小日向文世氏の存在で、自己成長モノの枠を超えた作品 - 非・バランスの感想

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非・バランス

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小日向文世氏の存在で、自己成長モノの枠を超えた作品

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脚本
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演出
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目次

ストーリーはいわゆる「自己成長モノ」

小説を原作とした作品で、ストーリはいわゆる自己成長モノです。小学校時代のいじめをきっかけに、周囲に心を閉ざしてしまったヒロインの心の成長が描かれています。テーマは決して目新しいものではありませんし、人との出会いで主人公が成長していくと言う内容も、よくあるストーリで、陳腐とすら言えるかもしれません。ところが、小日向文世と言う俳優を起用することで、この作品には奇跡が起きています。

小日向文世のオカマ役が光る!

原作では女子高生のヒロインが、OLと知り合うことで成長して行きます。ですが、映画化に当たり、OLの設定だった登場人物が、オカマバーのママと言う設定に変更されました。小日向文世氏が演じる「オカマのキクちゃん」です。

映画の中では、クラスに溶け込めないことでマイノリティーとして生きざるを得ない少女が、オカマであることでマイノリティーとして生きざるを得ないキクちゃんと交流を深める様子が、丁寧に描かれていきます。

小日向文世氏が演じる「オカマのキクちゃん」は、決して美しいニューハーフではなく、世間の多くの人が「気持ちが悪いオカマ」と感じるであろうタイプのオカマです。しかも、もう若くはない中年のおじさんです。

しかし、それがいいのです。キクちゃんは中年のさえないおじさんで、気持ち悪いオカマですが、オカマ仲間たちと一緒に、自分らしさを大切に一所懸命生きています。辛い恋をしていますが、恋もとても大切にしています。確か、小日向氏は初主演ではなかったでしょうか。当時はそれほど知名度も高くはない俳優でしたが、オカマの日常を活き活きと演じています。

物語の中で、キクちゃんの生き様が、友達を作ることをかたくなに拒んでいたヒロインの心に変化をもたらして行きます。最初は反発していたヒロインが、徐々にキクちゃんに信頼を寄せるようになって行く様子の描写が必須の内容です。

ですが、ヒロイン役を務めるのは、今作でデビューした、派谷恵美と言う全くの新人です。新人なので演技が固く、周囲から孤立している様子を表現しなければならない物語前半では、そこがプラスに作用しているのですが、キクちゃんやオカマのお姉さんたちと距離を縮めて行かなければならない後半に差し掛かると、派谷さんが上手く雰囲気を出せず、撮影が進まなくなる場面もあったようです。

演技経験のない少女が、よく知らないおじさんたちを相手に「友達と遊んでいるときみたいに、わいわいキャッキャやって見せて」と言われても、相当難しかったであろうことは容易に想像できます。

そこで、小日向氏が撮影以外の場で、リアルに派谷さんとコミュニケーションを深めることで、作中に見られる自然な雰囲気を引き出したそうです。そうした役割をこなせるのは、さすがベテラン俳優と言ったところでしょう。

小日向氏の尽力により、ストーリーが進むにつれて派谷さんの表情が柔らかくなって行くのも、見どころの一つです。画面の中のヒロインとキクちゃんは、まるで本当の親友のようで、最初事情を知らずに観たときは、「どうやって、こんな自然な表情を新人から引き出したのだろう?」と思ったものでした。

ヒロインのキャスティングも素晴らしい!

ヒロインに素人同然の新人をキャンスティングしたことも、作品の魅力になっています。ヒロインはクラスに馴染めない、いわゆるいじめられっこで、いつも孤立していますが、新人ならではのアウェイ感が画面ににじみ出ることで、ヒロインの立場や心境を上手く表現しているのです。

実際、撮影中は「行きたいライブがあるのに撮影が忙しくて行けない」など、ずいぶん不満もあったようですが、その辺りの実際の心境も、ヒロインの「学校なんかくだらない。友達なんかくだらない」と言う雰囲気を表す上で活きています。

その他、キクちゃんのバーで働くニューハーフ役に、ニューハーフタレントとして活躍するTOMATOさんが起用されるなど、どの登場人物もキャスティングが見事にはまっていました。

使用される音楽も、ラストの余韻をさらに引き立てています。映像も、素人の私は上手く表現できませんが、とても計算された映像のように感じます。何かを暗示するかのようなタイミングで変わる信号が、印象的でした。

映画なので生のお芝居とは違い、当然ながらセリフも映像も毎回、全く同じです。ですが、1回観てしばらく反芻した後、どうしても再度スクリーンで観たくなり、もう一度劇場に足を運び、結局最終的に、4回も観に行ってしまいました。そして、観る回数に比例して登場人物への理解が深まって行く分、観るたびに見え方が変わって行きました。

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