史上初の推理小説、誰にも裁けない犯人 - モルグ街の殺人の感想

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モルグ街の殺人

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史上初の推理小説、誰にも裁けない犯人

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目次

探偵は、変わり者の世捨て人

名家の血を引く貧乏貴族のオーギュスト・デュパンと名前の存在しない語り手は暗黒の夜を愛し、人里離れた田舎に屋敷を借りて暮らしていた。そんなある時新聞記事にてモルグ街で何とも奇妙な殺人事件が起こったことを知る。ある家に住む夫人と娘があまりにも惨い方法にて惨殺、悲鳴を聞き屋敷に飛び込んできた数人の男たちは言い争う二人の人間の声を聞くがフランス語だった、イタリア語だった、ロシア語だったと証言はバラバラ。物取りの犯行ではない、警察もこの奇怪で恐ろしい事件の解決を急いではいるが犯人像が掴めず苦戦している。その記事を目にしたデュパンと語り手は実際に事件の起きた屋敷へと行きこの難事件の真相を究明していく。

この小説は1941年に発表された史上初の推理小説であり密室殺人事件。オーギュスト・デュパンは天才的な分析力と推理力を持った男でのちに生まれる世界的に有名な名探偵・シャーロックホームズの生みの親、アーサー・コナン・ドイルもパクった…踏襲されたほど天才的な探偵を初めて生んだ作品とも言える。江戸川乱歩曰く「ポーが探偵小説を発明していなければ、恐らくドイルは生まれなかったであろう。随ってチェスタトンもなく、その後の優れた作家たちも探偵小説を書かなかったか、あるいは書いたとしても、例えばディケンズなどの系統のまったく形の違ったものになっていたであろう」と言うほど。推理小説に革命を起こしたとも言える。警察よりも探偵を引き立てるという今では当たり前に見る設定もポーが生んだもの。

その生涯まで文学作品

エドガー・アラン・ポーは言わずと知れた世界的に有名な小説家。生まれはアメリカ合衆国のマサチューセッツ州ボストン市。両親は旅役者で女優エリザベス・ポーと俳優デイヴィッド・ポーの次男として生まれた。父はその後ある時突然家族を捨て失踪、母は長女を生んだその後結核を患い他界。両親を亡くしたポーは両親と親交のあったアラン家に引き取られる、引き取ったジョン・アランはタバコや織物、小麦、墓石から奴隷まで幅広い商品を扱う成功した輸入業者だった。ヴァージニア大学に入学後金に困りトランプ賭博に手を出し借金を抱えてしまい大学を辞める。その後はバイトをして稼ぎ入隊と波乱の青年期を送る。短編小説を書き始めたのは23歳の頃、それからというもの小説は売れ始めていき収入も安定していく。ポーは雑誌の編集に携わりながら多忙な日々を送る中初めての結婚は26歳、妻のヴァージニアはまだ結婚不可能な13歳1ヶ月。うら若すぎる少女との結婚とは衝撃。そのヴァージニアものちに結核を患いそのことに気を取られて酒に溺れる日々となり編集者の地位を奪われ退職。それからは過去の栄光が嘘のように徐々に収入が減っていきヴァージニアは貧苦の最中に死去。二度目の結婚は青年期に恋人で未亡人となっていたエルマイラ・ロイスターと再婚。ところが結婚式を間近に控えた1849年10月、異常な泥酔状態になっているポーを旧知の文学者が発見し病院へ運んだが4日間の危篤状態の後に帰らぬ人となった。でもこのポーの死も不可解なことが多く、まずポーは何故か発見時には他人の服を着ていた、会話も出来ない状態になるまで泥酔していた理由も不明。死の前夜には「レイノルズ」という名前を繰り返しうわ言のように呼んでいたなど…。まるで一本の推理小説が書けそうな最期、死の真相もポーの死亡証明書を含める診断書が全て紛失してしまっていることから未だに謎。アルコール中毒、コレラ、狂犬病、梅毒、てんかん、心臓病などと死因が推測されているだけで真実は分からぬまま、名を残す小説家とはどうしてこうも最期まで謎なのかと共通点に疑問が浮かぶ。ポーの未解決の死因と理由は誰も謎が解けない、「早すぎた埋葬」になっていなければいいけど。

誰も裁けない犯人

史上初の推理小説であるこの小説を読んだ時、明らかに人の犯行ではないなと予想がすぐに出来た。暖炉の中の中央辺りに引っ掛かるようにして遺体がある、髪の毛が頭皮ごと引っこ抜かれている、気をつけなければ頭がぽろっと取れてしまいそうなほどギリギリに切断された首、引っ掻き傷等、狂人の犯行だとしてもここまでのことを人の力では出来ないとは誰でも予想出来る。これでもし人の犯行だったら恐ろしすぎるけれど予想通り犯人は水夫が売買目的に連れて来た猩々、オラウータンだったと分かった時はある意味度肝を抜かれた。言葉も話せず殺意もないオラウータンなど誰も裁けない…。そのオラウータンの最後は植物園に売り飛ばされてしまうというのは何とも可哀想。この話の中でオラウータンは殺人犯かもしれないけれどのびのびと生きていたボルネオ島から金の為に誘拐され遠くパリに連れて来られ、しつけの為と鞭を打たれて狭い檻に閉じ込められて自由を奪われる。殺すつもりなんて全くなかっただろうに夫人の悲鳴に恐怖から興奮し不本意に夫人と娘を殺してしまっただけ、オラウータンが誰よりも可哀想でただ不憫。

史上初の推理小説と言われていただけに期待して読み進め起こった難解な殺人事件のトリックをどう解いていくのかとわくわくして読んだが結果はまさかの人間じゃないというオチ。現代では予想出来ないトリックと殺人を描く推理小説が多く目が肥えている現代人がこれを読むと寧ろ笑ってしまうのでは?

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