下北沢で描かれる大人たちの青春 - 下北サンデーズの感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

下北サンデーズ

3.003.00
文章力
4.00
ストーリー
3.00
キャラクター
3.50
設定
2.50
演出
2.50
感想数
1
読んだ人
2

下北沢で描かれる大人たちの青春

3.03.0
文章力
4.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.5
設定
2.5
演出
2.5

目次

読むだけで、下北沢への憧れや思い入れをいれたくなる作品

舞台はサブカルチャー好きな若者が集まる街・下北沢。下北沢は演劇の街とも言われており、今でも複数ある劇場で劇団が公演を行っています。

そんな下北沢で活動する弱小の貧乏劇団「下北サンデーズ」に、主人公の女の子が入団をしてくることから、この物語の幕が開けます。

主人公・里中ゆいかは大学進学をきっかけに地方から上京してきた女の子。高校時代に下北サンデーズの公演を観て、初めて見る舞台作品に感動したことから劇団の門をたたきます。

そこで待っていたのは、濃すぎるキャラクターの劇団員たちと刺激的な日常生活。鳴かず飛ばずの劇団だった下北サンデーズが、ゆいかが入団してから少しずつ風向きが変わり…というストーリー設定や雰囲気としては他にもよくありそうな青春群像劇です。

実際に有川浩氏の作品の「シアター!」や、ももいろクローバーZのメンバーが主演で実写映画化した「幕が上がる」と似ている、と思われた方もいるでしょう。

この作品の大きな特徴は、下北沢の情景が漂いそうな文章と、そこで過ごす若者(という歳でもないが)たちの演劇に打ち込みながらの貧乏生活がおかしくも甘酸っぱくつづられているところです。

これを読むと、「下北沢に住んでみたい、行ってみたい」「演劇やってみようかな」と思う若者も出てくるでしょうし、過去に下北沢に住んでいた人も懐かしく読むことが出来るのではないでしょうか。

あぁ、こんな青春もいいな、過ごしてみたかったな、と仕事や日常に疲れた時にテンポよく読める作品でした。

完璧すぎる設定の、違和感ありすぎるヒロイン

とにかく個性的で尖った設定のキャラクターが複数人登場するのが本作品の最大の魅力の一つ。ゆえに読んでいて飽きたりすることがなく、演劇だけでなく彼らのエピソードも楽しめます。

しかし、私が読んでいて一番違和感を感じたのが主人公の里中ゆいかです。

グラビアのコンペで無名ながらも準グランプリを受賞するほどの(出来レースなので、グランプリはすでに決まっていたが、ゆいかが投票トップだった)美少女で、しかも学力優秀で偏差値70台の国立大学の理系学部に進学しているのです。おまけに陸上競技で全国大会に出場したこともあるという文武両道の完璧なスペックの持ち主です。

そんな彼女が、大学に入るまで目立たず、なぜ「普通の女の子」として過ごしていたのか?と若干違和感を感じてしまい、その理由がかなりの世間知らずだったから、という設定だけで済まされるのだろうか、というのが私の感想です。

おまけにバージン。まぁ、そこはいいんですけど、今までに言い寄ってくる男子はそれなりにいただろうよ、とツッコミをせざるをえなかったです。文章を読む限りでは、19歳になるまで彼氏すらいたことのないように描かれています。地元の親がかなり厳しかったのだろうか、でもそれなら下北沢の、それもセキュリティが甘すぎるボロアパートに一人で住むことを許すのだろうか、と。作者の、というか世の男性の理想の女の子として描かれているのでしょうか。

地方に住んでいると、ダイヤモンドの原石も埋もれてしまい、東京に来れば美しく磨かれる、ということを作者は描きたかったのだろうか、とも思ってしまいました。(作者は東京出身の方ですが)

彼女は本当に純真で、下北沢に来てからの劇団員との生活は新鮮なものばかり。さびれた居酒屋での食事や、もやしばかりの食事。しかし、それらに嫌悪感も示さずにむしろ楽しんでいる彼女。グラビアがきっかけで、メジャーなアイドルになったあとにも、そのボロアパートに住み続けたいと言います。もちろん却下され、恵比寿の高級マンションに住まわされることになるのですが。ちなみに、この恵比寿という設定もややあからさまに感じてしまい、グラドルになればいいことばかり、と勘違いする若者が増えなければいいのですが。作中ではグラドルになったことでのダークな部分が描かれていないので。

下北サンデーズの名が売れるようになり、演劇で儲かるようになると当然みな浮かれて、他の劇団員たちは「テング」になるのですが、ゆいかは一切そういった言動をしません。人間の心理として、多少思い上がるのは普通だと思うし、通っている大学でも目立つ存在になっただろうに、そういうところが描かれていないせいか、人間味のないキャラクターだな、と思ってしまいました。世間知らずのお嬢様が、演劇を一度観ただけで、弱小の貧乏劇団に入ろうと決心するくらいですから、もともと相当変わっている子、なのかもしれませんがその割に突飛な言動やエピソードは特になかったな、という印象です。

そこまで演劇にかける理由

ドラマ版では、ゆいかが生まれた時から裕福な家庭で育ち、何もかも与えられた生活の中で喜びや楽しみを見いだせなくなった時に、偶然みかけた下北サンデーズの演劇が新鮮で興味をもつ、という設定で分かりやすかったのですが、原作にはそこまで丁寧な描写がなく、いきなり演劇に興味をもった演技素人の女の子がやってくる、で始まります。「ガラスの仮面の」北島マヤのように、天性の演技力があったわけでもなく、何かがきっかけで演技力に目覚める、という描写も印象に残るものではなかったのにどうしてそこまで演劇を続けたいと思ったのだろう。

メジャーな若手女優(しかも物語が終わった後も活躍しているよう)に一気に駆け上がる姿もなんだか現実から離れた筋書きでした。物語の肝になっている演劇ももっと詳細に描かれていたら、ゆいかを始め、劇団員たちが演劇にかける情熱が伝わってきて、読み応えがさらにあったのかな。

でも、結局のところお金もなく未来も見えないけど、奮闘して好きなことに打ち込むこと姿はみていていいものだ、頑張っていたら何かが変わってくるのかも、と小難しいことはおいておいて「大人の青春」を味わうのには素直でいい本だったと思います。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

下北サンデーズを読んだ人はこんな小説も読んでいます

下北サンデーズが好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