世の中の仮説にも迫ったいい感じの世界観 - 7th GARDENの感想

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7th GARDEN

4.254.25
画力
4.75
ストーリー
4.50
キャラクター
4.25
設定
4.50
演出
4.00
感想数
2
読んだ人
3

世の中の仮説にも迫ったいい感じの世界観

4.04.0
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.0

目次

画が美しいので楽しい

作者泉光さん。画、うまい。箱庭はまさにイギリスやオランダのような、ツタの絡みつく庭園のよう。カラーになるとより一層ヒカリが際立っている。まさにGARDENの名にふさわしいと思う。アウィンもイケメンであるし、ヴィーデも初回の美しき眠りのインパクトがすごかった。男の人がやっている三つ編みというのは、やはりなぜかそそるものがある。そして、気の強い女の苦しみの表情、悪魔(ヴィーデ)の状態と人間(マリア)の状態とのギャップがまた緊迫感を煽ってくるので胸が高鳴る。その後もキャラクターはどんどん加わってはいるが、美しさは劣らない。毎回画が楽しみな作品でもある。

もちろん、物語の構成もおもしろい。かなり壮大ではあるが、7thGARDENの舞台は、神様の粛清とやらで簡単に人の命が奪われてしまう世界。その世界を取り返そうとする悪魔・ヴィーデと、自分の今の幸せを守ろうとするアウィンが結託し、「神」とされる天使たちと戦いを繰り広げる物語である。

はじめは、アウィンが今ある屋敷での庭師としての仕事を守るため、そして自分を雇ってくれている屋敷のお嬢様や使用人たちを守るために、粛清と銘打った非道な輩と戦うことになる。ところが、徐々にそれは大きくなって、アウィンはヴィーデとともに粛清の根本である天使へと闘いを挑まなければならなくなる。何が正しく、何が嘘なのか。それすらもわからないアウィンは、それでもただ悪魔の言葉に乗らざるを得ない状況となっていく…そこに、アウィンが子どものころから持っていた、父親を死へ追いやった何者かへの憎しみ、この世界の秩序自体への疑問、ヴィーデを取り巻く真実がどんどん重なって、話は相当デカくなっていくのである。

人の命が軽い

アウィンたちの生きる時代は、教会が支配する中世ヨーロッパの雰囲気。教会に関わる者たちが財を成し、一般市民たちは貧しい思いをしている。神に仕える教会の奴はなんとも嫌~な奴が多い。自分が一番かわいいと思っている奴らばかりだからだ。だからこそ、天使たちに利用され、駒として粛清のたびに使われている。粛清を自分の力で起こしていると勘違いすることで、その人間はつけあがり、ますます天使たちにとって扱いやすい人間となる…悪の典型みたいなやつらだ。

なぜ簡単に人の命を奪うことができるのか…それは、物語の後半になるにつれ、世界がそういうつくりならしょうがないかも…とは思えてくる。それでも、当事者からしてみれば、自分の存在が何であれ、たまったもんじゃない。大昔の世界においても、同じようにそういう無慈悲なことは行われていたわけで、リアルだろうが仮想空間だろうが、やっぱり人間のやることっていうのは、同じようなことなのかもしれない。自分が生きてさえいればいいと思うのかもしれない。

アウィンもまた不幸というかなんというか…人殺しをしたくないが、せざるを得なくなっているせつなさ。ただ自分の庭を守って生きていきたかった。それだけだったのに、ヴィーデとともに世界の秩序を覆すなんて仕事を背負わされることになる。憎しみに生きたくないという理性と、憎しみのままに邪魔するものを殺したいと思う欲望…人間の感情というのは、一言で説明がつかないことばかりだ。アウィンが導き出す答えは何なのか。それはもうだいたい見えてはいて、ヴィーデ(マリア)を救いたいというところまで行ってくれるのだろう。彼の見つける答え、そしてどのような結末を迎えるのか。物語はもう終盤に差し掛かっていて、アウィンのできることよりも、天使たちやヴィーデが何を選ぶのかということのウェイトがかなり大きくなっている。

世界の真実

ヴィーデは何度もマリィたちやほかの人間たちを生き返らせてきた。これは悪魔であるがゆえにできる能力とされていたが、かなり違和感のあるもの。悪魔という立場でそれをやっていいのかということや、それなら何度失敗しても簡単にやり直せるじゃないかということ。秩序はすでに狂っている。人の命の重みってやつが全然伝わってこないじゃないか。

