何が真実なのかまったくわからない展開に踊らされる
美しすぎる登場人物
かの有名な「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」を描いた泉光先生。その先生が描く美しき“箱庭”の世界。7thGARDENは神様の粛清に従うしかない人間が、悪魔と共にどう反旗を翻すのか?この狭い箱庭の中で、悪魔の力を手にした人間がいったい何を起こしてくれるのか?そんな始まり方をします。その道は正しき道ではないかもしれない。それでも自分の小さな世界を守ろうとするアウィン。彼の苦悩、憎しみ、葛藤、そして希望。その1つ1つがとてもリアルで、他人事ではない気持ちにさせてくれる、緊迫感を感じます。
なんといっても、登場人物たちはかわいく美しい。アウィンのあの三つ編み、わざとなのでしょうが、かっこいい男子にこういうアクセントが加わっているとますますかっこいいですよね…。ヴィーデ(マリア)は、最初の登場の時のあのツタに捕らえられた美しさ…秀逸でした。そのあと胸がでかすぎてバランスおかしいときがあったのが残念でしたが…その後は全体として落ち着いてくれました。
GARDENの名の通り、「庭」がとても意識されている作品なので、人物のうまさもありますが、風景や、草木の描写の細かさが光っています。それに加えてうまく表現されているのが、人間の表と裏ですね。激情する心と、平穏な心。その切り替えが絵的にもわかりやすく、美しいし、気持ちがぐっと伝わってきます。アウィンの中に眠る憎しみだけが大きくなっていくのかと思いきや、ヴィーデの中に眠るものも徐々に解き明かされ、そして複雑に絡み合い、この世界が本当に「箱庭」であったことに気づかされていくのです。
罪なき人々の死
教会が支配するアウィンの生きる時代。教会に関係する者のみが潤い、一般市民たちにはモノの行き届かない貧しい世界…ちょっと前の中世ヨーロッパがもとになっているような世界です。そこでは、神に仕える者が天使様の導きのもとに行動し、粛清が必要だと天使が言えば、そのままに村や人、すべてを葬る。嫌な世界ですが、実際にそうやって昔の偉い人たちは国を支配していたからね。何とも言えない気持ちになりますよ。
そんな世界で父親を、母親を失い、やっと自分だけの生きる場所を手に入れたアウィンだったわけですが、幸か不幸かヴィーデを見つけ、彼女と共にこの世界の秩序を覆す義務を負わされます。人殺しはしたくないアウィンと、殺すことをいとわず憎しみのままに行動せよとせまるヴィーデ。アウィンがどうこの状況と向き合い、どのような答えを見つけ、世界をどう変えていくのか。そういう部分が描かれるんだろうなと読みはじめでは思っていました。ところが、これだけで終わらないのがこの漫画のすごいところだったわけです。まさか、この世界そのものが真実ではないというところにたどり着くとは…恐れ入りました。
大切な人を守りたいだけなのに、自分の中に生まれる悪魔の気持ちと葛藤しながら戦っていくアウィン。そして、アウィンを利用して6人の天使を引きずり下ろすことだけを生きがいとしながら、心の中で「マリア」という優しき人格も持ち合わせ、葛藤する悪魔ヴィーデ。立場的にまったく違う2人が、心に持っているものはほとんど同じだったりする。人間が天使・神様になろうなんてところがもうおかしいんじゃないかなって考えさせられます。欲望がある限り、超越した存在にはなれないよね。
何度でも再生する違和感
ヴィーデがわりと何回でもマリィとかそのほかの人たちを生き返らせるじゃないですか。すでにルール違反なんじゃないの?生き返りがありなら、もはや何でもありでしょう?って思ってました。そんなに人の命を簡単に再生できたのでは、重みがどうのこうのって話もないじゃないですか。ところがその事象にはちゃんと理由があった。ヴィーデやそのほかの天使たちが特別な魔法を持っているんじゃない。この世界自体がバーチャルだったということ…これを知ったときは衝撃でしたね。すべての違和感がぴったりとつながっていきましたから。
現実の世界の何百倍も速く時が経つこの仮想空間。現実世界で失った美しき自然を表現することに成功したこのバーチャルの世界。だからみんなこの世界を「箱庭」と呼んだんだなーって納得させられます。殺されるときの描写や、アウィンが殺されかけたときの体のホログラムモザイクみたいな描写、ヴィーデがつくる空間の謎…すべてがあっさりと説明がつきますね。
そして、ヴィーデやウルなど、天使たちは人間なんだっていうこと。ものすごい知能・科学技術の発達した現実世界に生きる数少ない人間。この箱庭を取り戻すということは、マリアの姉の創った世界を取り戻すということ…まさかそんなところにつながっているとは、まったく予想のつかない展開でした。最終的には、プログラミングの闘いだったわけですよ。他の天使たちより群を抜いて頭がいいのがウルペースとマリア。結局はこの二人の争いなんですよね。姉を失った・恋人を失ったという点で、同じ気持ちを共有できるはずなのに…どこにオチを持ってくるのでしょうか。天使たちも、憎しみだけがあるのではないってことがわかってきて、もはや何が正義で何が悪であったかも説明ができない。
もはや未来の縮図に思えてくる世界
このまま人間が好き勝手に生きていったら、きっと自然は少なくとも今よりはなくなってしまうのでしょうね。そして、バーチャルな世界や他の惑星を求めるようになる。現実世界で手に入らなくても、手に入ったような気持ちにさせてくれる場所があれば、それは満足であると言えるのでしょうか。近い将来、そういう悩みが出てきてもおかしくないでしょうね。現に、バーチャルリアリティーを楽しむゲームは世にどんどん出されてきているし、人間がどう生きていくのかとか、未来をどう考えていくのかとか、そういったことをたくさん考えなきゃならない時代になってきているのかもしれません。
ただ壊す・創り直すという世界ではなく、ちゃんと干渉しなきゃならないっていうのが妙にリアルですよね。人工知能に意思があって、データ化された人間一人一人に記憶はなくても感情があって…そういう世界をコントロールしようと思ったら、ただデータを操作するとかじゃなくて、実際に干渉したうえでのコントロールが必要になるっていう設定。うん、絶対ありそう。
残された謎に迫る今後の展開
まだまだこの物語の終焉がどのような形になるのかは予想がつきませんが、この世界を消し去るなんていう残虐非道なところにはたどり着かないことを願います…アウィンがいない世界なんて…いや、最初からその人格で存在していたわけではなく、ただのデータだったんだろうけどさ、それでも意思あるモノが無残に散っていくところなんて見たくないよね。
ウルがなぜこの世界に固執し天使としての統一を進めるのか?それもまだ理由が明らかにはされていません。ロキに比べれば、わりとまともな考えをしてそうですが、その分危ない感じもはらんでいます。頭がよく、仲間を大事にしながらも、自分の目的とするところへ到達するために手段を選ばないという決意が感じられるというか。対極にいる人物からしてみれば、最も厄介でしょうね。正論だろうし、太刀打ちしにくいタイプと言えるでしょう。ヴィーデも最も恐れている人物ですから。
そして、ヴィーデ(マリア)とそのほかの天使たちがどうなっていくのか。協力するのか、裏切るのか、何に到達しようとしているのか…できれば、アウィンの信じる道が、どうか残ってほしいですね。
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