リアルさを追求したドラマ
リアルな悩み
主人公の設定年齢は26歳ですが、これがもし今現在放送されるドラマなら、女性がこれからどう生きていくか、ということを考える分岐点として設定される年齢はもっと上でしょう。
でもその悩む内容に関してはさほど変化はないと思われます。毎日淡々と続く仕事に耐える日々、男性と同じ出世を目指すならそれなりの覚悟が必要で、心のどこかで結婚への漠然としたあこがれがあり、明日食べるものに困るというような危機があるわけではないが、自分がどうしたいのかよく分からないまま流されていくことへの不安、を持つ年代の女性3人が、何か特別な存在なのではなく、自分の中に同じ部分を見つけられるような、リアルさに惹きつけられた視聴者が多かったのではないでしょうか。
登場人物がみんなそれぞれ持っている悩みをチラチラと見せるやり方は、ストーリーを決して明るくはしませんが、自分と同じだ、という身近さを伝える手段としては最高の効果があると思います。
そんなモヤモヤした悩みを語るナレーションの深津絵里の声がとても心地よいものでした。各話の疑問詞が入るサブタイトルも自分に語りかけてくるように感じ、ドラマを見始める前にも、見終わった後にも、ふっと考えさせられる時間を与えてくれました。
またドラマによっては、この人の両親はどんな人で、どんな家庭で育ち、兄弟は何人で、などという背景がまったく出てこなかったり、想像しづらい場合がありますが、この作品は家庭環境が細かく設定されていることが、彼女たちの悩みのリアルさをより引き立たせるための材料になっています。
主人公深美が3姉妹の真ん中というのは、よくいえば手がかからず、やや手薄な子育てで成長した感があり、友達の悩みの共有度が高いことも納得ですし、しっかり者の千津が甘えん坊タイプの彼氏で苦労するのは、あの父親と田舎で暮らしてきた日々から想像でき、次子の暗さは兄を亡くしたことと、両親に期待されなかったことからくるものだと深くうなずけるようにつくられています。
夫婦の悩み
悩みの中でも啓介の悩む姿はこちらの胃が痛くなりそうな切なさがありました。上司のいびりによってエリートの誇りをこれでもかと傷つけられ、しまいには会社の中で人間開発室という壁に囲まれた部屋で何もせず一日過ごすというショッキングな映像は忘れられません。
でもあの環境で彼が悩まないほうがおかしいわけで、ある意味当然だと思うのですが、そんな夫を支える直美という女性に焦点を当てるとなかなかかわいそうな設定であったことに気付きます。
まず社会人として働いた経験がない点から、夫を理解するのは無理という前提でキャラクターがつくられています。だから夫のことを心配しているのに、助けたくて仕方ないのに、「無理しないで」なんていう言葉をかけたり、夫の業績のためにマンションを買う人を探すのに両親のコネを使ったりして、無意識に啓介の神経を逆なでする役目をこの妻に背負わせています。見ている側はその意図通りイライラしますが、そもそもオレの気持ちなど分かるはずがないと思って夫が妻に打ち明けないのですから、彼女に分かるはずもないのです。
しかもその夫の悩みは別の女性に吐き出すことはできていた、と知ったら、私は一体あなたの何?という気持ちになって当然だと思うのですが、すぐに爆発するタイプではない、この直美を奥貫薫が見事に演じていたと思います。
働くということ
いびり役の嫌な上司として登場する片山のような人間がいる、今まで忠実に働いてきた社員に仕事を与えないというやり方で辞めさせる会社がある、次子を女子社員という目でしか見ない上司や取引先もいる、これらをひどい上司、ひどい会社と片付けるのはただ一方向からしか物事を見ていないだけだということを教えられた気がします。見る角度を変えれば、ご飯を食べさせてくれる、洗濯してくれる実家にいながら働いているOLに対する、生きがいなどを考える余地もなく必死で働いている大人の視線が厳しくても当たり前です。
第3回で、ろくに働きもしないOLが生きがいとか夢とか言うな、と怒った片山も、愚痴を言った後に片山に怒られた3人も、社会という大きな枠で囲まれた中に混在していて当然なのだ、社会で働くというのはそういうことだ、ということにドラマ終盤になって気が付きました。
仕事を辞めて家を出た啓介がしばらくして、今すごく働きたいんだ、と口にするシーンがあります。その言葉は自分にはこういう仕事がまかされるはずだ、と無意識に思っていたエリート街道まっしぐらだった今までの彼の口からは出てこなかった言葉かもしれません。あの壁に囲まれた無意味な時間を過ごしたからこそ、たとえどんな仕事でも全力で向かっている自分を取り戻したいという気持ちになったのではないでしょうか。このセリフを聞いて、働きたいという欲求は、食欲とか睡眠と同じように本能として人間に備わっているものなのかもしれないと思いました。
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