しかし、本当の理由がちゃんと別にあったことには、素直に感動した。実はこの世界が仮想空間であり、生き残りの本当の現実世界の人間たちによってつくられた世界であったという真実…だから、ヴィーデや天使たちの使う魔法とやらは、ホログラムみたいな感じになったんだね…物語の最初から、世界はもう決まっていたというこの驚き。改め読み返したときの、ヴィーデの悲しみや、天使たちの行動の意味。これがつながったときは相当感動することだろう。

どうやら、この仮想空間では現実の世界の何百倍も速く時が経つらしい。現実世界では諸々の事情により、美しき自然を失った砂の国らしい。だからこそ、あらゆる存在がこの世界を「箱庭」と読んだわけだ。知能と科学技術の発達した現実世界に生きる、数少ない人間たちが天使と呼ばれる存在とヴィーデ(マリア)…この世界観、好きな人はかなりゾクゾクするのではないだろうか。私自身、いろいろな情報に触れる中で、今私たちが信じているこの世界は実はバーチャル空間なのではないだろうか、といった仮説や、世界は物質ではない別のものでつながっているとする仮説などに触れることがある。それが、この漫画と絶妙にリンクして、もしかしたらそうなのかもしれない…と考えてしまう自分にも出会う。だからといって、自分にできることは大してないのだが…物の見方を変えてくれる、かなりおもしろいアイディアだろう。

結局はプログラミングの闘い

この箱庭争奪戦は、結局はマリアとウルの闘いであった。人間が好き勝手に生きたことによって自然のなくなってしまった現実世界。バーチャルでもいいから自然を取り戻そうとしたマリアの姉。それを応援していたはずのウル。いったいどういう終着点にたどり着くのだろうか…結局プログラムの世界に、平和にアウィンたちが生きることができるのだろうか…マリアとその他の天使たちは幸せになれるのだろうか…?

遠くない未来に、バーチャルにおける争いは少なからず起こる気がしてならない。同じように、能力の奪い合いになるのではないだろうか。そんな未来への危機感も含めて、ハラハラする物語になってきている。もはやアウィンたちは一時おいて置き、マリアとウルで話をつけなければならないだろう。自然は少なくとも現時点よりもなくなってしまうのだろう。そして別の何か人工的なものの中に代用を求めるようになる。何が「自然」で何が「人工」であるかもわからなくなり、どちらにも優劣がつけがたくなり、結局はそれでいいと思ってしまう…。そうやって、何かを手に入れるたび、何かを失っていくのかもしれない。

人工知能が取りざたされる中で、この7thGARDENみたいな状況って絶対起こる。データ化されていたとしても、感情があって、温度があって、匂いがある世界が、近い将来そこに確実にあるのだろう。

ここからの展開

物語の終わりは実に予想しづらい。何しろ、なんでもアリの世界だからだ。心さえ許せば、この局面に来てもなおまだまだどんでん返しが起こるに違いない。それでも、アウィンたちの生きる世界がなくならないことを、切に願うばかりである。データだからどうにでもなると言われればそれまでだが、「生きていること」とはどういうことかを、それなりに考えさせてくれる終わりであることを願いたい。

なぜウルが恋人の遺したこの世界にこだわるのか、そして天使としての活動に何の意味があるのか、一番大事なところは単行本ではまだおあずけをくらっているし、まだまだドキドキ展開が続きそうだ。仲間を大切に想う気持ちと、何かを成そうとする強い意志のあるウル。もはやだれが悪いのか、何がどうなっているのかも複雑になってきてしまったが、たどりつく答えが笑顔を作り出すものであるようにしてもらいたいものだ。

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何が真実なのかまったくわからない展開に踊らされる

美しすぎる登場人物かの有名な「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」を描いた泉光先生。その先生が描く美しき“箱庭”の世界。7thGARDENは神様の粛清に従うしかない人間が、悪魔と共にどう反旗を翻すのか?この狭い箱庭の中で、悪魔の力を手にした人間がいったい何を起こしてくれるのか?そんな始まり方をします。その道は正しき道ではないかもしれない。それでも自分の小さな世界を守ろうとするアウィン。彼の苦悩、憎しみ、葛藤、そして希望。その1つ1つがとてもリアルで、他人事ではない気持ちにさせてくれる、緊迫感を感じます。なんといっても、登場人物たちはかわいく美しい。アウィンのあの三つ編み、わざとなのでしょうが、かっこいい男子にこういうアクセントが加わっているとますますかっこいいですよね…。ヴィーデ(マリア)は、最初の登場の時のあのツタに捕らえられた美しさ…秀逸でした。そのあと胸がでかすぎてバランスおかしいとき...この感想を読む

4.54.5
  • betrayerbetrayer
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