働く女性の葛藤 - 燃えつきるまでの感想

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燃えつきるまで

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働く女性の葛藤

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文章力
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ストーリー
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キャラクター
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演出
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目次

主人公怜子に時代を感じた

本作品は、主人公が失恋を経験し、それを乗り越えるストーリーとなっています。

恋も仕事もバリバリやってきたアラサー主人公が、ある日突然、五年間付き合った恋人に別れを告げられる。そこから物語は始まります。

この作品は15年前に出版されたもので、アラサーの晩婚が社会問題化している今読んでみると、「そんなに悠長に構えていないで、さっさと結婚すればよかったのに…」とつい思ってしまいます。

主人公の怜子は「結婚は35歳くらいでいい。それから出産も考えればいい。今は仕事が大事」と考えて、恋人の耕一郎のプロポーズを一回断ってしまいます。

このような女性は少し前には結構いたな、と思いました。

今女性はまた、早婚ではありませんが、25歳くらいに結婚して、20代で子供を産む考え方になってきているようです。

30代からの婚活は大変だ、という事が、メディアを通して一般的な見方となっているからでしょう。今なかなか結婚、出産は35歳からでいいという人はいないんじゃないでしょうか。

もちろん現在にも怜子のような女性はいるでしょう。

しかし、堂々と仕事と結婚を秤にかけるような女性は、数年前に比べて減っているのではないでしょうか。

怜子の女性像は、男女雇用機会均等法が落ち着いた世代の、恋か仕事か選ばなければならなかった女性達の、象徴のように思えました。

恋は裏切るけど、仕事は裏切らないの嘘

作品の前半部分では、耕一郎との恋が終わり、ボロボロになっていく怜子。後半では恋人に嫌がらせ行為をし、そこから復活していく怜子の姿が描かれています。

こういった作品では、仕事に打ち込んで恋人を忘れていったり、仕事が上手くいってハッピーエンドのような救済措置がとられることもしばしばです。

しかし、仕事面でも恋愛のゴタゴタから怜子はミスを連発し、大事にしていた職場でも信用を失っていきます。

その過程は読んでいて痛々しくなる程です。本当に救いようがありません。

しかし、そこがご都合主義的でない分、リアルだったと思います。

失恋から情緒不安定になり、仕事に支障が出ることも女性にありがちだと思います。

若ければ立ち直りも早いでしょうが、30歳にして結婚を考えていた男性に去られてはなおさらです。

作中でも、若い後輩や男性社員の「結婚しないの?」という視線に臆せず仕事に打ち込むことができたのは、恋人がいたから、という怜子の述懐がありますが、これは本当だと思います。

こうした怜子の気持ちに共感できる分、一層「プロポーズの時に結婚しておけば」という後悔も分かりますし、失恋の痛みも同じように味わって読むことができました。

後悔はやや説明不足な印象

後半では、友人だと思っていた真樹子の裏切りとも取れる、嫌がらせが明らかになってきます。

もともと前半部分から、耕一郎の新しい恋人の情報を、怜子に逐一報告したり、不愉快感のあるキャラクターでした。

しかし、ちょっと鈍感なのかと思っていたら、まさか悪意があったとは…。

しかし、この辺りの種明かしはちょっと駆け足だったかなと思います。なにしろ真樹子の旦那が電話でちょっと謝るくらいで明かされているので…。

怜子が仕事に支障をきたしたり、耕一郎に嫌がらせするほど情緒不安定になってしまったのは、度重なる真樹子の連絡によるものです。

だとすると、もうちょっと真樹子側の話が書かれていてもよかったかなと思います。

真樹子が家庭に不満を持っていたことや、専業主婦に飽きていたこと。そして怜子への嫉妬。

この辺りは旦那のセリフで語られてしまいましたが、これではちょっと説得力に欠けるかなと感じました。

ラストにはやはり懲りもせず、挑戦的なメールを怜子に送り付ける真樹子ですが、復活した怜子に流されていて、この辺りは爽快感のあるラストになっていました。

結婚か、仕事か。二極的な思考を経て現代へ

この作品には、様々な進路を選んだ女性達が登場します。

仕事をすっかり辞めて専業主婦に収まる者。恋は全く眼中になく、キャリアアップを目指す者。何となく仕事はしているけれど、女性の出世は難しいと感じている者。主婦に倦怠感を感じている者…。

この中には、仕事をしながら家事や子育てをしている既婚女性は登場しません。

現在では女性の労働環境は変化し、以前のように、結婚を取るか、仕事を取るかの考え方から、結婚出産しても働く選択肢も増えました。

また、女性がバリバリ働きたいと思えるほど景気は良くなく、積極的に結婚したいという女性が増えました。

そのため、一時期の女性誌や女性向けの小説が、女性のキャリアアップを殊更に主張していたのも今は昔、現在では婚活ブームがやってきています。この作品はその少し手前の時代を描いていると思いました。

この作品の一連のテーマを読み、働く女性の環境の変化を感じました。一世代前の人々の悩み、考えていた事に、共感もあり、懐かしさも感じる内容でした。

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