アニメでこそ輝いた名作、『だぁ!だぁ!だぁ!』
原作を完全に無視してでも、スタッフが作りたかった面白さ。
この作品の原作は少女漫画。さらに幼い児童向けのラブコメである。
一見すると、とても全年齢向けとは思えない。
実際に原作を読んでみると、まさしくその通りの印象を受けた。
ありきたりな女性主人公の元に訪れるイケメン同級生。そして宇宙からやってきた赤ちゃんと猫型ベビーシッター。
描かれているのは明らかに子供向けで、さらに連載がかなり昔であることも含めて、昨今の少女漫画にある恋愛描写と比べると、どうしても古臭く、レベルの低いものと感じられる。
しかし、アニメになると、それが一変する。
当然のように面白さを特化させ、原作で語られるエピソードの何倍もの放送機会をオリジナル演出とストーリーで補っている。
そこで生まれるのが、アニメ独自の面白さである。
作画スタッフが非常に良く、セル画時代の後半、つまり最盛期の良さを引き出している。
ストーリーも非常に素晴らしい。
『オリジナルだから抑えよう』。という発想が25話以降はほぼ無くなっている。
オリジナルキャラが出てくるのは当たり前。設定もどんどん誇張され、あるいは淘汰され、原作とはかけ離れた魅力を作り出していく。
その結果、『恋愛』という所から徐々に離れつつ、適度に主人公たちの恋愛未満のときめきを描く物の、その大半は完全にギャグアニメである。
猫型ベビーシッター、『ワンニャー』の変身能力の増大が一番分かりやすい。
原作では大人びた青年を中心に、宇宙人だとばれないように、必要な時以外は変身をしない。
しかし、アニメではかなりの頻度で変身する。
流れ流れであっても、美夢達の学校の文化祭で、暴走した脚本家志望(書き物家志望?)の女の子に言われてくじらになるエピソードなどは、完全にお遊びでストーリーを組み立てている。
しかし、それがこの作品において、原作とアニメ最大の特異点であり、アニメにとって、最も面白い要因になっている。
前期(1話~24,5話)は恋愛的であったそれらが、後期ではそこに行きついた結果、老若男女問わず楽しめる作品になることに成功したのだ。
作品としても、スタッフとしても、声優としても成長するアニメ。
キャラクターにとって、声、声優とは非常に重要なものだ。
実際に今現在は声優志望という若者が増え、アイドル的な扱いや、ワイドショーのナレーションなど、多岐にわたる活動を行う大ベテランたちも、昔言われていた『俳優で食えない劇団員の小遣い稼ぎ』ではなく、立派な職業であり、同時に誇り高い仕事と認識されつつある。
だからこそ、製作スタッフの安易なネームバリューによってキャスティングされたゲスト声優というものに、度々演技の酷さ、ミスキャストと言った批判があちこちで聞こえても来るのだ。
そしてその非難の枠の中に、正直この作品は入ってしまっている。
主人公の未夢(みゆ)と彷徨(かなた)はともに劇団で子役をやっていたものの、本格的な声優、特に主演という形はこの作品が初めてであり、当然演技も最初の頃は褒められるほどでは決してなかった。
脇を固めている声優たちは中堅、ベテランが配置される中、この二人の声だけは『ある意味』、中学二年生という演技(特に彷徨役の三瓶 由布子は実際に同年代の中学二年生の頃に出演している)であった。
しかし後半に入って、その評価は一変している。
慣れ親しんできた作品と声優という仕事。そしてなにより、キャラクターを掴んだのだ。
目に見えて演技の質が変わったのは長編放送アニメにはよくあることかもしれないが、この二人の場合において、自分は一番と言っていいほどに作中で成長したと思っている。
演技でキャラクターのイメージを独自に開拓し、それに合わせた絵をスタッフが用意する。
結果としてさらに演技の中に幅を持たせることができる、そしてさらにスタッフが面白い仕掛けを打つ……。
好循環の中で生まれたのが、後半の見事な演技であり、放送当初とは見比べて、驚くほど深まったキャラクターの魅力に他ならない。
この二人をミスキャストとしてしまった前期を、この二人はきちんと見返したのだ。
今現在も二人は声優として活動しており、度々同じアニメで共演もしている。
今ではすっかり中堅以上を任されることが多くなったが、このアニメの頃と比べると更に素晴らしく、魅力ある声優に成長している。
なお、余談ではあるが、『交響詩篇エウレカセブン』では、この作品と同じように主人公とヒロインを二人が演じている。
今見ても十分に楽しめる。そして成長を追える名作アニメ。
一年枠、4クール枠が珍しくなった昨今。
同時に声優志望が増えた結果、多彩な声を一人の声優が担当するのではなく、そのキャラに一番合う声優を選べるようになった。
けれどその反作用として、『一つのクール内でも成長』、『定期的にアニメで同一声優を見る』ことが難しくなった。
『使い捨て声優』などという表現も聞いた事があるが、なるほど。確かに1クールで主要キャラを新人に任せた後、そのアニメも、その声優も見なくなったというのは今ではよくあることだ。
広くなった声優という枠について、良し悪しをすぐには言い切れないが、このアニメを見て思った事。
声優の成長もまた、一つの魅力なのだなぁ。ということである。
ゆえに、この作品は70話以上で描かれているが、ぜひとも1話からの視聴をお勧めする。
前半はあまり面白いとは言えないが、その分見えてくる『作品の成長』は、他に類を見ないほど深いものがある名作である。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)