと考えながら見てしまった結果、「結局サイコパスかよ!」という気分になってしまうのである。
ルージュの意味、映像化するとあまり感動しない
速水が花房に口紅を渡されて塗るシーンにも色々言いたいことがある。「顔色が悪いから口紅でも塗りなさい」というエピソード自体は全然悪くない。
切羽詰まった状態の病院での「口紅」という機転は突飛じゃないし、映画のタイトルにも繋がっているから、驚きのある心があたたまるエピソードして十分に映画のクライマックスを果たすはずのシーンだった。
しかし残念なことに、速水が口紅を塗るという絵面が微妙なのだ。下手くそに口紅をつけた堺雅人の顔を見て感動する人は少数だと思う。それよりも、もっと速水に思いを寄せる花房の表情とか口紅を開けた瞬間とかにフォーカスした方が良かったのではないか?
余談だが私は口紅が繰り出されるまで、それが何なのか分からなかった。(印鑑?朱印?とか思ってしまった)だから、一番強調すべきなのは「口紅を塗った速水の顔」ではなく「口紅」という事実だったように思うのだ。
そりゃ堺雅人なら口紅塗った顔はレアカットかもしれないが、口紅を塗り始めて決め顔するまでの数秒間をわざわざ観客に見せつける理由はあっただろうか?(しかも2度も!)
この口紅についてのエピソードは、たしかに「ルージュ」という名は院内の多くの人が知っていることだが、エピソード自体はとてもスケールの小さいささやかな出来事である。
だから、演出も大々的にではなく、さりげなさを意識しながら重要なことはしっかり見せる、という演出をするべきだったと思う。
ぐっとくる要素は揃っているはずなのに、全体的に惜しい作品
臨時委員会、口紅シーンでの演出不足により、最後に再び病院が搬送されてくる患者でいっぱいになるシーンも心から感動することができないのだ。ただ病院の過酷な対応状況を見せられ、無理やりお涙頂戴のシーンになってしまったところが悔やまれる。
『田口・白鳥シリーズ』はもともと凸凹コンビがケンカしながらもうまく事件を解決に導いていくさまがエンタメとしてキャッチーだったと思うが、ギャグよりの笑いどころと重要なシーンは描き分けて欲しかった。
小さいながらぐっとくるトリックがいくつか重なり合いラストへ向かう作品なので、各シーンごとのスケール感をうまく演出するのは難しいかもしれないが、それでも、もっといい作品になったかもしれないのに!と惜しい気持ちでいっぱいになる。
ここまで辛口で書ききってしまったが、最後に、この作品はけっして駄作ではないということは強調しておきたいと思う。なぜなら、脚本に関して不満はひとつもない。言いたいことは以上です。
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